壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい 作:あまぐりムリーパー
むせ返るような匂いが充満してる。肉か何かが焼けてるような焦げた匂い。
「うふっ」
周囲が炎で囲まれてる。そこに、銀の髪をたなびかせた少女が一人。
「た、たすけ……」
「嫌よ」
少女がすがり付いてくる人間を突き放す。
すると、地面に倒れた人間に火がついた。
「――っ」
叫ぼうとした時にはもう、全身に炎が広がっていて、悲鳴にはならない。
それを、俺はただ見ていた。
あのクソ野郎に呼ばれて、化け物がいると言われている村に来た。
村を素通りして、化け物がいると噂の場所まで来て、いつものように化け物に痛め付けられて、知らない間に反撃してそれを撃破した。
そして、そのまま村に戻ってきたら、火の手が広がっていた。
けらけら、と笑いながら少女が笑う度に炎が苛烈を増していく。
焼けた屋根が崩れ落ちて、何かの悲鳴が辺りに響いた。
「あら」
少女がこちらを見る。深紅の瞳と目が合った。
少女は口角を上げて、楽しそうに笑った。
「ディオネ……じゃないわね。異界からの来訪者、とかだったかしら?」
「……そう、だけど」
俺はなんとか、絞り出すように声をだした。
「ふうん。中身は、男?奇妙な存在ね。でも、面白いわ」
たぶん、こいつが燃やしたんだろう。
下手なことを言えば、こっちも燃やされるかもしれない。
うふふふ、少女が笑う。
「別に、あなたのことは燃やさないわ。ここは邪教徒しかいない、そういう村だからよ」
「……じゃあ、例えば私がそういう存在なら?」
「うふっ、問題ないでしょ?あなたの体はディオネだもの。それに、あなたはディオネよりも面白そうだものね?」
「そう、ですか」
「私はヴァレンティナよ。聖女の真似、頑張ってね」
それが、ヴァレンティナとの初めての邂逅。
笑いながら村を焼く、嫌なやつと知り合った記憶。
◇◇◇
はあ、と深く息を吐いた。
休日は、あまり休めた気がしない。それでも、いつもみたいに血を流したり痛いこともなかったから、少しは気が楽になった。
あと、一応久々に他のまともな人と会ったりもしたから。
別に、会わない訳じゃない。仕事の時にすれ違うぐらいはする。でも、ちょっと話したりとかしたことはなかったから。
……実は俺の境遇、かなり終わってないか?
と、そんな休みも終わり、今日はヴァレンティナとの楽しい楽しいお仕事だ。
ヴァレンティナのことはよくわからない。俺の仕事で、村ぐるみで何か悪事をしてたときにそれを焼いてるのを見たことがあるぐらいだ。
どうやら、炎を操れるみたいだ。あれも、エクソシズムってやつなのか?
……人間も焼いてたけど。
ヴァレンティナはそれだけ燃やしまくってるんだから戦闘能力はあるはず。
だから、今回は致命傷を受けなくても良さそうってこと。
「何を呆けているの」
深紅の瞳と目が合う。
「別に」
「ふうん。そうやって、冷めた態度をしてるとディオネそっくりね?」
興味を失ったように、目の前の少女――ヴァレンティナは目を細めた。
そう、もう仕事の準備をして、ヴァレンティナと一緒にいる。
いつもは勝手に目的地に放り込まれてるけど、今回は馬車で移動中だ。
村焼きガールと狭い空間で一緒。結構気が詰まる。
「あなた、この世界には慣れたのかしら」
「慣れると思いますか?」
「……そのディオネの真似をやめてもらえる?つまらないわ」
ぷいっ、と不満げにそっぽ向いた。銀の髪が揺れる。
こうして見てると、普通の可愛い女の子なのに、笑って人を殺せるものだから、人は見た目に寄らない。
いや、これはそういう問題じゃないか。
にしても、ディオネの真似は嫌か。
ディオネのことが嫌いだったのかもしれない。
「外のやつとかに、俺が普通にしてるの聞かれたらまずいだろ」
仕方がないので、素で話すとヴァレンティナは頬を緩ませた。
「そう、それよ。でも、男すぎるわね。せめて、"俺"をやめるとかはないの?」
「男なんだから仕方ないだろ」
「今のあなたは女の子だもの。例え、それが本物の体じゃなかったとしても、ね?」
無茶を言う。いきなり、女になれってことか?
「私は、知りたがりなの。例えば、あなたはそのままの体でいると、女であることに慣れていくのか、とかね」
「……」
恐ろしいことを言う。
実際どうなるんだろうか。口調が男のまま、女であることを受け入れてしまうのかと言われると、そんなこともないとは思うけど。
「他にも、例えば男に迫られたときに、それを受け入れてしまう場合があるのか、とか」
「おぞましいことを言うな」
「あら、仮定の話よ。あるかもしれないでしょう?」
「少なくとも、この体はディオネのものだ。だから、そうなることはない」
「うふっ、そうね。だから、私はあなたがそのままディオネの体を乗っ取ってしまえば面白いと思うわ」
くすくす、とヴァレンティナは愉快そうに笑った。
嫌な仮定の話だ。例えばこのままずっと、ディオネが目覚めなくて俺がこのまま聖女もどきとして過ごしたらってことだろ?
そんなことになりたくはないけどな。
俺が乗っ取ってしまっても、あくまでディオネの体だ。いつかは返して上げたい。
それも、心を閉ざすようなことがある今なら無理そうだけど。
本当に、こいつとの話は疲れる。
なぜか俺に興味を持ってるのが余計に。
「楽しそうだな。仕事の方はよろしくな」
今日は仕事だけしてくれ。そういう気持ちでなげやりに口を開く。
ぴくり、とヴァレンティナの眉が動いた。
「あなたはなにもしないの?」
「したくはないなあ」
「そう。ディオネの力を持っているのに?」
「いや、あれ死ぬ思いしないと使えないから」
「……どういうこと?」
小首を傾げてそう聞かれたので、面倒だけどかいつまんで説明してやった。
俺が毎回、致命傷を受けた後復活して、敵を倒していること。
「……あなたはまだ、ディオネの力をあまり扱えていないのね」
「ディオネの力?」
「あくまで、死にそうになってるときに強引にその力を引き出してるだけだもの」
ヴァレンティナは、はあ、と深くため息を吐いた。
呆れられてるんだろうか。
「なんだよ。仕方ないだろ、こんな力の使い方なんてわからないんだから」
「……そういうことじゃないわ。毎回そんな目に合ってるのに、平然としてるあなたに呆れてるだけよ」
「村を笑顔で焼いてるやつには言われたくないな」
「そんなことを気にしていたのね。別に、私は狂信者らしいけれど、あなたはそうでもないでしょ?」
狂信者って呼ばれてるの?教会の命令で村燃やしてるならそりゃそうか。
にしても、平然としてるって言われてもな。
正直、めっちゃきついのを誤魔化してるだけなんだけど。たまに、手とか震えてるのを見せたら、ディオネっぽくないだろうしな。
でも、そういうことを気取られても面倒くさい。
「さあ?俺も狂信者かもしれないぞ」
だから、おどけて返した。
ヴァレンティナは目を細める。スラッと伸びた手が、俺の頬に添えられた。
馬車の中は広くはないとはいえ、いつの間にか目の前にヴァレンティナの顔がある。
「……っ」
驚いて跳び跳ねそうになるのを堪える。ここは狭い馬車の中だ。そんなことをしたら頭をぶつける。
「そんなに、無理しなくていいわ。あなたはこっち側じゃないもの」
じっ、と深紅の瞳がこちらを見つめた後、視線を下ろした。
添えられた手が下ろされる。……なんだったんだ。
「私一人で仕事は十分そうだものね。あなたは見ているといいわ」
「そりゃ頼もしい。異端実体だっけ?あれに突っ込んでいくのも嫌だし」
「その光景も見たくはあるわね。純粋な神聖力の放出で倒してるわけでしょう?」
「神聖、力の……放出?」
知らない言葉が、頭の中をすり抜けていく。
神聖力、言葉の響きからするに魔法でいう魔力みたいなものだろうか。
確か、神官にとっては祈りってのは力になるらしい。
だったら、神聖力ってのはその祈りによって変換された力ってやつか?
考え込んでいると、ヴァレンティナは「しょうがないわね」と言いながら、小さく息を吐いた。
「神聖力も知らないまま、聖女の真似をするってのは難しいわよね」
「いや、知らないけど」
「そのままだとやらかしそうだもの。教えて上げるわ」
「……」
ごめん、たぶんやらかしてる気がする。
この前、祈ったときに変に光ったりしたんだけど、たぶんこれ関係あるよな。
というか、そういうの教えてくれるんだ。
……もしかして、ヴァレンティナは始末する相手にだけ容赦ないだけで意外と面倒見はいいのか?
「聞いてるの?私が人に教えるのなんて、なかなかないわ」
「……わかった、聞くよ」
「よろしい」
そう思うと、ちょっとだけ年相応に見えた。まだ怖いけど。
TIPS:ヴァレンティナの法衣はディオネと同じ白銀
アンケートはえぐめも多いけど、みんなは聖女(俺)くんがいじめられてるのがもしかしてみたいのか……?
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