壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい 作:あまぐりムリーパー
シリル、イェルク、エオス、アクイラの四人に今起きていることを話した。
邪教が俺を倒すためによくわからない呪いをかけているだとか、あとはそう……ディオネのこと。
あいつがどうなったのかわからない。でも、呪いを遠くに持って行ったみたいな感じだと思う。……少なくとも、俺のせいで消えたんだろうって。
そういう話をした。だから、せめてここを潰してやれることぐらいはやっておきたいと思ってたけど、イェルクとかいるならもう関係ないし。
……そうやって話し終わると、フッと力が抜けた。アクイラに抱きかかえられている。
「……ディオネさん消えちゃったのマジっすか」
「……」
エオスは驚いて小声で呟いてて、イェルクはなにも言わない。ただ、俺の様子を見つめている。……なんなんだよ、怖いな。
アクイラは、ただ俺を抱き締めて心配そうにしてるみたいだ。
「ごめんね、アクイラ。俺が代わりに消えてればよかったのに」
「……っ」
息を飲む声が聞こえてきた。アクイラの抱き締める力が強くなる。
「……アクイラ?」
「そんなこと、言わないでっ!私は、ライさんにも帰ってきてほしかったんですからっ!」
「……うん」
力なく頷く。そっか、アクイラから思いのほか好かれていた、のかな。俺はそんな好感度稼いだつもりもないのに。なんなら、変な甘え方もしてたのにな。
抱き締める力が緩んだ。まだ、体が本調子じゃないけど、一応立てそうだ。
アクイラから解放されて、ゆっくりと座り込んだ。……まだディオネの喪失感が、心を蝕んでる気がする。
「……えーっと、ちょっと待って。なんかいい感じのところ悪いんだけどさ。ライが聖女ディオネ様の体の中にいる異界人で、そのディオネ様はライを守るために、呪いを抱えてどこかに行ったってこと?」
シリルは、俺のこと知らされてなかったから、一応その内容をかいつまんで話したんだけど、結構混乱してる。……そりゃそうだよな。
なんか、ちょっとだけ気が紛れた。
「そうだよ、ごめんシリル。こんなところまで来させて」
「……ライ、なんか弱々しいね」
「……うん、ごめん」
「調子狂うじゃん。ほら」
そっと出したシリルの手を取って、立ち上がる。
「ありがと。うわっ」
「ちょっと、本当に気を付けて。そうやってすぐ抱きついてきたりするんだから」
「ん、そうかも」
ふらついた体を、シリルに少しだけ支えてもらった。
「……ライ」
「ん、何?いだっ……」
額に軽い衝撃が走る。何これ、デコピンされてる?
「聖女様は完全に消えた訳じゃないんでしょ」
「たぶん。どこかに行ってるんだと思うけど」
「じゃあ、探しに行かないの?いつものライなら、そうしてると思うけど」
「……そっか。そうかもな」
思いっきり、両頬を叩いた。ぱしん、といい音が鳴って頭がゆっくりと覚めていく。
そうだ、ディオネはたぶん消えてない。だから、俺がこんなところでグズグズしてる訳にいかない。
「さんきゅ、目が覚めたわ」
「ならよかったけど。ライも意外と弱々しい女の子なんだね」
「……お前、人をやたらと女の子って枠組みにはめたがるよな」
「人をずっとガキ呼びしてるんだから同じでしょ」
「お前は仕方ないだろ。アクイラも、なんか変なこと言ってごめんな」
「……別に、いいですよ。なーんか、その男の子といい感じになって復活したのは納得いかないですけど」
ぷいっ、と顔を背けながらもアクイラは俺の手をぎゅっと握ってくれる。
……なにこの状況。
「シリルさん、よかったっすねー?」
それをニヤニヤと眺めるエオスと。
「立ち直ったか、ライ」
待っていたと言わんばかりのイェルクがこちらを見つめた。
ちょうど、変なメンツが揃ってるしちょうどいいか。
ディオネを探す、その決心を固めた。
「で、ここの場所でエオスが敵を見つけてイェルクが殲滅したってこと?」
「そうっすねー、そういうの得意なんで」
「じゃあ、ディオネの場所とかわかる?」
「んー、それはきついっすけど。ただ、ライさんを起点にしてうすーく広がってるような?」
「……どゆこと?」
「なんか、存在が拡散してる気がするんすけど」
なんとか、俺が立ち直ってから、みんなに案内される形で移動することになった。奥の方にはディオネがいなさそうだったし、とりあえずこの洞窟……洞窟でいいのか?このアジトの中身を探すってことだ。
どうやら、エオスは索敵というか探索みたいなのが得意な力を持っているらしいけど、その結果によるとディオネの存在が拡散してるんだとか。
拡散、か。
そういえば、夢の中でディオネと出会ったときに小さなたくさんのディオネと出会ったことがある。
ああいう感じだろうか。そういえば、俺の後ろを付いてきてた時もあったっけな。
……もしかして。
「……どうした、ライ」
イェルクが立ち止まって、俺の様子を見つめた。
「ライさん?」
「どうしたんすか?」
「どうしたの、ライ」
いや、みんながこっちを見ている。そりゃそうだ、急に鼻唄を歌いながら歩き出したんだから。
だって、夢の中で泣いてたあいつらを見て、その辛気臭さを払おうとして歌ったときを思い出して。
広がってるって状態がそれなんだったら、そうすればいける気がしたから。
「"夢の中で縺れないように、子どもたちを歌で先導したのです"、か」
ポツリ、とイェルクが呟く。聖典の一節、俺がやろうとしていることを。
その瞬間、周囲に光が浮かび上がった。黒い靄のようなものが混じったそれが、少しずつ俺の前に集まってきて、形を成してきている。
少しずつ、はっきりとした輪郭になっていくそれは、人の形をしていて、弱々しくて微笑んだ。
『ライさん』
「……ディオネ」
なんとなく、これはディオネの残滓のようなもので、ちゃんとした本体というか魂そのものではないのがわかる。
……ここにはいないのか。
『私をちゃんと見つけてくれますか?』
「見つけてやるから、待っててくれよ」
『……ふふ、きっとそう言ってくれるだろうなと思ってました』
この巻き付いているような黒い靄が、たぶんディオネが持っていった呪いだ。あいつはこれと一緒にいるんだ。……早く見つけて、それを消してやらないと。
ディオネの残滓が、ゆっくりと俺に近づいてきて、俺を抱き締めるように手を回した。触れられないけど、本当に抱き締められてるような心地がした。
『やっぱり、ライさんのこと大好きです。助けられてよかった』
「今度助かるのはお前の方だからな」
『そうですか。じゃあ、私が消えるまでに見つけてくださいね?』
くすり、と笑った後。その光は俺の中に溶けていった。
「……ディオネ」
と、一人の世界に浸りそうになったときにエオスに手を掴まれた。
「ライさん、まだっすよ。さっきの光から、うすーく遠くに繋がっているものがあります。その先にたぶんディオネさんがいるっすよ」
「……本当か?」
「本当っすよ。自分の恩寵には嘘をつかないっすからね」
……なんか、さらっととんでもないことを言われた気がするがまあいい。
ディオネは、まだ消えてなくて、俺のことを待ってるんだ。早く探しに行こう。
「ただ、ここら辺じゃないっすから一旦帰るっすよ」
……と思ってはいたがまだすぐには探しに行けないらしい。
「しょうがないか。……みんな、ごめんね。なんか迷惑かけたっぽくてさ」
「……もう、ライさん。そんなこと気にしなくていいですよ」
「そうだよ。大人しく助けられる側になっててよ」
「自分は、仕事なんであんま気にしてないっす!」
「迷惑というほどの苦労をしたわけでもないから、問題ない」
……本当にどういう集まり?
まあ、エオスの反応とかに思うことはあるけど、みんな心配してくれたみたいだし。最初に比べると本当にましになったな。
「……ところで、なんであんなディオネ様に好かれてるんですか?」
「聖女様もライの被害者だったんだ……」
……なんか、変な評価もされてるけど。
とりあえず、そのまま帰った。俺たちが暴れたせいで、その後に来た大勢の神官たちが無傷でこの場所を制圧して、無事邪教は解体された、と後で軽く聞いた。