壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい   作:あまぐりムリーパー

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復活するタイプのクソボス

 なんだ、この黒い塊。これがディオネだって?

 

 いやいや、さすがに。

 

 ……確認してみる。対象をディオネにして、通路を繋ぐ。通り道が形成されていく。

 それが、目の前の黒い塊に繋がった。

 

 ……いやいやいや。

 

「えっ、これがディオネさんって本当に言ってます?」

「……なんか、これに繋がってる気がする」

「そうね、引き寄せたのはこれだもの」

 

 黒いもやの塊のようなもの。おそらく、邪教の攻撃から受けた時の呪いの塊。ディオネが俺から助けるために引き受けたもの。

 

 なんだっけ、俺の腹から生まれてくるみたいな呪いだっけな。体のエネルギーを食いつきして、怪物が出てくるみたいな。

 

 それと、ディオネが一体化してしまっているのか?

 

「エヌマエーラ、どういう感じでやったの?」

「んー、普通に繋がりから引っ張ってきただけよ。ここら辺から繋がってそうだからって」

「……エヌマエーラって意外と大雑把?」

「だって、できることをしているだけだものね。理論とかがないわけではないけれど」

 

 駄目だ、人にあんま説明できない天才タイプだ。いや、この前普通に魔術の説明してくれなかったっけ?

 

「……これがディオネ、なんだよね?」

 

 不安げに尋ねると、「たぶん?」とエヌマエーラが首を捻る。

 ……そもそも、この人はディオネのこと知らなかったわ。

 

 そもそもだ。ディオネがあくまで魂でしかない。体はここにあるんだから。

 

 だから、どういう風に存在しているのかとかあやふやだった。

 

 でも、呪いと一体化みたいな状態になっているのか?

 

「そうだな、これからディオネの存在を感じる」

「なんだよ、感じるって」

「ディオネの持つ力は、尋常じゃない信仰や祈りが源になっている。それと同じようなものをこの中から感じる」

「……そういうのわかるもんなの?」

「少なくとも、俺はわかるが」

 

 いや、わかんねーよ。なんなんだ、こいつ。やっぱ、イェルクっておかしいんだ。

 

 ……それにしても、尋常じゃない信仰や祈り、か。俺から見たディオネは傷ついているだけのガキンチョだった。

 たまに垣間見た記憶には、人を助けるために奔走しているようにも見えたけど。

 

 少なくとも、神様に祈ってみんなを助けようとしてた女の子をこのまま放置していいわけないよな。

 

 一歩進もうとしたときに、法衣の袖を掴まれた。振り向くと、不安そうにシリルが瞳を揺らしている。

 

「……ライ、どうするつもり?」

「あそこにいるんだったら、やっぱり会いに行かないと」

「ちゃんと帰ってきてよ」

「えっ、何?俺、これから消えるの?」

「……そうじゃないけど。ライって、いつも勝手に危険な目に突っ込んでいくから」

「人を何だと思ってるんだよ」

「危なっかしいやつ」

「こいつ」

 

 ……まあ、あんまり否定できないけどさ。

 

「じゃあ、シリルが待っててくれるなら帰ってやるから」

「……なにそれ」

 

 ポン、と頭を軽く叩いてやると、不器用そうにシリルが笑う。

 

「愛されてるのね、ライって」

「うっさいな、なんかあったらよろしくな」

 

 くすり、と笑う。そんなエヌマエーラに任せておけば、まあ多少はなんとかなりそうじゃない?

 

 戦力的な意味なら、たぶんイェルクの方が強いんだけど、エヌマエーラの方がたぶん小回りが効くから。

 

 ……恐る恐る近づいて、それに触れようとした時――

 

 ――おおおおお

 

 また、叫び声のようなものが聞こえてくる。

 

 ……待て待て、これってあの巨大な異端実体の声じゃなかったのか?

 あれって、イェルクがめっちゃ簡単そうにぺしゃんこにしただろ。

 

「……これ、あれっすね?呪いが強烈すぎて、倒すだけじゃ死なないやつっすね」

「いや、そんなんあるのかよ」

「瘴気がこんだけ満ちてるってことは、ここら辺は全部、怨念まみれみたいなもんなんすよ。ってことは、発生する余地があるというか」

「……ふうん、これってそういう仕組みなのね。で、これの発生源はこれなんでしょ?」

 

 エヌマエーラが指差した先には、あの黒いもやのようなものがある。

 

「……ってことは、これをなんとかしないとあれが消えないってこと?」

「恐らくね」

「たぶん、そうっす」

 

 エオスとエヌマエーラが言うならたぶんそうなんだろうな。

 

「なるほど、だからここにきた時はすぐに敵を消さなければならないような気がしたのか」

 

 ……なんか、物騒なことを言ってるイェルクもいるけど。

 

 まあ、要するに。

 

「俺が、ディオネを引っ張ってきて、これをなんとかすればいいってことだろ」

 

 そう。この中にディオネがいるのなら、それでいけるはず。

 

「そうだな。こちらは任せておけ」

 

 するする、と黒い影がまたイェルクの周囲で動き出す。

 

「……そうだね。俺たちがなんとかしておくよ」

 

 ライも、手に光の槍を出現させた。

 

 地面から、ずずずと何かが盛り上がってきて人の形を取る。

 

 そして、それが少しずつ膨張していき、巨大な異端実体へと変貌していく。

 

 その手を、イェルクの影が切り裂いて、足元をシリルの槍が突き刺した。

 

 体を崩す異端実体。そのまま、倒れるかと思いきや、切断面から四肢が生えてきて元通りになる。

 ……これ、イェルクとかが強いだけで本来なら倒すの無理だろ。

 

「じゃあ、自分もなんかするっすかね」

「そうねえ、私もあっちを助けにいった方が良さそうだもの。ライ、なんとかしておいてね」

 

 なんとも、無茶な要求だけどやるしかないらしい。

 

 ……これ、自然と俺がやることになってるけどそれでいいのか?

 

「ライさん」

「……アクイラもディオネを助けにいく?」

「いや、さすがに無理です」

 

 まあ、そりゃそうか。あれ、触るだけでもやばそうだし。

 

「――だから、ここでライさんがディオネ様を連れてくるのを待ちます」

「そっか」

 

 待ってくれるなら、なんとかしないとな。

 

 黒い塊に向き合う。

 

 一歩踏み出して、黒い塊に触れた。ぴりっ、と痺れるような感覚がする。

 

 呪いだから、か?でも、この前の時みたいに凶悪な感じはしない。

 

 いや、なんかおかしい。俺のいるところの瘴気が濃くなったり薄くなったりしてる。

 

 ……よく見ると、これに吸い込まれてる。

 

 あれは体の中に打ち込まれた時に、そいつのエネルギーを食らって腹を食い破って出てくる呪いだ。

 

 ここは、瘴気で満ちた山の中。あの巨大な異端実体の体の中とも言える。

 

 だから、こいつは食い破ろうとしてる。

 

 ああ、もう。なんかやばそうだから早めにやるか。もっと、奥にぐいっと手を押し込む。これは、実体がなくて空気みたいなものらしく、そのままするすると入っていく。

 

『――』

 

 何かが聞こえる気がする。それと同時に、息苦しくなってくる。

 

 濃くなった瘴気と、生まれようとしてくるこれのせいで、あんまりよくない影響を受けている。

 

『――さ――』

 

 凛とした澄んだ声のようなものが、少しずつ聞こえてきた。

 

『ライさん、会いたい』

 

 その声を聞いた瞬間に、それの中に思いっきり入り込んだ。

 

 俺の中に残っていたディオネの残滓がはっきりとそれに繋がっていくのが見える。

 

 黒い塊の中は、実体がなくてふわふわしていて。

 まるで、精神世界みたいな感じだ。体があるような無いような。

 

 だから、ディオネとの繋がりを掴むようにして手繰り寄せる。なんとなく、それができる気がした。

 残滓と繋がった先に、たぶんディオネがいる。

 

 周囲のもやのようなものが、体を掴んでくる。邪魔だな。

 

 そういえば、ディオネを助けるとして、この体の中に入れればいいのか?

 

 そうなると、俺がここにいると邪魔かもしれない。元々、俺をどうやって入れたのかはよくわかんないけど。

 

 でも、たぶんそのせいでうまく引っ張ってこれない。

 俺の中に入らない場合、ディオネは幽霊みたいな感じになってしまいそうだし、それはちょっと嫌だな。

 

 だったら、他に実体みたいなものに入れるとか?いや、ディオネは元の体に戻してやりたいしな。

 

 ……ああ、そうか。

 

 俺がこの体から抜け出せばいいのか。

 

 ぐいっ、と引っ張ると、薄くぼやけたディオネがいる。

 

『ライさん!』

 

 体の中に入ってくるディオネと、入れ違いになるように抜け出した。

 

『ライ、さん?』

 

 困惑したようなディオネの顔を見ることはできない。

 

 だって、今この黒いもやのようなものが掴んでるのは俺なんだから。

 

 これは、怪物が生み出されるような呪いだ。で、その実体が出来つつある。

 

 だから、それに乗り込む。

 

 ……なに言ってるかわかんないけど、なんとなくできそうだから。

 たぶんこれは、ただ暴れるだけの怪物というか。母体を食い荒らすだけのものだから、意思とかはない。

 だから、たぶんうまく俺の体にすることができるんじゃないかって。

 

 包んでくる黒い塊と一体化していく。

 

 これはもう、異端実体を食らってそろそろ飛び出てくるはずだ。その前に異物として入ってきた俺を取り込もうとしてる。

 

 手と足の感覚が曖昧になっていく。

 

『ライさん、なんで!』

「ごめん、これしか思いつかなくて」

 

 ……そんな悲しそうな顔されたら、助けた感じしないじゃん。

 

『そこからどいてください、ライさん!』

「大丈夫、なんとかするって」

 

 徐々に、それと俺の境が曖昧になる。

 

 ふわふわと溶けていく。

 

『――』

 

 ディオネの声が聞こえなくなっていく。

 

 ああ、そうか。生まれようとしてるんだ。

 

 だから、邪魔なディオネを排出しているのか。

 

 元の体に戻ったディオネが、すっかりとどこかへと消えてしまった。

 

 俺は、この心地いい揺蕩う感覚に身を委ねていく。

 

 輪郭の無いような、魂染みたこの存在が少しずつ実体を得ていく。これはたぶん、取り込んだ瘴気と、元々持っている呪いの力からつくられてるんだろうけど。

 

 体が作られていくよくわからない感覚に、なんとなく身を浸したまま意識を手放していく。

 

 なんだか、変な感覚がする。

 

 ねむたい、ここになんでいるんだっけ。

 

 ああ、そうだ。でぃおねとか、みんながいて。

 

 たすけたくて、なんか、こうやったらできそうで。

 

 だって、そこにからだができそうなやつがいるんだもん。

 

 だったら、そのからだをもらえそうじゃん。

 

 もらえたのかな、これ。

 

 かみが、なんかくろい。てもあしも、なんかほそい。

 

 さむい、なんかおなかがすいた。

 

 みんな、そっちにいるのかな。

 

 ああ、はやく。

 

 いえにかえりたいな。




聖女パワーを使えるつよつよの時のライ、あんまり活躍しなかったな
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