壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい   作:あまぐりムリーパー

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雰囲気ある好奇心旺盛魔術師

 背中ぐらいまで髪を伸ばして、ローブを着た女性が隣で微笑んでいる。得体が知れなくて、薄気味悪い。いつの間にいたんだ。

 

「あら、何その幽霊でも目撃したみたいな雰囲気は」

「急に出てくるからだろ」

「それはしょうがないでしょ。これだけ見にくいんだから、近くにいても見つからないものよ」

 

 肩を竦めて、「嫌になっちゃうわよね」と呟いた。

 

「……えーっと、魔術師でいいんすか?」

「そう言ってるでしょ。しつこいわね」

 

 くるくる、指を回すとその指先に火が灯った。……これが魔術?

 と思えば、フッと消えた。

 

 魔術ってどういうものなんだろうな。

 

 神聖力絡みのことは、基本的に祈りとか信仰に起因してるけど、魔術ってことは魔力みたいなものがあって、それを使って不思議な現象を引き起こしているとかなのか?

 

「エヌマエーラでよかったっけ?」

「ええ、そうよ」

「邪教がどうとか言ってなかった?」

「それよ!」

 

 手を握られて、ぐっと距離を詰められる。さらさらとした髪の間から見える、宝石でも当てはめていそうな綺麗な瞳と目が合った。

 

「邪教とやらが、魔術院と関連があったって話でしょ?聞かせてもらえないかしら」

 

 その瞳がらんらんと輝いていて、まるで少女のように弾んだ声で話しかけてくる。

 ……さっきまでのミステリアスな雰囲気はどうした。

 

「邪教に興味があんの?」

「少し、違うわ。邪教の取ったアプローチが気になるの。悪魔崇拝とかそういったことを行っている集団がどのような術とかそういうものを開発しているのか、そういったものを知りたいの」

 

 そんなことを言われてもな。俺はあんま知らないし。

 ……なんか、本当にさっきまでとキャラが違うんじゃないか?

 

 驚いて、対応できずにいるとパッと手を離される。

 

「……ふぅん、こういうやつなのね」

 

 と、思えばその手には――邪教の使っていたものと同じナイフが握られている。

 

「いっ、いつの間に取ったっすか!?」

「ああ、ごめんなさい。少し拝借しているわ」

 

 もしかして、エオスが持っていてそれを勝手に取ったのか?

 

「……取られるような隙を見せたつもりはないっすけど」

「あら、こっちは魔術師よ。小手先のしょうもない騙しの手品は得意だもの」

「それ、返してもらっていいっすか?」

「もう少ししたら返すわ」

 

 魔術ってのも、聞く限りは得体の知れない技術なのかもしれないな。

 

「なるほどなるほど、中心に刻印が彫られているわね。これが、呪いの根源でこれを切っ先から飛ばすようになっている。ナイフの形にしたのは、"刺す"という行為に使われる物体だから、かしら」

「ごめん、一人で盛り上がらないでもらっていい?どうせなら聞かせてよ」

「……興味あるの?」

「まあ、ちょっと」

「そう、そう!じゃあ、聞かせてあげるわ」

 

 話に乗っかるだけでぱあっと笑顔を咲かせるものだから毒気を抜かれてしまう。

 でもさ、魔術って聞いたらわかるもんなのかな。まあいいか。

 

 ナイフの柄辺りをこちらに向けてきた。その一部に指先を当てる。

 

「ここに、刻印があるわ」

 

 確かに、よく見ると何かが彫られている。変な模様だな。

 

「これが呪いを発生させてるみたいなものね」

「これだけの模様が?」

「そうね、きっかけさえあればって感じだけど」

 

 呪いってそんな簡単なもんなのか?怖すぎだろ、この世界。

 

「それで、これがナイフなのは切っ先から飛ばすためね。ナイフは刺すものだから、自然とその先端に怖いイメージとかがつくでしょ。そうすると、呪いを飛ばしやすくなるの」

「……確かにめっちゃ切っ先を突き付けられた気がするわ」

「やっぱりそうなのね。適当に発射できる仕組みを作るぐらいなら多分簡単だけど、指向性を持たせたかったんでしょうね」

「呪い発射装置ってことか」

「そうね。それで、着弾地点に呪いを付与するってわけよ。見た感じ、門のようなものを開こうとしてる?いや、それの周囲を何かが覆ってるわ。……攻撃した地点に何かを召喚して、それを保護している形かしら」

 

 ナイフを隅々まで見て、色々を解説してくれるけど、見ただけでわかるもんなのかなこれって。

 

「それは、悪魔を召喚するんすよ。神官を狙って呪いをつけて、その体内から悪魔を召喚して乗っ取る。保護してるのは、体内の神聖力ですぐに悪魔が消滅しないようにするためっすね」

「……えぇ、気持ち悪い呪いね。ふぅん、そんなものを作っていたの。確かに、見ている限りは魔術に近しい技術だけども」

「これってそんな魔術に近いん?」

「ええ。魔術っていわば、力の通り道を整えて現象を引き起こすようなものなの。これの場合も、刻印を起点にそこから呪いを射出して発生するように整えてあるもの」

 

 ふーん、魔術ってそういうものなのか。電気回路みたいなもんかな。

 

「満足したなら返してほしいっすよ、もう。それ、ついでに届けるためのものなんすから」

 

 確かになんで持ってんのかなって思ったけど、届けるようか。そういえば、エオスは最後までは付き合わないって言ってたよな。つまりは、これを届けるための場所に行くってことか?

 

「わかったわ、どうぞ」

「……今度から勝手に取らないでくださいっすね」

「ええ」

 

 と、一見落着したけど今気づいた。普通に話してたけど、ここに自然にいるってことは、ここの場所がどこかとか知ってるんじゃないの?

 

 エオスの方を見ると、同じことを考えてたみたいで頷いた。エオスが聞こうと口を開いた瞬間にエヌマエーラが喋りだした。

 

「そういえばあなたたちの名前を聞いてもいい?」

「邪教よりも最初にそれ聞けよ」

「だって気になったんだもの」

「俺はライだ。こっちのはエオス」

「っす!」

 

 お前、本当に返事それでいいの?

 

「ふうん、ライにエオスね。エオスってあの司教エオスでいいの?」

「……えっ、自分有名っすか」

「うちの知り合いが、通信技術盗みたいってぼやいていたわ。それで、ライ」

 

 真剣な表情でこっちを見つめてきた。

 

「……そろそろ瘴気きついからなんとかしてくれる?」

「えっ?」

 

 エヌマエーラの顔が青ざめて、ふらふらと揺れだした。

 

「いやほんと、マジできついのよ。こっちは魔術師で神官じゃないから、神聖力で守られてないわけ。ずっと毒食らってんの、ほんとになんとかして。今、ずっと吐きそうだから」

「いや、平気そうだったじゃん」

「邪教のことで興奮してて」

「なんでだよ」

「あと、体内の瘴気のことを毒だと定義して、解毒の魔術を回してたけど疲れてきたわ」

「……最初に言えよ」

 

 っていうか、なんで俺に言うんだ。エオスでもいいだろ。

 

 しょうがないから、エヌマエーラの肩に触れる。

 

治癒(レストレーション)

 

 こいつの体をとりあえず癒してやる。そこから、手に神聖力を纏って一気に振りまくと、澱んでいた空気が徐々に澄んできて、晴れていく。

 

「助かったわ、ありがとう。本当に。愛してる」

「適当すぎだろ」

 

 薄々気づいたんだけど、こいつ残念系なんじゃないか?

 

「適当に移動系の魔術の確認でもしようとしてたのに、瘴気まみれの場所に来てしまうなんて参ってしまったけど、あなたたちがいて助かったわ」

「それはどうもっす」

「あなたは助けてくれなかったでしょ」

「……それはライさんに助けを求めてたっすから」

「いーや、あなたは私みたいな胡散臭いやつのことを助けてくれないわね」

 

 急にエオスにやいやい言い始めたし。

 というか、こいつも勝手に飛ばされたのか。本当に何が原因なんだ。

 

 晴れた視界を見渡すと、どうやら山の中って感じで木々があるぐらいしかわからないな。

 

「にしても、こんなところに飛ばされてたのね」

「どこかわかんの?」

「ええ。というか、ライ。あなたってなんか少年みたいね。綺麗な見た目してるのに」

「……急に何?」

「ふと、思っただけよ。中身が男だったりして」

 

 ……こいつ、気づいたりしてないよな。

 

「いいから、ここはどこなんだよ」

 

 と言いつつも、俺はこの世界の地理とか知らないけど。

 

「トラウゴットね」

「なにそれ」

「山岳地帯みたいなものよ。ここを越えると魔術院があるわ。とても遠いけど」

「……トラウゴットっすか。それはだいぶ飛ばされたっすね」

 

 うーん、遠いのか。……シリルとかアクイラ大丈夫かな。

 

「少しだけ案内してあげるわ。瘴気は何とかしてね!」

 

 あと、このナビゲーターは本当に信用していいのかな。

 

◇◇◇

 

 一方、飛ばされていたシリルたちは。

 

「ちょっと、なんでへたり込んでるんだよ」

「なんかライさんがいないとやる気でなくて」

「変な拗らせ方してないで行くよ」

「初恋拗らせそうな人に言われちゃいました」

「……うるさいな」

「否定しないんですね?」

「どうせ、否定しても俺がライを好きなことにさせるでしょ」

「ライさんとは言ってないですよ?」

「うっさい」

「やっぱりそうなんですね?」

「違うから」

 

 イェルクが周囲を伺う中、意外と余裕そうな二人が言い合いしていた。

 

「ライは大丈夫だろうか。この見にくい中、転んだりしそうだが」

 

 ぽつりと呟くその声が、二人の言い合いの中に打ち消されていった。




不穏な空気の話よりもついつい、キャラの掛け合いをしたくなってしまいがち

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