壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい   作:あまぐりムリーパー

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巨大な影

 瘴気漂う集落の家を散策した結果は、あんまり芳しくなかった。

 

 というよりも。

 

「……参ったっすね。中にいる人間が、みんな倒れてるっていうのは」

「考えてみればそうよね。瘴気って人間にとっては毒みたいなもんなんだから。あまり耐えられないでしょうし」

 

 瘴気にあてられて、全員その場で倒れている。なんとか全員を助けて集落の中の瘴気を薄めはしたけど、誰も気絶したままだった。

 

「にしても、気持ち悪いっすね」

「何がかしら?この場所?わかるわ」

「いや、そうじゃなくてっすね……家の中の人間が、あんまいないんすよ」

 

 言われてみれば、家の数とか大きさの割りに人は少ないかもしれない。

 ってか、俺はあんまりこの世界のそういう常識とか知らないんだけどさ。

 

「どこかに出掛けてんのかな」

「うーん、この瘴気の中でっすか?」

「ちょっと探してみてもいい?」

 

 さすがに、そこら辺に出掛けて倒れたままだと危ないしな。探した方がいいだろ。

 

「まあ、いいっすよ。ライさんはそういうのほっとけなさそうっすから」

 

 人をなんだと思ってんの。まあ、そうだけどさ。

 

「ふうん、いい人なのね。そういうところは結構好き」

 

 平坦な状態から繰り出される「好き」の言葉には、あんまりドキドキしないな。

 

「エヌマエーラってそういうこと気軽に言うタイプ?」

「気軽って何よ、思ったことを言ってるだけでしょ。人柄が好ましいなら好きだし」

「ちなみに、今まで言い寄ってきた男とかいる?」

「いるけど、それが何か関係あるのかしら」

 

 被害者は多そうだな。

 

 ふと、横を見るとエオスと目が合う。

 

「ライさんも大概っすからね?」

「何がだよ」

 

 本当に、なんでこんなことを言われてんの?よくわかんねーな。まあ、いいか。

 

 そんなやり取りをしながら、一度集落を出ようとした時――視界の端に影がちらついた。

 

 それを逃がさないように、一気にそっちに向かう。もしかしたら、アクイラたちかもしれないけど。

 

 でも、もしそうじゃないなら。

 

 黒い何かが蠢いた。丸い体に、生えてくるのは手。いくつものそれが、うねうねと生えてくる。

 

 それが、一つの塊になって大きな手になった。

 

「……ライさんそれ」

「ああ、異端実体か」

 

 頭の中で、ディオネを思い浮かべた。

 

 あいつの笑顔とか、泣きそうな様子とか。あいつを救ってやらないといけない。そう思うと、体に力が漲る。

 

 この体の持つ恩寵、それが俺を強化する。

 

 巨大な腕が伸びて、俺を潰そうとする。でも、それを避ける必要はない。

 

 振り下ろされた腕が、俺の頭に当たって止まる。

 

 僅かな衝撃が体を巡るけど、特に痛くもない。

 

 ディオネの恩寵の力は、再生だとか爆発的な神聖力とかじゃない。体を巡る神聖力による、無制限の強化だ。

 

 あの魔王を簡単に屠った力。今の俺は、ちょっとした攻撃ぐらいだとダメージも通らない。

 

 もう一度、振るわれそうな手を手で受け止める。

 

「消えてろ」

 

 雑に、その胴体を思いっきり蹴っ飛ばしたらその体がバラバラと崩れて消えていった。

 

「……へー、ライって強いんだ?」

 

 驚いたのか、エヌマエーラが目を丸くしてぱちくりと瞬いている。

 

「一応ね」

「ふうん。私も活躍できるかなと思っていたのに、勝手に倒してしまうんだもの」

 

 理不尽な文句。っていうか、エヌマエーラって強いのかな。そもそも、魔術師の強さがいまいちわからないんだけどさ。

 

「そうっすよね。自分も助けようと思ってたっすけど、勝手に倒しててびびったっす。さすが、自分よりも信仰序列が高いだけはあるっすよね」

 

 いたずらっぽく、エオスが笑う。おい、からかってんのか。

 

「それは、俺の信仰序列っていうかさ。そういうのじゃん」

 

 ディオネは3位だから、まあエオスより高いだろ。そういうことは、エヌマエーラがいるし言えないけど。

 

「司教よりも上って、あんたどれだけ高いのよ」

「……まあ、色々と事情があんの」

「ミステリアスな女ってわけね。モテそうでいいじゃない」

「モテてるっすよね?」

「なんだよ、お前ら」

 

 そんな会話をしながら、他に異端実体がいるか確認したけど別に確認はできないな。いないのかもしれん。

 

 ……逆に、他の人たちもいないし、あそこの集落はそんなもんなのか?

 

 ――ああああああ

 

 そう思っていたときに、叫び声のような、気持ちの悪い何かが聞こえてきた。

 

 背筋をぞわり、と嫌な予感が撫でている。

 

「……うわ、なんか気持ち悪いことになってないかしら。嫌だわー、ほんと」

「これ、近くに敵みたいなのがいるっすね……」

「敵?」

「なんかこう、よくわかんないんすけど。感覚的には、さっきの異端実体みたいな――」

 

 エオスの言葉が、そこで終わる。

 

 瘴気の中に、大きな影がまたできた。

 

 やっぱり、投影されたものなのか?いや、たぶん違う。

 

 あそこにある何かから、ずっと嫌な気配を感じているから。

 

 巨大な影は、やがて大きな人型になってゆっくりと動き出した。

 

 ――おおおおお

 

 また、大きな声がする。あれから発されてるんだろうか。

 

「ねえ、あれってやばいわよね?」

「見るからにやばいっす」

 

 ……その割りには、軽いやり取りだけど。

 

「……あれ、なんとかしないといけないよな?」

「まあ、そうっすよね……いけるっすかね」

 

 その大きさは、正確にはわからないけど普通に巨人ぐらいある。……なんとかなるかな、あれ。

 

「あなたたち、いつもあんなものと戦ってるの?」

「そんなわけないだろ。普通に、人間サイズのやつだよ」

「さすがに、そうよね?悪魔ってサイズが大きいとか聞いたことないもの」

 

 そもそも、あれは異端実体なんだろうか。異端実体の発生源とかは正直俺にはよくわからない。

 

 ただ、負の感情に瘴気とかの力が混ざるとそうなるらしい。

 

 そうだとしたら、何があったらあんなに大きくなるんだろうか。それだけ大きな怨念とかになったり?

 

 また、あの大きな影が動き出した。地響きのようなものが伝わってくる。……ってことは、やっぱりでかい何かがいるんだよな。

 

「……いこう」

「マジっすか」

「ねえ、ライ。あれってなんとかなるの?」

「……わかんないけど、あのまま放っておくのもちょっとやばそうな気がする」

「そりゃ、そうっすよね。せめて、他の三人と合流してたらいいんすけど」

「あら、他にも連れがいるの?それだったら安心ね?」

「少なくとも、クソ強いやつはいるっすね」

 

 そうだ。イェルクがいるかどうかでたぶん、かなり変わるはず。

 

 ……でも、影伸ばしてなんとかしてもあのでかいやつに対抗できるのか?それはわかんないけど、俺は殴ったりとかしかできないしな。

 

 

 シリルも、いるのといないのじゃ変わるし。

 

 ……なんか気が滅入るな。アクイラとじゃれたり、シリルをからかったりしたい。くっつくのはよくないけど、ガキをちょっといじってやるぐらいはよかったりしない?

 

 影を見つめて、とりあえずあそこに向かうことにする。

 

「……本当にいくの?私のやばいものセンサーがビンビンなんだけど?」

 

 ……本人はものすごく嫌そうだけど、ここに放っておくと、どうせ瘴気にやられるし、なんか役に立ってもらうか。

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