壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい 作:あまぐりムリーパー
電撃が周囲に舞う。エヌマエーラが空間に指を滑らせると、黒い人型を焼き払っていく。
瘴気が薄まって、小さな光となってエヌマエーラの指先に集まって、それがまた電撃に変換されて、それが放たれていく。
よく見ると、攻撃するとき事前に少しだけ線のようなものが見えているような気がする。
魔術は力の通り道を作るって言ってたけど、こういう感じなんだ。
握る手に力を込めて、こっそり寄ってくる異端実体を殴り付ける。バラバラと砕けながら吹き飛んでいった。
「ライさんって普通に、ディオネさんの力使いこなしてるんすね?」
同じように、通りすがりに寄ってくる異端実体たちを、エオスは拳で払いのけた。
左右から近づいてくるそれに、片方に裏拳をかまして、もう片方の顔面らしい部分を蹴りあげる。
「エオスもちゃんと強いんだ」
「何っすか?これでも、自分って通信局のトップやってるんで」
戦い方は肉弾戦メインなんだ。普通、神官ってそういうもんじゃないと思うんだけどな。
光の矢が飛び交う。異端実体たちに刺さって、動きが鈍くなった瞬間にシリルが光の槍で切り込んでいく。
うん、こういう感じのイメージだな。
さらに、手に火を灯してそれで焼き払っていく。なんか、前はそれするときに盛典を二節分唱えてなかった?
成長したのかもしれない。短期間なのにな。
「……なんか、場違いな気がしてきました」
「確かに、なんでアクイラ来たの?」
「えっ、来ちゃダメでした?」
「いや、いてもらわないと、俺の精神的にきついから」
「なんですか、もう。拒絶されてるのかと思いましたよ」
アクイラだけ、この中では普通だから、異常に染まらなくてよかったと思う。本当にいてくれないと、この無茶苦茶なメンバーの中で擦りきれていくからな。
まあ、こいつらに嫌われてるわけではないけど。なんか、重いんだよな。雰囲気的に。
そのうち束縛してくるんじゃないか?
いや、冗談だけども。
「アクイラがいないと、俺がダメになっちゃうからさ」
「……なんかそういうところさらっと言われてるのも慣れました」
「えっ、何?」
「なんでもないです」
いつの間にか後ろに回って、俺の背中にしがみついている。一応、神官でもアクイラは信仰序列最下位だしな。最下位ってどれぐらいなんだろう。
そもそも、そういうのってわかるもんなんだ。10万位とか言われて、そうなんだってなるんじゃなくて、あなたは最下位です!って言われんのかな。
そんなことをボーッと考えながらも、近寄ってくる異端実体を蹴り飛ばしていく。
上を見上げると、イェルクの影が包み込んだ巨大な異端実体がまだそこに立ち尽くしている。ぱらぱら、と異端実体が少しずつ降りそそいでくるけど、なんかすぐにエヌマエーラが倒してるんだよな。
異端実体ってさ、今簡単に倒してるんだけど本来はめっちゃ強い敵なんだよな。それなのに、こんな雑に処理されてるのえぐいし。
あの、エヌマエーラの電撃ってめっちゃ威力高いってことじゃん。余波ですごい焦げそうになるからまあそうだろうなと思ってたけど。
しゅるしゅる、と黒い影が伸びていって巨大な異端実体を完全に包み込んだ。
「もう、降ってくることはない」
きっと、イェルクが言うからそうなんだろ。信仰序列1位だっけ、お前。強すぎない?
だってさ、あのでかいのってたぶん数十メートルだろ。それに匹敵するぐらい大きな影を出せるってなに?
しかも、あの影ってさ。なんかなんでもスパスパ切ってるからやばいんだよな。こいつって本気出したら、影がどこまでも伸びてきてそこら辺のもの全部切り刻んだりできるんじゃないか?
「じゃあ、一掃したら準備をしましょうね?」
「なんの?」
「……あなた、もう忘れたの?誰か知らないけれど、探してる人を引き寄せることだけども」
「……ああ」
なんか、バトルの雰囲気になってたから忘れてた。
全員が強すぎて緊張感がない。
「さすがに疲れるっすけど」
「お前は神聖印使えよ」
「むっ、強化も立派な神聖印っすよ?」
「ずっと蹴ったりしてるから疲れるんじゃない?」
「……はあ、それもそうっすね」
ぱちん、とエオスが指を鳴らすと同時に周囲の異端実体に光の槍が突き刺さった。
あっ、こういうのもできるんだ。
「通信局所属、信仰序列9位――これから全部、自分のフィールドっすよ」
いや、お前も信仰序列高いのかよ。その割には結構普通そうに見えるけど。
エオスから、光の通り道のようなものが一気に広がって、それがすべて異端実体に繋がっていく。
「ロックオンってやつっすね」
そして、直ぐ様そこを通って少し大きめの光の矢が通り抜けた。胴体に穴を空けて、異端実体が崩れる。
「あら、助かるわね?そろそろ準備してしまいましょう?」
ふふっ、と妖しくエヌマエーラが微笑むと炎に包まれて周囲の異端実体が消えていく。
「こっちも疲れたんだけど」
シリル、お前も頑張ってたんだな。ごめん、見てなかった。
「あの影に覆われた、巨大な呪いの本体に結び目をつけるわ」
するする、としなやかに伸びた細い指が、空気をなぞった。それに合わせて、小さな光の粒子が巨大な異端実体に糸のように集まって伸びていく。
「そして、さらにその奥の方にいるそれに繋げていくの」
「……本当にあれを経由してディオネさんに繋がってるみたいっすね。長い旅になりそうだから、途中で知り合いのところに着くまでって思ってたのに、もう終わるっすか?」
「長くない方がいいでしょ」
「うーん、でも。ライさんが見つけた方がなんかそれっぽいっすよね?」
「シチュエーションオタクか?」
実際、見つけ方を教えてもらったからそれで探すのかなとは思ってたけど。こんな有能なやつが協力してくれるとは思わなかったな。
なんでこいつこんな手伝ってくれてるの?
まあいいか。
糸のように結び付いた、それが巨大な異端実体を通してさらに遠くに伸びていった。
しばらくして、それが釣り針に魚がかかったみたいに、ピンっと張った。
「見つかったか?」
「……たぶんね?」
「じゃあ、これは処分しても構わないな?」
――ぐちゃ
巨大な異端実体を包んでいる影が、一気に萎んだ。雑巾を絞ってる時みたいに、ぎゅっと強い力で握りつぶしたようにも見える。
あの、でかいのがこんな一瞬で?
影が、弾けて消える。
そこには、糸のついた先になにかがついていた。
「あれが、見つけたものね」
それは、黒いもやがぎゅっと圧縮されたような塊だった。
ずずず、と周囲の瘴気が動き出す。一気に、それに吸い込まれていく。
やがて、それは膨張して、大きな黒い塊になった。
「これが、ディオネか」
「……え?」
いまいち、その言葉の意味を理解できなかった。
なんか、こいつら強すぎて戦闘を逆にさせにくいな
なんで?