壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい   作:あまぐりムリーパー

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今更なんですが、前話の最後にアクイラ視点をいつの間にか追加しています


聖女(俺)の休日

 静寂の中で、光を纏った何かが歩いてくる。

 

 おかしい、今日は休みらしいからゆっくりしようと思ったのにな。

 

 なぜか暗闇で、おかしな存在がこちらへと歩いてくる。

 

『……い……に……た……』

 

 何かを言っている。法衣を着ているから、神官のはずだ。

 

 神官の法衣は役職によって変わることがあるらしい。

 あの法衣は、ディオネのものに近い。

 

 ……つまり、これはディオネの魂か?

 さっきも、知らない声が聞こえてきたからそれと同じようなことだろうか。

 

 目の前に、それが歩いてきた。

 

 輪郭がぼやけていて、顔はよく見えない。

 

『私のせいで、あなたを巻き込んでしまいました』

 

 次は、はっきりと凛とした澄んだ声が聞こえた。

 

 輪郭も少しずつ、解像度が上がっていくようにはっきりとしていく。

 

 沈痛な面持ちをした少女がそこにいた。

 端正な顔立ちの、金髪の少女。身に纏うのは白銀の法衣。

 

 間違いない、ディオネだ。

 

 なんだこいつ、自分が心閉ざしたせいで俺を巻き込んだことを後悔してるのか?

 

 何か言おうとして、口を開こうとすると視界がぼやけてきた。

 

『あなたを出来る限り早く、元の世界に帰します』

 

 最後に、その声だけが聞こえた。

 

◇◇◇

 

「ディオネ様?」

 

 覗き込んでる顔が見える。訝しげに、眉をひそめていた。

 

「アクイラ、俺って寝てた?」

「ちょっとだけ寝てたように見えました」

「そっか」

 

 さっきの光景は、おそらくこの身に宿っているディオネの魂がまた起き上がってきたってことなんだろうか。

 

 いまいちよくわからんな。

 

「今日が休みだからってあんまりだらけないでくださいね」

 

 そう、今日は休み!これは大きい。

 

 今まで散々、体を貫かれたりとか切断されたりとかしてきたけど、それも今日はないってことだ。

 

「久々に労働しなくてよくなる~」

「あっ、早速だらけてる!」

 

 アクイラの声をよそに考える。

 

 あの謎空間では、ディオネは俺を巻き込んだことを後悔してた。

 そして、俺を帰したいらしい。

 

 いやいやいや、お前はこの仕事が嫌で閉じこもったんだろ?

 俺のためだからって、わざわざその嫌な仕事に戻りたいってか。

 

 ……それはちょっと、気分が良くないな。

 ディオネって、精々10代後半とかだろ?

 

 確かに、俺はさっさと元の世界に帰りたい。

 

 でもさ、ガキを犠牲にして帰るってのはいただけないよな。

 

 まあ、あれだ。俺が帰って、ディオネも無事にするのを目指したいね。

 

「ディオネ様、無視しないでくださいよ」

「ごめんごめん。ってか、次からは一人で仕事したくないって伝えてくれない?」

「わかりました」

 

 なんかあの男が仕事内容決めてるっぽくて、それをアクイラ経由で来てるみたいだからね。

 

 ディオネをどうするかは一旦保留だ。

 

 まずは、休日を謳歌する。それからにしよう。

 

「まずは、祈祷でもするか」

「えっ」

「え、何?」

「なんで、祈祷を?」

 

 まるで、頭おかしくなったのか?とでも言いたげな視線。失礼じゃないか?

 

「ディオネなら、休日に祈祷ぐらいしてるんじゃないかって」

 

 まあ、聖女様なんて言われてるんだから、そうじゃない?っていう偏見だけど。

 

「……意外と、そういうの考えてるんですね」

「まあ、ここ以外ではちゃんとしようかなって」

「ここでもちゃんとしてください」

 

 頬を膨らませたアクイラに、はいはいと頷いて支度を整えた。

 

 ちなみに、神官にとっての祈祷は結構大事で、祈りの強さがそのまま力として反映されるらしい。

 

 神聖印による回復なども、信仰が厚い神官ほど強力になるんだとか。

 

 つまり、狂信者が最強ってこと。……たぶん、ディオネもその枠なんだろうな。

 

 なので、一応俺も形だけでも祈っておこうかなってわけだ。

 

「……無理に、ディオネ様しなくてもいいんですよ」

 

 最後に、ぽつりと何か聞こえた気がしたけど、大したことではなさそうなので、そのまま外に出ることにした。

 

◇◇◇

 

 教会が所有する一区画。

 

 その中心に建てられた礼拝堂に、大勢の人々が集まっていた。

 

 あるものは死地へと赴く前に、あるものは愛しい人のために。

 

「あの」

 

 澄んだ声が響いた。礼拝堂の入り口にいる神官たちの前に金髪の少女が歩いていく。

 

「ここが礼拝堂、でよろしいでしょうか」

 

 そんなものは聞かなくてもわかるが、間違っていたら恥ずかしいと思い金髪の少女――ディオネは尋ねた。

 

「え、ええ。ここは礼拝堂です」

 

 気圧されたように、神官は答える。

 

 無理もない。普通の神官であれば、相対した瞬間にわかる。ディオネが普通の神官ではないことを。

 

 まるで人形みたいに綺麗で、その人間らしくない美しさが神秘的で、それでいて自分たちよりも圧倒的に上である力を持っている。

 

 それと、法衣。

 

 普通の神官は灰色の法衣を着ている。教皇は白、枢機卿は赤など、その神官の役職によってその色は変わる。

 

 ディオネの法衣は白銀だ。それが何を意味するのかは神官たちにはわからない。ただ、特別な神官であることには間違いない。

 

 それを知らぬまま、ディオネはずかずかと礼拝堂の中を歩いていく。

 なぜ、こっちをよく見てくるんだろうと思いながら。

 

 しかも、先に祈っていた人たちもこのお方の邪魔をしてはいけないと、道を開ける。

 

 普段、ディオネは人と遭遇することはない。なぜなら、いきなり化け物のいる場所に送られているからだ。会うのは、あの男の手の内のものぐらいか。

 

 だから、こうして人が集まっている場所に来ることもない。

 

 そのせいで、人から見て自分がどういう存在なのかも理解することはなかった。

 

(えっ、何かやらかしたっけ)

 

 と、慌てそうになる気持ちをなんとか表に出さないように進む。

 

 最前列まで来た。少女は祈る。

 

 両手を合わせて、その場に座り込み、目を閉じて顔を下げた。

 

 ――その場にいる誰もが息を飲んだ。

 

 祈った瞬間に、彼女に窓から日の光が降り注いだ。曇り空がたまたま晴れた。

 

 まるで、絵画の一枚のような美しい光景。それに、周囲に溢れる光。

 

 まだ、ディオネ……の中にいる魂は理解できていなかった。神官にとっての信仰は力だ。聖女の魂は眠っていようが、その体が蓄積した信仰はそのまま残留してる。

 

 その状態で祈ってしまえば、力が周囲に拡散する。

 

(え、なにこれ)

 

 それをやってる本人は何が起こっているのかはわからない。

 

 ただ、そこにいた人々は、きっと聖女とは彼女のような存在だと思ったことだろう。

 

◇◇◇

 

「ということがあって」

「何してるんですか?」

 

 いや、しょうがないじゃん。祈るだけで何か起こるとか思わないし。

 

 それにしても半端ないな、ディオネ。聖女って祈るだけで、光が出てくるの?なんの光?

 

 アクイラの出したスープに口をつける。温かさが染みわたる。

 

「で、ゆっくり休めましたか?」

「いや、全然。きっとすごい人に違いない!ってなんかいろいろ聞かれた」

「……まあ、そうでしょうね」

 

 なんか知らんが、ディオネは聖女であることをちょっと嫌がっていた。というか、そういう風に見られたくなかったような。

 

 だから、聖女であるとは言わなかった。一般神官ですよ~って言ってきたけど多分信じられてないだろうな。しょうがない。

 

 あと、相談とかもされた。どっかの村で子供が失踪してる……とかそういう話。何か知りませんか?って言われたけど、俺ほどこの世界のことを知らないやつはいないからね!

 

 飲み終わったスープの容器を渡すと、受け取ったアクイラが「そういえば」と思い出したように口を開いた。

 

「次の仕事は助っ人つけてくれるらしいです」

「えっ、本当?」

「はい」

 

 やったぞ。俺一人だと、どうしても自殺アタックするしかないから。

 

 にしても、どういうやつとだろうか。

 

「ヴァレンティナさんとのお仕事です」

「マジか」

 

 前言撤回。村焼きガールとのお仕事になってしまった。

 

 ……とりあえず、風呂でも入って落ち着くか。

 

「そんなに嫌なんですか?」

「うん」

「即答だ。なんでですか?」

「笑顔で村を焼けるやつだし」

「それは嫌ですね」

「顔はいいんだけどな」

「この人も大概嫌だ」




TIPS:法衣
一般の神官:灰色
司教:紫
司祭:黒に銀の装飾
枢機卿:赤に金の装飾
教皇:純白
???:白に銀の装飾

一日二回投稿するのバグすぎるので今日までにしておきます

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