壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい 作:あまぐりムリーパー
ようやく合流できたけど。少しだけしか離れてないはずなのに、かなり離れていたような気分だ。
「ライ、無事だった?」
肩で息をしながら、シリルが駆け寄ってきた。そんな急いでこなくてもいいだろ。
「俺、そんな心配されることある?俺、今はディオネの力を使えるんだけど」
「だから、尚更無茶しそうでしょ」
「……」
「ほら」
こいつ、俺のことを理解してきててなんかムカつくな。
そりゃ、ちょっと無茶はするかもしれないけどさ。実際、エオスに止められなかったらそのまま飛び込んでたしな。
……あの穴のこととか言うと変な心配されそうで嫌だな。
「で、シリルの方はなんかあったん?」
「……なんか、イェルクがあれやってて終わっただけだけど」
「そりゃ、活躍の機会なくて残念だったな」
「別にいいよ。活躍したいとかじゃないし」
そっぽ向くシリルの頬を軽く弾いてやる。驚いたようにこっちを見た後、もう一度顔を背けた。
「拗ねるなよ、ガキ」
「……ライだって、子供っぽいでしょ」
「なんかお前は生意気でガキ扱いしたくなるんだよな」
「廃墟の時のこと、もう一回されたいの?」
廃墟の時、なんかあったっけな。ああ、あの……シリルを押し倒したときの。
つまりは、壁ドンか。
ってか、ガキ扱いしたぐらいで壁ドンしようとするなよ。
「してもいいって言ったら、やんの?お前」
「……ライさ、煽ってんの?」
「えっ、何?そもそも、緊急事態なのにお前変なこと言うなよ」
今も、上を見上げるとあれが拘束されてるし。
「いや、ライから言ってきて――」
「ああ、そういうのもういいんで。止まってくださいねー」
アクイラが俺とシリルとの間に割って入ったと思えば、ぐりぐりと頭を擦り付けてくる。……小動物?
「ライさんの被害者が多すぎて疲れました。癒してください」
「……なんか、アクイラもおかしくなっちゃったな」
「というか引き取ってください」
「何を言ってんの?」
イェルクとシリルと同じだっただけだろうに。……まあそれはそれで大変そうだけどさ。
「ライさんにみんな侵食されてるせいで対応が大変なんですー!」
「別に侵食してないけどな」
「この侵食お化け」
「散々な言われようじゃない?」
なんかこういうやり取りも久しぶりな気がしてくるな。別にそんなわけないんだけど。
ふと、向こうを見るとイェルクとエヌマエーラが対峙してる。
「あの二人、知り合いなんですかね?」
「イェルクは知ってるっぽかったな」
巨大な影が無制限に伸びているイェルクを、エヌマエーラは特に臆する様子もなく眺めている。
「私のことを知ってるようだけれど、神官さんにも私の名前が通ってるなんて驚きね?」
「そうか?俺は、悪魔関連の話題のことは知ってるだけだ」
「あー、それでねえ。確かに、私ってその通り名が表してるみたいに、悪魔倒してるものね」
悪魔狩りの魔女、だったか。瘴気を魔力に変換してたりしてたけどさ。そんな強いん?
「通常、悪魔の出す瘴気は人間にとっては毒だ。だから、神官以外が相手にするのは難しい。だが、お前はそうじゃないんだろう?」
「うーん、少し語弊があるけれど。確かに、今みたいに瘴気をなんとかすることはできるわよ?でも、これってそんな便利なものじゃないの」
「そうなのか?」
「ええ。悪魔たちが出す瘴気ってそれぞれちょっとずつ違うのよ。だから、一度解析して魔力に変換したり、毒性を除去したりしても、また新しく悪魔と出会った時は一から解析しないといけないってことよ」
確かに、元からそんなことができるからここに来たときにあんな限界そうにしてるわけないしな。
だから、最初から解析して対策はできたけどすぐにはなんとかできないってことか。
「にしても、魔術ランク5位ってどれぐらいすごいの?」
「あら、ライは私の強さに興味ある?ふふふ、魔術師は神官ほどの数がいるわけではないけれど、それでもトップから5番目よ?すごいでしょ」
「うわ、すご。その割りに、だいぶ愉快な人だったけど」
「あらあら、生意気なことを言う口はこれかしら~?」
「いひゃい」
ほっぺをこねくり回されて、引っ張られる。そういえば、ディオネの頬は柔らかいんだろうか。柔らかそうな気がするな。
……視界の端には、蠢いているでかい影がずっといる。あれずっと押さえ込んでいるイェルクは本当になんなんだよ。
「ライさんたちはここ、どんな感じだったんですか?」
と、聞かれたのでとりあえず今までのことをかいつまんで話した。
ここでエヌマエーラに会ったこととか、集落があったこと。
……あの、穴のこととか。
それから、この異端実体がディオネが持っていった呪いと関連がありそうってこととか。
「……そんなことがあったんですね。ライさんは、大丈夫ですか?」
「えっ、何が?」
「その穴とか、あまりいい気分ではないものでしょうから。ライさんって、そういうの傷つきそうで」
「よくわかるね?」
「まあ、ライさんから何回も甘えられてますからね?」
くすり、とアクイラは少し口元を緩ませた。
……今さらなんだけど、俺ってこの子に甘えてるのやばくない?
いやまあその、普通な子がアクイラしかいなくて。あと、初期は本当に敵しかいなかったし。
「ということは、この付近にディオネ様がいるんですか」
「うーん、そういう感じじゃない気がする。あれを経由してるような」
「――それなら、引き寄せられるかもしれないわね?」
「引き寄せる?」
魔術だと何かできるとか?
「移動の魔術を使ってて、ここに巻き込まれたって言ったでしょ。だから、この場所やあの巨大な存在は、何かを引き込むような性質を持ってると思うのよね」
「ああ、短縮移動が邪魔されたのもそれっすか。確かに、見てるだけで不自然な力の流れみたいなのも見えるっすね」
……エオスって探索系の恩寵じゃなかった?そういうのもわかんの?
「だから、それを利用してなんとかその探してる人?みたいなのも、引寄せることもできるんじゃないかってことよ」
「……できるの?」
「わからないから、やってみようと思って」
……そんな簡単にディオネに会える?
だったら、嬉しいけどさ。だから、お願いしようとしたときに、ぞわりと背筋に嫌な予感が這い上がってくる。
「すまないが、加減を間違えた」
ぽつり、とイェルクが溢した時に、パツンと何かが千切れるような音がする。
上を見上げる。人型の巨大なそれが、手や頭が少しずつ崩れていく。影で覆われたそれが、手の一部や顔の一部が離れて、影を抜け出してその一部が降ってくる。
水が網目を通り抜けているみたいに、異端実体たちがするすると影を抜け出していく。
「拘束しようと覆っていたが、そのままこいつらの体を一部切断してしまって、それが落ちてくる」
「えっ、落ちてくる量結構ないか?」
「腕や顔の部分はほとんど切ってしまった」
「ちから込めすぎて拘束抜けられるパターンとかあるのかよ」
手がバラバラに分解されて、それぞれが一つの異端実体として、無数に降り注いできた。
その数は多すぎて、数えられないぐらいに。
「あ、あの。これ戦う流れですか!?」
「うん、そうっぽい。イェルクって今戦えるの?」
「少しはいけるが、あまり集中はできないな」
「だよなあ」
……これ、ピンチなんじゃない?
さすがに多いんだよな。シリルと俺でなんとかできればいいけど。
ちらり、と横目でシリルを見ると覚悟を決めたように、深く息を吐いた。
ぼとぼと、と地面に落ちたそれがゆっくりと起き上がった。人の形をした、黒い塊が不自然に揺れている。
「ちょうどいいわね。ちょっとだけ、魔術を見せてあげるわ」
くすり、とエヌマエーラが笑うとバチバチとその周囲を火花のようなものが走った。
「知ってる?原初の魔術って、火とかじゃなくて雷らしいわよ」
火花じゃない。これは、稲妻か。
放たれた電撃が拡散して、人型のそれを打ち砕いていった。
いかれたメンバーを紹介するぜ!
信仰序列1位イェルク!初手殺しにきたけど、保護者枠!
信仰序列3位の体を持つライ!人たらし!
信仰序列100位!期待の新人、シリル!ライに脳をやられつつある!
魔術ランク5位!エヌマエーラ!愉快な優秀お姉さん!
アクイラ!ライのメンタル回復担当!
以上だ!