壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい   作:あまぐりムリーパー

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通信師はハイテンション

 久々のシリルがいない仕事だ。久々ってわけでもないか。

 

 シリルとの絡みって数日だったし。……もう一回会おうとしても、この世界は連絡先とかわからないしな。そういえば、通信があるんだけど、特定の誰かにできんのかな。

 

 確か、通信局ってところがあるんだっけな。そこなら、連絡できたりするのかな。……あーでも、一緒に仕事したくない扱いなんだった。

 なんだかな、気持ちがあんまり晴れない。

 

 とりあえず、仕事の方へ向かうか。

 

 今日行くのは教会本部。教会本部ってさ、まあでかい施設なんだけど、王都にあるんだよな。

 そこの教会特区だとか言われてるところにある。あんまり知らないけど。

 だって、この国のこと気にしたことないし、教会関連のことでしか関わりがないからな。

 

 というか、本部しか行ったことがないな。今、住んでるところがそこに近いからなんだろうけど。

 あと、クソ野郎の枢機卿がいるところも本部だからってのもあるけど。

 

 そんなわけで、本部に入ってどこに呼ばれてるのかなと確認しようとすると、不意に手を掴まれた。

 

 驚いて振り向くと、そこには馬車の運転とかあのマシな方の枢機卿とかシリルに会った時にもいたあの神官がいた。

 

「どうもっす!」

 

 にこやかに笑って元気よく声をかけてくる。見た目からして、線が細い男性みたいなイメージだったのに、普通に元気だな。お前、そんなキャラだったの?

 男にしてはちょっと高めの声質……まるでまだ声変りがきていないみたい。

 ……この元気で話されると頭が痛くなりそう。

 

「……どうも」

「もー、元気ないっすね!」

 

 気圧されて、引き気味に返すと、ばしばしと背を叩かれる。……これが今までの俺の距離感のレベルだったりする?

 ……前、この人に案内してもらったことがあるんだけど、その時は敬語だった気がするんだよな。どういう変化?

 

「自分、通信局所属の通信師(オペレーター)、エオスっす!よろしくっす」

「えっ、ああえっと……」

「あっ、紹介しなくてもわかるっすよ!ディオネさんの中に入ってる、ライさんっすよね?」

「……はい」

 

 駄目だ、テンションが高すぎる。どうしたんだお前。

 

「んじゃ、案内するんでこっちっす!」

「わわっ」

 

 そして、手を引かれるまま案内された。強引だな。

 

「……なんか、ライさんテンション低いっすね?」

「あなたが高すぎません?」

 

 外なので、あくまでディオネの面で話す。……あと、距離感を保ちたいし。

 

「ふーん……まっ、いいっすけどね。ライさんって、イェルクさんを笑いながらどついてたんで、すげー人だなって思ってたんすけど」

「うぐっ」

 

 ……距離感がイカレていた過去が追いかけてきている。いや、イェルクは一回殺されてるんだからまあいいか。あいつには強気で行こう。

 

「なんかあったんすか?」

「いや、別に」

「この前の神官くんのこととか?」

「……何もないですよ」

「もーっ、ライさん態度が冷たいっす!」

「おわっ!?」

 

 急に、手を引き寄せられて軽めに抱き締められてる。……なんか思ったよりも柔らかいな。主に、こいつの胸元に当たっている部分が。えっ、女だったの?

 確かに、パッと見た感じどっちかがわからないんだけど。

 

 こいつの方が距離感がおかしいんじゃない?

 

「……やっぱり、いい匂いっすよね。ふわ~ってなってるっす」

「うわ、気持ち悪」

「おっ、ようやく素が出たっすねー」

「……はあ、もうどいてくれる?」

「ぶー、ディオネさんの体柔らかくて抱き心地いいのに。この体持ってるライさんずるいっすよ」

「いいから離れろ、変態」

「しょうがないっすねー……」

 

 いや、本当になんなんだよ。急に胸元に顔を埋めてきたり、強めに抱き締めたりしてくるので、無理やり引きはがす。

 

「んで、元気は出たっすか?」

 

 スッと、目の前のこいつ――エオスの目が細められる。……意図的にこういうことしてきたってことか?

 

 いや、違うな。そういう目的のついでにセクハラしてきただろ。

 

 セクハラ、セクハラか。今や俺もされる側か。

 

「元気は出ないけど、お前がまあまあやばいやつってのはわかったよ」

「んふふっ」

「何その笑い」

「んふふふふ」

「こえーよ」

 

 妙なテンションのエオスに引っ張られて進んで、一つの部屋の前に来た。

 

 教会本部で案内されたことのある部屋は、普通は人が通れないようなあのクソ野郎のところに通じてるところと、関係者通路みたいな場所を通っていけるマシな方の枢機卿の場所ぐらいしか知らない。

 今回はどっちでもない。どこだ、ここ。

 

「ここは通信局の場所っす」

「通信局、か。なんか神官に命令とか伝えるんだっけ?」

「そうっすよ。ライさんにはやってないっすけど、通信繋ぎながら仕事してもらうこともあるっす」

 

 ……そんなインカムみたいなこともできんの?

 

 そういえば、アクイラが通信は神聖印でやってるって言ってたな。

 

「通信ってどうやってやんの?なんか道具使ってるのは見たけど。そういう神聖印があるの?」

「あー、そういうんじゃないっすね。そもそも、ライさんは神聖印をたぶん自分にしか使ってないっすけどこれって本来、他者に使うものだったんすよ」

 

 他者に?

 そういえば回復とか強化してるし、そっちの方がイメージに合う。

 元々は他人を補助するための力だったけどそれを自分に使って一人でも戦えるようにしてるのか。

 

「ライさんは他人の治癒とかしたことあるっすか?」

「あるよ」

 

 子どもたちを治したときに、そういうことをしたから。知らないうちに呪いみたいなものも壊してたらしいけど。

 

「でもその時って、使う対象を意識してなかったっすよね?これって、本来は対象を選べるんす」

「対象を……?」

「すす」

 

 どういう返事?

 

「対象を選ぶときに、こう力を送るための通路みたいなのができるんすよね。で、そこって本来は神聖印の力とかしか通らないんすけど、声をうまいこと神聖力で固めると通るんすよ」

「声を、神聖力で固める?」

「まあ、イメージしにくいっすよね。そんなもんっす。で、それを声を通すとうまいこと通信ができるってことっすよ」

 

 ……そんな仕組みだったんだ。というか、いまいちよくわからないんだけども。

 

 対象を選ぶ時に通路ができる、か。誰かだけを強化したい!って思うと自然とできるんかな。

 

「じゃあ、あの使ってた道具は?」

「ああ、あれは対象選択の印っすね。誰を対象にするのかっていう目印があれになるっす。一応、声を神聖力で固めるのもそれでできるんで、あれ持ってるだけでできるようになるんすよ」

「なるほど」

 

 つまりは、あれが電話ってことか。

 

 なんて話しながらエオスが、がちゃり……と扉を開けると、そこには誰もいない。……いや、違うな。さらにもう一つ奥に扉があるんだ。

 

 ここは、あくまで人を通す場所か。

 案内された椅子に座る。

 

「まあ、別に通信局関連の仕事があるってわけじゃないっすよ」

「じゃあ、やることって?」

「んー、邪教の件ってあるじゃないっすか。あれで、最近ライさんが襲われたってことで合ってるっすか?」

「合ってるよ」

「それまで邪教のことってあんまわかったんすけど、ライさんの件で特定の服装をしてるってこととか、わかったんすよね。だけど、あいつらの仕組みがいまいちわからなくて」

「……仕組み?」

「あいつらの呪いの方法とかが知りたいってことっすよ」

「……」

 

 なんか、言いにくいな。その、俺がシリルのことを押し倒したこととかって伝わってるのかな。 

 ……それ言わなくても、発情してました~って言える?

 

 言えねえよ!!!

 

「……まあ、たぶん言いにくいのはわかってるっすよ。なので、痕跡だけ見たいっす」

「痕跡?」

「ちょっと待ってくださいね」

 

 変な口調が止まって、俺の二の腕付近に触れた。

 

 何かが、体の中に入ってくる。ほんのりと暖かい。

 

 二の腕の、たぶんあいつらが変な模様をつけていた付近が、何か光ってる。

 

「ふーん、こういうことっすか」

 

 パッと手を離した。

 

「何かわかった?」

「んー、まあなんとなくっすね。悪魔に乗っ取らせるために、色々と工夫した呪いを使ってるみたいっすよ。体を少し異常にさせたりとかっすね」

 

 これ、異常とか言ってるけど、発情させてるやつのことだよな。迷惑だよ、本当に。

 

「その状態になってると、うまく抵抗できなかったり、体がうまく制御できないから体内の神聖力で悪魔を消せないみたいなんすよね」

「……なるほど」

 

 俺の場合、ディオネがいたからなんとかなったんだけどそうじゃなかったらきっと、ろくな目に合わなかった。

 

「まっ、自分が知りたいのはそんなところなんで」

「……今日の仕事は終わりってことか?」

「はいっす。なんか、聞きたいこととかありますか?」

「うーん」

 

 何かあるか。あっ、そうだ。

 

「それ、乗っ取られた神官はどうなるんだ?」

「そりゃあ、好き放題されるっすよ。体を弄ばれて、好きにいじくられるっす」

 

 ……あんま、聞かなくてよかったな。

 聞きたいのはそれぐらいだから、もう帰ろうかな。

 

「あっ、帰るっすか?送るっすよ」

 

 そういえば、こいつ馬車を運転してたな。

 

「別に歩いて帰れるよ」

「あー、そうじゃなくて一瞬で移動できるコツがあるんすよ」

「……コツ?」

「はいっす。そうじゃないと、毎日いろんな村に送ったりとかできないっすよ」

 

 ……言われてみれば、毎日日帰りで移動してたな。それぐらい近いのかと思ってたけど、そうでもない?

 

「ああ、そうだ。最後に、あの神官くんに連絡してみるっすか?」

「えっ、なんの話?」

「シリルくんだっけ、あの少年っすよ」

「……遠慮しておきます」

「そう言わずに!ほら!」

「おいこら、無理やり繋ごうとするな」

 

 俺に、何かを持たせてきた。小さな丸い何かの模様が刻まれた石のようなもの。

 

 これが、通信のアイテムか。持った瞬間に、神聖力が少しだけ吸われていく。待て待て、起動しようとしてないか?

 

『……何?』

 

 シリルの声が、聞こえた。おいおいマジかよ、繋ぎやがった。

 気まずいんだけど。

 

「いや、ごめん。通信局のやつが勝手に繋いできたから切る」

『えっ、待って。ライ?』

「……はい」

 

 くそ、勢いで切れるかなと思ったけど気付くの早すぎるだろ。

 

『……待ってて、ちゃんと守れるようにするから』

 

 聞こえてきたのは柔らかな声色なもので、とても怒ってるとか、嫌われてはなさそうで、よくわからなかった。

 

 通信はそれで切れたみたいで、それ以上何かを聞くこともなかった。

 

「よかったっすね?」

「何が?」

「なんか、嬉しそうなんで」

「……なんつーか、ちょっと安心しただけだから」

 

 嫌われてないなら、まあいいかな。ちゃんと守れるようにするって言葉の意味はようわからんが。

 

「じゃあ、行きますよ!」

 

 結局、そのまま帰ることになって、一瞬で移動できるコツとやらを実践してもらったけど何が起きてるかはわからなかった。

 

「移動したいポイントを、事前に頑張って結んでおけばいけるっす!」

 

 とだけ言って、エオスは帰っていった。

 

『シリルって人がいると、ライさんの心はまだ独り占めできなさそうですかね?』

 

 ……最後に、なんか不穏なディオネの声を聞いて帰った。




TIPS:所属した神官の呼称
祓魔局所属の神官→祓魔師(エクソシスト)
通信局所属の神官→通信師(オペレーター)
治癒局所属の神官→治癒師(ヒーラー)
神罰執行局所属の神官→神罰執行官(インクイジター)
異端殲滅局所属の神官→異端殲滅官(エクスターミネーター)
補助局所属の神官→補助員(サポーター)
など

こういう設定掘り下げ含めた回ではちゃんと説明できているか不安だったり

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