壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい 作:あまぐりムリーパー
もがいている巨大な影が蠢いている。あれが、イェルクで止められてるっていうのもすごいな。
……にしても、なんでこんなところに迷い込んだんだろうな。あのでかいやつに関連してたりする?
よくわからんからいいか。
にしても、こんな気味の悪いところに来るとは思わなかった。
……人を捨ててる場所なんて、随分えげつない。
「それにしても、ここまで来ると見えるわね」
「何が?」
するする、とエヌマエーラがまた空間指でなぞる。
「あなたと、あのでかいやつに繋がりがある気がするのよね」
「えっ?」
あの、でかいやつと俺との間に繋がりが?えっ、なんか俺そんなことあったっけ。
「うっすら、細い糸みたいに繋がっているわ」
なにそれ。俺がディオネとの繋がりを作ってた時のやつ、みたいな。
……もしかして、通信の通路を作るみたいな感じで、接続してるのかもしれない。
いや、異端実体と?
……何があったらそんなことになるんだ。ディオネとの通路を作ってた時になんか勝手にそこら辺のものと繋がったりしたのか?
「んー、確かにライさんと繋がってる跡が見えるっすね」
「えっ、マジ?」
「マジっすね。なんか、黒いもやみたいなのが引っ付いてて……ちょっと待って。マジっすか」
隣で急に頭を抱えるなよ。びっくりするだろ。
っていうか、黒いもや?それって、ディオネが俺から引き剥がしてた呪いみたいな感じかな。
だったとしたら、それがあれと関係があるってこと?
……よくわからんな。
試しに、ディオネと通路を繋げてみる。通り道が、ぐんっと遠くに飛んでいく……はずなのに、あのでかいやつを一度経由して遠くに進んでいく。
えっ、どういうこと?
「なんか、あいつを経由してディオネの方に通路ができるんだけど」
「……それは、これとディオネさんと関係があるってことじゃないっすか?」
「もしかして、あの邪教の呪いがこれと関係してるってことにならない?」
「ふうん、そういう感じねえ」
しみじみとエヌマエーラが息を溢した。
「あの穴はずっとあって、あそこにはたぶん不要になった人を捨てるとか、そういうのがあったんでしょうね。規模的に、あそこの集落以外この付近に、同じようなところがあったんでしょうけどね」
するり、と髪をかきあげると毛先から小さな光のようなものが舞う。蛍が飛んでいるみたいで幻想的に見えた。
「だからきっと、捨てられた人たちの恨みはずっとあったのよ。それが今発生した。だから、その邪教の呪いとうまく結び付いたんじゃない?」
いつの間にか、周囲の瘴気が薄れている。
その分、別のなにかが溢れているようなそんな感じさえする。
不思議と、息が吸いやすい。瘴気が濃すぎて気付かなかったけど、さっきまで息苦しかったんだな。
「なるほどっすね。だから、こんなちょうどよく異常事態とそうぐうしてるんすか。っていうか、なんか雰囲気変わったっすか?」
「ああ、さすがに煩わしくてね。ちょっと頑張っちゃった」
にへら、とわざとらしくエヌマエーラ頬を緩めた。周囲に漂う光がぐるぐると回って、開いた手のひらに収まっていく。
「結局、何したの?なんか光ってるぐらいしかわかんないんだけどさ」
「反応が薄いわー、本当に。ここが魔術院だったら、今ので盛り上がってたのに」
手品を見る感じってこと?
「これはね、瘴気を魔力に変えたのよ」
「……それはまあ、とんでもないことをしてるっすね?」
「そうっすわよ」
「……なんで口調を真似るっすか?」
「ん?なんとなく」
けらけら、とエヌマエーラは笑ってるけど。この周囲の瘴気を魔力に変換できるってこと?
どういう理屈でできているのかわからないんだけど、すごいことなんだろうな。
魔力ってことは、たぶん魔術を使うために必要なもののはずで。それを毒ガスみたいなもんから作れるならすごいよな?
「瘴気の持つ人間に対する毒性だけを分析して、どの部分なのかをずっと計算していたけれど。それをうまく見つけて、人に馴染むようにするにはどうすればいいのかを、なんとか今組み立てることができたってことよ」
「ふーん、それってここに来たときからずっとやってたの?」
「そうね。だって、周囲に瘴気しかないのよ?なんとかするしかないでしょう?」
にこりと笑う。子供っぽいときもあれば、こうやって大人びた笑みも見せてくるし、いまいち掴み所がないな。
「はいはい。じゃあ、エヌマエーラも頼りにしていい?」
「ふふっ、頼られるのも悪くないわね。とはいっても、あなたたちの仲間を見つけたらやることはなさそうだけれど」
「じゃあ、何かあったらよろしく」
「ええ。で、何かやるとして……お礼とかってしてくれるのかしら」
いたずらっぽく笑う。なんだよ、お礼って。
「うわっ、何かライさんにさせる気っすか?やらしーやつっすね」
「えっ、何?私に当たりが強くないかしら。……ちょーっとだけ、抱き締めてみたかっただけなのに」
「いや、なんでだよ」
「さっき、エオスが抱きついてたでしょ?あ」れ、やってみたいなーってことだけど」
「あれは、ライさんを止めるためなだけっすからね?」
……あのときはちょっと勢いで行動しすぎたな。
「だから、お礼先払いで抱かせて!」
「言い方が悪すぎるだろ」
「じゃあ、来て?」
「お前、わざとか?」
っていうか、なんかこういうの多くないか?
アクイラとはよくじゃれついてたりはするけどさ。なんかディオネはめっちゃ甘えに来るし、ヴァレンティナもなんか普通に抱きついてた気がするしさ。
エオスだってそうだし。
昔だったら、それこそドキドキしたんだろうけどこっちに来てからはなんか慣れた気がするな。
ディオネとの魂が今は混じり合うことはなくて、女の子みたいになることもないはずなんだけど。
ただただ、俺が女の体に慣れてしまった気がする。……元の体に戻ったときに、やっていけるかな、これ。
「えい」
「うわっ」
と、考え事をしていたら無理やり抱き寄せられた。柔らかい感触が体を包み込む。
「うわー、やっぱりちょうどいいわね」
「何がだよ。ちょっと、苦しいんだけど」
「抱き心地がいいから」
……それは、ディオネの体なので、俺に言われてもな。
っていうか、さっきまであのデカブツのところに向かってたのに、こうやって止まってる場合じゃないんだけど。
「魔術ランク5位、悪魔狩りの魔女――エヌマエーラか」
聞き覚えのある声がした。
「あら、私って意外と知られてるの?」
「それは知り合いだから、離してもらえないだろうか」
「えっ、もしかしてあなたもこれをやりたいの?」
「どちらかといえば、俺以外のやつがやりたいんじゃないか?」
おい、なんの話をしてるんだよ。
「ぐっ、ふんっ!もう、いい加減離せって!」
「……名残惜しいわ」
無理やりエヌマエーラを引き剥がして、聞こえてきた声の方を向く。
「よう、イェルク。無事?」
「ああ。他の二人もこっちに来る頃だろう」
パタパタと駆け寄ってくる影が二つ見える。
ようやく、合流できたなと少し肩の力が抜けた。
最近、夜中に書いているのでたまに雑になったら許してください