壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい   作:あまぐりムリーパー

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聖女への道を探そう!

 いつものように、薄暗い世界に迷い込んだ。ここは、夢の中か。

 

 馬車の中では、揺れられてた気がする。そのまま寝てしまったのか。

 

 ふにっ、と頬を何かが摘まんできた。薄く透けたディオネの体が見える。

 

『ライさんのばーか』

 

 頬を膨らませて、俺の頬をふにふにといじっている。

 

「ひゃべれないんだけど」

『むう』

 

 パッと手を離したあと、唸りながら俺の胸に顔を埋めてきた。

 

『うー!』

 

 まだ唸ってる。……なんなんだ?

 

「あの、ディオネさん?」

『この天然人たらし、何人誑かしてるんですか、バカ』

「……急に何?」

『ライさんは私のなのに』

「違うけど?」

 

 おかしいな、これからこいつを助けに行くぞって感動的な流れだった気がするんだけど。夢の中で出会ったと思えば、所有権を主張されてるのは、一体どういうこと?

 

『私はライさんの中に残った、ディオネの残滓なんですけど』

 

 ああ、やっぱり。俺の中に取り込まれていたのか。

 

『だから、ちょっとだけライさんのやってることがちょっとわかるんです。それで、見てるとなんかもう、もう!』

 

 背中に手を回されて、強く抱きつかれた。力つっよ、全然ほどけない。

 

「えっ、何。シリルとの距離感がおかしかったのは直したと思うんだけど」

『じゃあ、なんで今イェルクにもたれ掛かってるんですか!?』

「……寝てたら自然にそうなったからかな」

 

 えっ、もたれ掛かってたっけ。覚えてないな。不可抗力ということで。

 

『……このままだと負けちゃう』

「何と戦ってるんだよ」

『この世の全て』

「いきなり大きくなったな」

 

 少しだけ、抱きついてくる腕の力が緩まった。

 

『……やっぱり、一人でいると寂しいですね』

 

 そんなことをポツリと漏らすものだから、こいつの頭をゆっくり撫でてやる。

 

「見つけてやるから待ってろ」

『辛いことは慣れてますから、ちょっとだけ長く待ってあげます』

 

 俺から少し離れて、曖昧にディオネは微笑んだ。

 

「我慢すんなよ、ばーか」

『あだっ、強がらせてもくれないなんてずるい』

 

 指で額を弾く。こいつはすぐに、そうやって自分の気持ちを隠すんだから。

 

「別に、俺にまで隠さなくてもいいだろ」

『……ふふっ、じゃあ楽しみに待っておきます』

 

 くすり、と笑うディオネの顔には陰りはもうなくなっていた。

 

 メンタルケアが定期的に必要なんて、難しい聖女め。

 

◇◇◇

 

 ゆっくりと目蓋を開くと、ごとごとと揺れる馬車の振動を受けた。

 

「なんこれ」

 

 思わず声を漏らした。俺の体を黒い何かが包んでいる。……これは、イェルクの影みたいなやつか。

 

「起きたか」

「起きたか、じゃなくてさ」

 

 そんな、普通に確認してないでなんで拘束されてるのかを聞きたいけどな。

 

 ふと、周囲の様子を伺うと全員から微妙な視線を受けている。

 なんなら、シリルとか何か言いたそうにしてるし。

 

「……ライさん、こっち来てください」

「えっ?」

 

 しゅるしゅる、と黒い影が解かれたと思えばアクイラに引っ張られて、その隣に座ることになった。

 

 ああ、そういえば夢の中でディオネが言ってたっけ。イェルクの方にもたれ掛かってたって。

 

 ……その結果、もたれたままの姿勢だとよくないから影で支えられてたってことか?

 

 それなら、ありがとうって感じだけど。なんかイェルクのやつ、丸くなったというかおかしいよな。最初殺されてたのに。

 

「ごめん、うとうとしてて」

「ライさん、寝不足はよくないっすよー?」

「はいはい、気を付けるよ」

 

 じっ、と正面になってしまったシリルと目が合う。顔を背けられて、ため息をつかれた。

 

「おうこら、シリル。文句があるなら言いな?」

「別に」

「別にじゃなくてさ」

「ライさーん、あんま純情をもてあそばないようにしてくださいっす」

 

 なぜかエオスからストップが入る。純情って言われてもな。聞きたいことを聞いてるだけなのに。

 

 それにしても、馬車はどこまで進んだんだろうか。っていうか、この世界の地理とか知らないけど。

 

 思えば、俺ってこの世界のこと全然知らないんだよな。ずっと、悪魔とか異端実体と会ってたし。

 

 ボーッと、外の景色を見る。疎らに家があるぐらいで、他にはあんまりない。王都から少し離れて田舎に来てるのかな。

 それとも、西の方はあんまり人がいないからとかなのか?

 

 そんなことを思ってると、もうあまり家が見えなくなってきた。一定の場所まで来ると、人はいないんだな。

 

「……前から聞きたかったんですけど、その影なんなんですか?」

 

 しゅるしゅる、とイェルクの足元にはまだ影が蠢いている。

 

恩寵(グレイス)だが」

「……恩寵(グレイス)?」

 

 そういえば、恩寵(グレイス)ってあんまりよくわからないな。

 

「えーっと、恩寵(グレイス)ってのは信仰が強すぎるような神官が持つ不思議な力っすかね?なんていうか、祈りすぎたような人にはそんな力が沸くっていうか」

 

 ……これ、恩寵(グレイス)が何かがあんまり把握されてない?

 

「あれは、神からの加護のようなものだ。祈り続けることで、神から与えられる力」

 

 ざっくりとしていていまいちわからんけども。やっぱ狂信者専用の能力じゃん。

 

「ちなみに、ここだとアクイラさん以外みんな持ってるっすよ」

 

 ってことは、シリルも持ってるのか。ちらり、とシリルの方を見ると、遠慮がちに頷いた。

 

「確かに俺も持ってるけど、そんな大した力じゃないよ。ちょっと便利なぐらい」

 

 全員が規格外な力を持ってるって訳じゃないのか。異端殲滅官がどれもこれも強そうだしな。

 

 そういや、シリルとエオスも恩寵(グレイス)は持ってるけど異端殲滅官にならないってことは、持ってたら強制的に入る訳じゃないってことか。

 攻撃的なものじゃないと使えないからとか、そういう風に思われてるかもしれないけど。

 

「ちなみに、自分のもそんな大した力じゃないから大丈夫っすよ?何せ、探してるものがだいたいわかるぐらいのものっすから」

「……それはまあまあすごくない?」

「んー、ライさんから褒められるのは嬉しいっすけどね?まあちょっと便利ぐらいっすよ」

「でも、それでディオネの場所がだいたいわかるんだから、助かってるよ」

「……なんすか、次の標的自分だったりします?」

 

 何を言ってるんだお前は。訝しげに見られる意味もわからないし。……こいつらからの扱いおかしくない?

 

「いいから、ディオネの探し方教えてよ」

「しょうがないっすね」

 

 アクイラとエオスの場所が変わる。手首を掴まれた。

 

「まず、通路を作るっす。たぶん、ライさんはディオネさんと繋がってる感じっすよね」

「たぶん、そうだと思う」

「だから、その繋がりを意識する感じで、ディオネさんに神聖印(ホーリーサイン)で補助するように考えるっす」

 

 ディオネを補助する?

 どこかにいるディオネを思い浮かべる。そのディオネを助けるように、補助するために神聖印(ホーリーサイン)をかけるように。

 

「使う神聖印(ホーリーサイン)強化(ベネディクション)の方がいいっす」

 

 その言葉に従って、ディオネに強化(ベネディクション)をかけるようにイメージをする。

 そう考えるだけで、どこかにいるあいつに届くように。

 

「――できたっす」

 

 ああ、そうだ。あいつを対象にして、そこまでの力の通路ができている。

 

 この先に、あいつが?

 

「これで、どこへ行けばいいかがわかるってことっすよ。いやー、自分の出番ももう終わりっすね?」

 

 ニッ、とエオスが笑う。こいつ、地位がある割りにフットワークが軽くて、有能でいいやつなのすごいな。口調も含めて、盛りすぎだろ。

 

「ちなみに、普段の通信も強化(ベネディクション)でやってるっすよ」

 

 その追加の情報はよくわからないけど。とりあえず、ディオネのことは探せそうでホッとした。

 

「ついでに、短縮移動もそろそろ使うっすかね?」

 

 と、エオスが言い終わる前に景色が一瞬で変わる。もう飛んだのか。

 

 そう思っていると――隣には誰もいなかった。

 

 淀んだ空気の中に放り出されていて、なんから馬車の中ですらない。

 立ち込める瘴気のせいで、辺りがよく見えない。

 

「……これ、瘴気ってやつか」

 

 また、邪教だとかに巻き込まれた……?

 

 というか、何があったんだよ。

 

「えっ、これなんすか?」

「エオス?」

「おっ、ライさん。……飛ぶの失敗っすかね?」

 

 あはは、と乾いた笑みを浮かべた。

 

 ……たぶん、なんかアクシデントがあったんだろうなと思ったけど、一人じゃないならいいか。

 

「とりあえず、なんとかして」

「無茶振りすぎないっすか!?」

 

 有能司教様でもさすがに無理か。

 

 今回は、楽に解決するといいな。イェルクもいるし。

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