壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい   作:あまぐりムリーパー

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決意表明するか

 薄暗い通路を歩く。いつか来た時は、重苦しい気持ちだったな。

 

 ――ぱたん

 

 勢いよく扉を開く。ずかずかと入って、ニッと笑って奥に座ってるそいつに話しかけた。

 

「よう、クソ野郎」

 

 クソ野郎――枢機卿グレゴリー・コーエンは、珍しく驚いたように目を見開いた。

 

「……これはこれは、どうも」

「一応挨拶しないとなってな」

 

 困惑した様子のグレゴリーを内心嘲笑いながら、部屋の中に入っていく。

 

「……何の用で?」

「たぶん言わなくてもわかってると思うけどさ、ディオネを探しに行くから」

 

 そう、今日はこいつに宣言しに来た。

 

 一応、教会には言っておかないといけないしな。

 

 ポカンとした顔がめちゃくちゃ面白い。

 

「なるほど。それはそれは、正直あまりやってほしくはないですがね」

「はっ、そうかよ。で、止めるって?」

「そうですね。こちらとしては、あなたのことは、教会に閉じ込めておきたい」

「あっそ。一応、理由聞いてもいいか?」

「あなたの立ち位置は微妙なものなので、できればあまり動いてほしくないだけですよ」

 

 じっ、と眺めてくるクソ野郎との視線がかち合う。

 立場ねえ。今の俺は聖女の体を使ってるだけの異界人だしな。教会の勢力争いとかに問題があるのかな。

 

 まあ、いいか。

 

「じゃあ、よくわからんけど無視して行くね」

「……そうですか。一応、止めさせてもらいますが」

 

 グレゴリーの手に、光の槍が生成される。

 

 投擲されたそれを――指先で止める。

 

「なあ、なんかディオネの力の使い方が少しはわかったんだよ」

 

 指先に、槍の切っ先が触れているのに肌に少し食い込むぐらいで、俺の指を裂くことはできない。

 

「恩寵って全部同じかわからないけど、この力は感情が高ぶった時とか、強い気持ちがある時に使えるっぽいんだよな。だから――」

 

 指先をぐっと押すと、槍が先からバリバリと崩れていく。

 

「――ディオネを助けたいと俺が思ってるうちは、この力を使える。もうお前には止められてやんないよ」

「そうですか」

 

 くつくつ、とグレゴリーは笑った。……おかしいな、目論見を壊してやったつもりなのに。

 

「……行くけど、いいんだよな?」

「ええ、どうぞ。良ければ、イェルクでも連れていってください」

「……なんで?」

 

 つい、本音が出た。いいのか?

 イェルクってさ、戦力的にクソ強いはずだよな?

 

「私としては、元からあなたを止めるつもりはありませんでしたよ。あなたを閉じ込めてしまえば、他の枢機卿が動いてきたら面倒ですからね」

「……そうかよ」

 

 なんだよ、それだったらこのやり取りいらなかっただろ。

 ……攻撃も下手したら一回こっちが死ぬからな?

 

「で、あなたはエオスとあのシリルという少年と行くのでしょう?」

 

 ……なんでそこまで把握してるんだよ。やっぱ、こいつ嫌なやつだわ。

 

「そうだけど、だから何?」

「シリルという少年は、アルフの手の者でしょう?エオスも、アルフとの仲はいい。なので、こっちからも誰か派遣するべきかなと思ったまでです」

「……イェルクがいなくなっても大丈夫なのか?」

「ええ。邪教絡みの話が終わった影響で仕事は減ってますからね。邪教を完全に殲滅できたわけではないので、まだ仕事はありますが」

 

 なるほど、もう忙しくないってことか。でもなー、イェルクかあ。まあ、悪くないんだけどさ。

 

 でも、こいつの話に乗るの嫌だしなあ。

 

「……断ってもいいか?」

「いいのですか?戦力はいるに越したことはないでしょう」

「…………まあ、そうだな。わかったよ、連れていく」

 

 ディオネの場所はどこかわからない。邪教も魔王もいないわけだし、異端実体と会うこともないだろうけど、それでもまたそういうのが出てくるかもしれないしな。

 

「それならば、よかったです。さあ、早く聖女を連れ戻してください」

「やだね。連れ戻すんじゃなくて、あいつを助けに行くんだよ」

「くっくっ、あなたはどこまでも善人ですねえ」

「うっさいな、気持ち悪いこと言うな」

 

 こいつに褒められると嫌だ。

 

 気持ち悪いのでさっさといく。

 

 扉を開くと、イェルクがそこに立ってた。準備をすでにしてたのかよ。

 

 虚ろな瞳に僅かに光が宿った気がした。

 

「ライ」

「……お前もついてくる予定だったんだな」

「ああ。どっちにしろ、お前をそのまま放っていくのも、よくないと思ってな」

「……お前も大概俺の扱いおかしいよな」

 

 どいつもこいつも、人のことをなんだと思ってるんだか。

 

 そう思いながら、さっさとこんな場所を離れたいから足を進める。遅れて、イェルクもついてくる。

 

「おかしい、とはどういうことだ」

「人の扱いが変ってことだよ。そもそも、俺のことをどう思ってんだよ」

 

 まあ、イェルクは普通の人間の感性をもってるとは思えないから、そもそもおかしい気がするけど。出会い頭に殺してくるし。

 

「ライのこと、か。大体のやつは俺と対面すると萎縮してあまり話してこなくなるのだが」

 

 そりゃそうだろ。お前、殺してきそうだし。というか、神聖力の密度がえぐすぎて話しにくいんだよな。

 エオスですら、びびってあんまり話せてないし。

 

「お前は死なないとはいえ、俺を真っ正面から叱ってきた。そんなやつは初めて見たから、新鮮だった」

 

 淡々と、そうイェルクは言う。

 

「そりゃ、俺は自棄になってたからそういうことができてただけだよ」

「それ以外でも、お前は知らないはずの聖典の一節のような行動をするし、普段のお前の様子からしてただの善人だなと思う」

「……お前、そんな人間っぽいやつだっけ?」

「よくわからないが、聞かれたことを答えただけだが」

 

 善人って、なんだよ。子供たちを助けたからかな。

 ……でも、あれは当然のことだし、そんなことを言われてもな。

 

「買い被りすぎ。ただの一般人なんだけど」

「それでも、俺はお前のことを興味深いと思っただけだ」

「……お前、自然とそういうこと言ってくるよな」

 

 こいつ、マジでこういうところあるの怖いよ。あの初期の、何でも殲滅するマシーンみたいな風格はどこ行ったんだよ。

 

 少女漫画とかの、敵対者にだけ厳しい系ヒーローじゃないんだから。

 

「もしかして、これがお前が前に言っていた、口説いてるってやつなのか?」

「……なんかもう、それでいいわ」

「そうか」

 

 まあ、とりあえずイェルクを含めたメンツでディオネ探しか。このまま、突っ走っていくぞ。

 

◇◇◇

 

 ライが枢機卿へ話を行ってから、その場に残りの三人が、そのまま居座った。

 

「ライさん、大丈夫っすかねー?」

 

 呑気にエオスはその場で、ずずずっとスープを啜る。

 

「大丈夫でしょ。なんとかするって」

 

 シリルは興味なさそうに頬杖をついて、遠くを眺めた。

 

「ライさんとあの枢機卿は折り合いがあまりよくないですから、どうなるかわかりませんけど」

「……まあ、大丈夫でしょ」

「シリルさん、心配じゃないんすか?」

 

 遠くを眺めるシリルの視界を、エオスの顔が割り込んだ。

 

「……何?心配してほしいってこと?」

「そうじゃないっすけど。シリルさんはライさんに興味津々っすから」

「何その言い方」

 

 不満そうに顔を背けるシリルに、エオスは不思議そうに首を捻る。

 

「んー、シリルさんって恋したことありますか?」

 

 自然に出てきたその言葉に、シリルは思いっきり吹き出す。

 

「けほっ、急に何?」

「いいから、どうなんすか?」

「……ないけど」

「ふーん、なら――」

 

 納得したように、エオスは頷いた。

 

「ライさんが初恋ってことっすか」

「なっ、何を」

「だって、大好きっすよね?ライさんのこと。罪な人っすねー、ほんと。聖女の体に男の魂が入った人が初恋をかっさらっていくって」

 

 エオスの口角が少しずつ上がる。にやにやとしたその視線に耐えられなくて、その視線からシリルは外す。

 

「……別に、そんなんじゃないって」

 

 と、言うシリルの頬は少し赤い。

 

「本当っすか?あんなに心配してるのに?」

「それは、危機感がないし距離感が変に近いからそうなるでしょ」

「だから、守ってあげたいんすもんね?ひゅー」

「うるさい」

 

 もう話も聞いてくれないシリルに、アクイラが肩にポンと手を叩く。

 

「ライさんは手強そうなので、頑張ってください」

「本当に何!?」

 

 なんて、和気あいあいとしたやり取りをしてる間に、ライがイェルクと共に戻ってきて、少しだけざわついていたというのも別の話。

 

 そうして、一行はディオネの元へと向かうために準備を始めた。




この章はこれで終わり
だんだんライの周囲がおかしくなってる気がしなくもない

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