壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい   作:あまぐりムリーパー

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人はなんで祈るのか、とか

 霧のように瘴気が濃い道を歩く。少しずつ、神聖力を当てて消してはいるが、それでもどこから溢れてきているのかわからないほどで、完全に消しきるのは面倒そうだ。

 

「……エオスさんとライさんは一緒なんですかね?」

「俺たちが一緒なんだからたぶんそうでしょ」

「適当すぎません?」

 

 後ろで、シリルとアクイラが言い合っている声が聞こえる。なんとも、仲が良さそうなことだ。

 

 見る限り、アクイラという少女の神聖力はかなり微弱だ。本当に神官なのか疑わしいほどに。

 神官になったばかりでディオネのお世話ぐらいしかしてないんだとは思うが、ここまで弱そうなのも珍しい。

 

 ただ、ライが少し甘えていたのできっと、彼女のよりどころになっていることだろう。

 

 代わりにシリルという少年、どうやらライのことをそこそこ気にしているらしいが、見る限りそれなりに強そうに見える。

 

 神罰執行官である以上、それなりに強いはずだ。神聖力を見る限り、異端殲滅官ほどではないが。

 

 影を周囲に伸ばすが、木々があるぐらいで何もなさそうだ。こうして歩いていくしかないらしい。

 

 ライのやつは問題ないだろうか。

 

 あれは、不思議な少女だった。最初に見たときは、ただ弱そうなだけの少女だったのに、知らないはずの聖典の行動をなぞったり、子供を助けることを優先する。

 

 ただただ、善人だった。神官ではまず見かけることはない。

 

 神官たちはなぜ祈るのかといえば、祈らなければやっていけないからだ。

 

 例えば、壁と壁の細い隙間から見えるその先で、両親が悪魔に殺されそうになっていて、神様に助けてもらえるように祈った、とか。

 

 その結果が、その隙間からでも攻撃できるようなこの影の恩寵だと思うとなんともな話ではあるが。

 

 両親が死んでしまってからは、俺には祈るしかなくなった。ずっと祈り続けて、やがてはこの影の恩寵を振り回すだけの存在になっていた。

 

 そんな俺を叱りつけて、殴り付けてきたのがライだった。

 

 はじめて、人と対等に話をした気がした。思えば、俺はまともにそういう話せる相手がいなかったんだろう。

 

 ライとは、友人になりたいのかもしれない。

 

「ええと、イェルクさん?」

 

 考え込んでいると、アクイラに呼び止められた。こんな事態に思考に没頭するのも危ないか。

 

「どうした」

「いやその、向こうの方からいやな感じがして」

 

 指差した方向を見る。なにも感じない。……いや、僅かに変な感覚がする。

 

 そして、その方向へと蠢く影が見える。

 

「……ねえ、見間違いじゃなかったら、異端実体いなかった?」

「そうだな。この瘴気とも関係あるかもしれない。行こう」

 

 影を伸ばして、アクイラを抱える。

 

「えっ、なんですか!?」

「普通に走ると遅そうだからな」

「この人、ライさん以外には実はポンコツなのでは?」

 

 なにやら、酷いことを言われてるような気がするが、それも気にしなくていいだろう。シリルは恐らく、自力で勝手に来るはずだ。

 

 見えているそっちの方向へと走り出した。

 

「ちょっと、急に行くなって」

 

 慌てたようなシリルの声を無視して。

 

◇◇◇

 

「にしても、ここは本当に瘴気ばっかねえ」

「エヌマエーラはここのこととか知らないの?」

「知ってても、こんな瘴気が出てることの理由は知らないわ」

 

 ざくざく、と踏みしめる音だけがする。トラウゴットだったか。その山岳地帯とやらだったかな。

 

 エオスに言われた、あの通路の技術を試してみる。

 

 ディオネを対象にして、強化を流し込めるように考える。通路ができる。

 

 あっちに、ディオネがいるのか。繋いだ通路の方向を確認した。馬車にいるときよりも、だいぶ短くなった気がする。

 

 もしかして、実はかなり短縮したのでは?

 

「エオス、これって近くなってる?」

「……あー、まあそうなんすけど」

 

 困ったように、エオスは頬をかく。何やら言いづらそうにしてるけど、実はあんまりいいことじゃない?

 

「ここって見ての通りでこぼこしてるというか、山とか谷がたくさんある以上通る結構かかるんすよね」

「……まあ、近くに来たってことで」

「あら、二人で内緒話?」

 

 交ぜてよ、とぐいっと割って入ってくる。強引だな、この人。

 

「もしかして、この場所に飛んできた理由とかそういう感じってことよね?」

「まあ、そんな感じ」

「ふうん、神官だからどうせ短縮移動してたんでしょ。あの技術いいわよね。っていうか、神官ってずるくないかしら。聖典にあるものなら、理屈とか飛ばして再現できたりするんでしょう?」

 

 たしかに、聖典にあったらそれを再現できるってのは、結構すごいんじゃないか?

 

 聞いた限り、魔術には理論とかがいりそうだから。力の通路を作って、通すんだっけな。

 

「そんなかんたんじゃないっすよ。聖典にあっても、突拍子がなさすぎるとむずかしいこともあるっすから」

「えっ、そうなの?」

「っす」

 

 神が一撃で世界を真っ二つにした、とか書いてあったとかそういう感じかな。スケールがバグってるとか。

 

「……ねえ、ライ?あなたって、神官の割りに詳しくないのね」

「うるさいな、こっちは特殊な事情があんの」

「そう。気になるけれど、さっさと進んだ方がいいものね?」

 

 エヌマエーラが気持ち悪くならないように、瘴気を打ち消していく。この体が、ディオネのものだから、わき出てくる神聖力がすごいんだよな。尽きたりするのかな。

 

 というよりも、面倒だから一気に晴らすか。

 

 手に込めた神聖力をぐっと握り込んで溜めて、それを一気に解き放した。

 

 一気に薄まってくる。

 

「ライさん、そんなに使って大丈夫っすか?」

「大丈夫っす」

「……なんで真似るんすか?」

「エオスをいじろうと思って」

「ターゲットにするのやめてもらえませんか!?」

 

 ありえない勢いで拒否が来た。しかも口調外れてるし。

 

 ……俺、なんかやったかな。

 

 と、ふと上を見上げたとき――巨大な影が見えた。まるで、巨人でもいるみたいな。

 

「なんすか?あれ……」

「これ、あれじゃない?」

 

 呆然としてるエオスの横で、エヌマエーラは平然としている。

 

「ここって、どこまでも瘴気が立ち込めてるわけで、そこに例えば影とかできるかもしれないでしょう?だから、どこかに光源があって、人を照らせば、瘴気に巨大な影として出てきたりしないかしら」

 

 なるほど?それは、ありえるのだろうか。

 

 これは、霧みたいなものだから、それに影が貼り付けられたみたいな感じか?

 

 もう一度、それを見ようとすると消えていた。

 

「……だとしたら、その光源ってどっかにあるんすか?」

「さあ、知らないわよ。そういうこともあるんじゃない?って感じよ。っていうか、疲れたんだけど。ねえ、ライ。おぶってもらっていい?」

「なんでだよ。自分で歩け」

「冷たいわ。お姫様抱っこでもいいから」

「……お前、どういうテンションなん?」

 

 それにしても、エヌマエーラは独特なやつだな。魔術師って見たことないけど、こういうやつなのかな。

 

 それよりも。

 

「影のことで忘れてたけど、なんかそこに家みたいなのあるじゃん。あそこで休めるか確認してもらえばいいんじゃない?」

 

 そう、見えた先に家があった。というか、何軒かある。集落って感じか?

 

「えっ、休めるじゃない。行こうよ、ねーねー」

「突然、幼児になるな」

「そうね、さすがに威厳がないわ」

「突然落ち着くのもびびるだろ」

 

 そういえば、俺はライとして素で話している。

 でも、今まではずっと他所ではディオネのふりをしていたんだけど、今回はいいのかな?

 

「別にいいっすよ」

 

 考えを読んだように、エオスがポツリと漏らした。

 ……こいつも大概怖いな。

 

 とりあえず、家の方を訪ねに行くか。

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