壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい 作:あまぐりムリーパー
パチパチ、と火が弾けるような音がする。
薪をみんなで囲んでいる。
そこに、私が行くとみんなの視線がこちらに向いた。
「ディオネ、来たか」
「みんな、ずっと待ってたんですか?」
「ライを放っておくわけにはいかないだろうからな」
「人間らしいことを言うんですね」
本当に、イェルクからこんな人間らしい一面が引き出されるなんて。
イェルクは、ただ信仰に生きているだけの怪物でした。神の敵を倒すために動き、そのため以外に動くことはない。そんな人だったはずです。
話しても、敵じゃないだけであまり話しやすい人ではなかったと記憶しているんですけどね。
だから、今のイェルクにはとても違和感を覚えていて、少し気味が悪い……と思ってしまうのは仕方なくないですか?
聖女とはいっても、私は普通の人間ですし。ライさんを認めたその人を見る目ぐらいは、信用できなくはないですけどね?
「やたら、俺に当たりが強いがなにかやっただろうか」
「私の感情の問題なので」
「あなたって、本当にライのことが好きよね」
「うわっ、魔術師」
「えっ、もしかして魔術師に何かされたことあったりする?」
正直、そういう経験はなくはないので曖昧に微笑んでおく。
さて、ここでみんなが集まってて、ライさん抜きで話を進めるということはきっとそういうことですよね。
「これは、ライさんについての話をしたいってことですよね?」
みんなが、ゆっくりと頷いた。
「ライさんをどうするか、決めかねてるってことですか?」
「というよりも、こういう風なものとして扱うって共通認識として持っておきたいってことっすよ」
まあ、そういうことでしょうね。
ライさんの変化にはみんな驚いてて、どうしようかなぐらいの感情だったはずですけど、なぜか大きくなろうと思っただけで成長してしまいましたし。
どういう状態なんですかね?
不安になるのもわかりますけど……いや、ライさんだから別に不安にはならないですけど。
「エオス、あなたはどうなんです?」
「ん?自分っすか?うーん、難しいっすけどねー。やっぱ、様子見した方が良さそうっすよね」
「様子見、ですか」
「そうっす。確かにあれはライさんかもしれないっすけど、異端実体を取り込んだりとか色々してるっすから、意思とか関係なくそういうのが溢れてくるかもしれないっすからね。まあ、大丈夫だとは思うんすけど」
「なんで大丈夫だと?」
「ん?だって、ライさんとディオネさんって、間に繋がりがまだできてるんすよね。だから、たぶん呪いみたいなのが暴走しても、繋がっているディオネさんの神聖力と打ち消しあって、たぶんなんとかなるっす」
繋がり?
意識して、守護や治癒の対象を作るように探る。
細い線のようなものが、遠くに繋がっている。
おそらく、ライさんの方に。
「ああ、なんか変なのが見えると思ったらそういうことなのね?」
「気付いてたら、早く言ってください」
「変な繋がりがあると思っただけで、他の人も気付いてると思うでしょう?っていうか、繋がりがあって大丈夫なら話し合うことないじゃない」
確かに。私の持っている神聖力を上回るほどの呪いとか瘴気を放出することはたぶんないでしょうし。
「だが、教会に知られたらどうなるかはわからない」
「それは……」
「その場合、俺たちは教会と対立してでもライを守るか?」
しん、と静まり返る。
教会は、冷酷な組織だ。人の命が失われることがあっても、その他大多数が救われるようなことなら、実行してしまう。
ライさんを危険分子と判断すれば、きっとそれは敵と判断されるはず。
それは嫌だなあ。
もちろん、ライさんを守るつもりだけど。ライさんは、きっとそれをよしとするタイプじゃないですし。
「やっぱり、ライさんを元の世界に帰してあげたいな」
ぽつり、と呟いたその言葉が妙に響いた気がした。
「ねえ、元の世界ってなんの話?」
空気の読めない魔術師……エヌマエーラに呆れてため息が出た。
そういえば、唯一事情を知らなかったのだから仕方がないのでしょうが。
しんみりとした空気を一撃で破壊しないでほしいです。
「ああ、そういえば本当の名前を言ってたりしてたところからおかしかったわね。それから、他人の体に魂が宿ってる状態だったし、なんとなくわかってきたわ」
と思えば自己解決してくるし。なんなんですか?
「別世界からやってきた魂が、ディオネの中に入って、それが呪いと結び付いて新しい体を得たって訳ね。でも、別世界に本来の体があるせいで、おそらくこの世界に固着していない」
「……固着?」
「魂だけ、ふわふわ~ってしてる状態ってこと。だから、今の仮の肉体があるだけで、不安定なのよ。あくまで、ディオネの肉体を通してここにいるだけだもの」
「いまいち、要領を得ないですね」
「うーん、あくまでディオネさんにぶら下がってる状態でこの世界にいるってことっすか。そもそも、どうやってライさんを呼んだのかもよくわからないんすけど」
確かに。グレゴリーが呼んだんだろうけど、そんな非道な方法が教会の持つ力にあったかどうかはわからないですね。
「じゃあ、今の宙ぶらりんなライはあんまりよくないってことなの?」
「どうなるかはわからないわね」
危険な存在ではないけど、やっぱり放っておくのは不安ですね。
治癒局で見てもらって、そういう部分がわかるといいんですけど。
「――ねえ、なんの話をしているの?」
ずずず、と地面を通して白い手が飛び出してくる。
私の影から少しずつ、私と似通った姿の少女――ライさんが飛び出してきた。
「……ライさん、どうやって?」
「なんかね、行けそうだったから」
行けそうって。……思ったよりも厄介な状態かも。
「へえ、ディオネの影を通ってくることができるのね。本来の肉体じゃないから、かしら?」
「やっぱり、様子見した方がよくないっすか?なんかもう、ライさんが何ができるかわかんないっすよ」
そんな冷静に考えてる場合ですか。
「ねーねー、シリル」
「えっ、どうしたの?ライ」
「いい匂いするから、抱きついていい?」
「……何を言ってるの!?」
ああもう、ライさんはすぐにそういうことするし!
あの人、小さくなってもああなんですか!?
結局、話は様子見でまとまりそうですし、やっぱり早めにライさんの状況を解決しないとですね。
……あと、シリルから離さないと。
治癒局に着くまで、何も起きないといいなあ。
元の世界に帰す方法も、後で確認しておきますか。……最悪、エヌマエーラと話せばわかるかもしれないですしね。
ライさんの新能力
体の大きさを変えられる
ディオネの影に潜める←new!
あと、シリルの脳をついでに燻る