壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい 作:あまぐりムリーパー
ぐらぐら、と馬車が揺れてる。馬車に座るのって、なんか楽しいような楽しくないような。
景色が変わっていくのは楽しい。
なんか、昨日みんなで喋ってて仲間外れにされた。ずるい、私も喋りたいのに。眠かったけど。
ディオネは私のことずっと心配してて、いっつもくっついてる。変なの。
でもなんか、ホッとする。
そういや、シリルに抱きつくのはダメなんだって。なんか、良さそうな匂いがしたのに。アクイラならいいのかな。
にしても、みんながこっちを見てる。昨日のがよくなかったかな。
影を通って、ディオネのところに行ったやつ。なんか、通れそうだったからやったんだけどダメだったかな。
これ、なんでできるんだろうね。わかんないや。
やっちゃダメそうだから、一応謝っとこ。
「ごめんなさい」
「えっ、ライさんどうかしました?」
びっくりしたみたいにディオネが振り向いた。他のみんなもこっちに向いてる。
「昨日の影通ったやつ、やっちゃダメなんでしょ?知らなかったけど、やっちゃったから」
「いえその、ダメとかではないんですけど」
「そうなの?」
「はい、びっくりしただけです」
「じゃあ、あんまりやらないでおくね」
そう言うと微妙な反応をされる。やっちゃダメなことじゃないってのはわかったけど、びっくりするならやらないようにしようと思ったのに。よくわかんないや。
にしても、ちょっと暇。ディオネはなんか、ママみたいな感じ。相手してくれるけど、遊んでくれてる感じしない。
他の人と遊んじゃダメかな。
「ねーねー、エオス」
「えっ、はい?自分っすか?」
「うん。あそぼ」
「えっ……いやその。ディオネさんと遊んだらどうっすか?」
うーん、私と遊ぶの嫌なのかな。むむむ。
みんな、ディオネのことを気にしてるの?
「じゃあディオネとも一緒に遊ぶ?」
「馬車の中ではじっとしておきませんか?」
「むう」
確かに、ここ狭いし。遊べないかも。
やっぱり、外じゃないと暇だなあ。目的地ってところに着かないとダメなんだ。
うーん、早く着かないかな。
そういえば、早めに着くコツ、みたいなのを聞いた気がする。
あれ、なんで聞いたんだっけ。
なんか、私って知ってることと知らないことがたくさんあって、よくわからなくなる。
そもそも、私ってなんなのかわからない。うまく、思い出せない。
ずきり、と頭が痛んだ。なんだ、この痛み。
ああでも、思い出した。移動するコツってやつ。
確か、何かの真似をするんだ。せいてん?だっけ。
そこに書いてある言葉を言って、さいげん?するんだって。
えーっと、その言葉は。
「"約束の場所、いつか私たちがたどり着く安寧の地"」
これだ、言えた。
「……ライ、なぜそれを」
イェルクの言葉の続きが聞こえてくるよりも早く、ぐわんと意識が揺れた。
目をぱちぱちと瞬いたら、馬車はもう知らないところまで来てたみたい。
えっ、本当に移動しちゃった。すごい。
「あ、れ……」
ぐらり、と体が揺れる。
「聖典の一節を覚えている……?」
「ライさんは一部だけ記憶があるんじゃないっすか?」
なんか、みんなが言ってる。あっ、もしかしてこれも怒られることだった?
ダメかな、これ。
でもなんか、体が重いや。
「にしても、すごいわねこれ。私も、移動系の魔術は結構難しいのに」
「短縮移動は、本来は移動の座標はあまり自由に操作できるものではない。それに、消費する神聖力も莫大なはずだ」
「なんか、やっぱり規格外っすよねこれ。ライさんだからたぶん大丈夫そうだなーってわかるんすけど」
「……今のライって神聖力があるの?元々のライって聖女様の力を借りてるんだと思ってたんだけど」
「今もディオネと繋がっているのなら、そこから力を使っているんじゃないか?」
むむっ、難しい話をしてる。よくわかんない。
あっ、窓の外が違う景色になってきた。人がいそう。
そろそろ着いたりしないのかな。
ふあ、ねむっ。ちょっと寝よ。
「ライさん、大丈夫ですか?」
「うん、ねむい」
「急に神聖力使うからですよ」
「だって、つまんないんだもん」
あくびが、もう一度大きく出ちゃった。目がゆっくりと閉じられる。
馬車の揺れる心地いい感覚に身を委ねた。
◇◇◇
「ライさん、起きてください」
ゆさゆさ、と誰かが私を揺らしてる。
「着きましたよ」
「ううん」
ゆっくりと目を開く。太陽が眩しい。
どこかに着いたみたい。なんかよく言ってた、治癒局?ってところなのかな。
もうみんな馬車を出てるみたい。
「よっと」
そのままゆっくりと降りた。
あっ、シリルだ。さっきは近づけなかったからちょっとだけ近寄ってみる。
「……どうしたの?ライ」
みんな、なんで私のこと名前じゃなくてそっちで呼ぶんだろう。自己紹介したのに。
私の名前は、鏑木湊で……私?
なんか、何かおかしい気がする。
気持ちが悪いので、シリルの手をぎゅっと握った。
「えっ、どうしたの?ライ」
「なんか握りたくて」
「……わざとやってる?」
「わざとって、何?抱きつくのは我慢してるのに」
「……そっか」
手から伝わる温もりで、気持ちが落ちついた。
「ちょっと、シリル!ライさんを持っていかないで!」
「理不尽すぎないですか?」
「そもそもなんで敬語なんですか?」
「いや、その。聖女様相手なので」
「あなたと気安くしてたライさんが使ってた体ですよ」
「あんたも大概だな!?」
「その調子です!」
なんか、シリルとディオネが変なやり取りしてる。
「あの、ライさん。あんまり人を誑かしてるとよくないですよ?」
「たぶらかすって何?」
「えーっと、そうやって急に近づいたりとか」
「近づくとダメなの?アクイラとも、離れてないといけないの……?」
「うっ、この人小さい方がタチ悪いですね!?」
なんかアクイラも変な反応してる。仕方ないからパッと、シリルの手を離す。なんかさみしい。
遠くの方に、大きな建物がある。変なカラフルな窓、すてんどぐらす?だっけ。あれがついてる。
でかいね、あれが治癒局ってやつかな。教会の一部なんだっけ。
あっ、なんか背筋に変な感じがする。ぞわぞわーって感じ。
そっか、悪魔とかいるんだっけ。この世界。
あっちにいる。
「えい」
体に神聖力?っていうのが、巡っていく。ぐるぐるーって。
そのまま、一気に跳ぶ。ジャンプね。
「あれ、ライさん?」
「あっちの方にいるわね。っていうか、はっや」
「呑気な事言ってないで追いかけますよ!」
ふわーって跳んでる。こんなにジャンプとか走ったりとかできたことないからすごい。
あっ、いた悪魔。門みたいなのから出てきてる。
「人間のガキ?」
「えいっ」
「なっ、なんだこの力」
近づいて殴ってみたら、消えちゃった。
えっ、これいいことでいいよね?
みんな、悪魔倒したよ!
「ライさん、勝手にいかないでください!」
「悪魔いたから倒した!」
「……危険なことしたらダメですよ」
「えっ、ごめんなさい?」
これもダメなの?
よくわかんないな。
あーそっか。危険って、私が消えちゃうからとかそういうやつなんだ。
別に、消えてもいいと思う。
たぶん、ここでやりたいことやった気がするし。
ディオネを助けたくて、助けられた気がするから。
……みんな、よくわかんないな。
私を、どうしたいんだろう。私もどうなりたいんだろう。
こういうこと聞いたら困っちゃうだろうから、ディオネに手を引かれてみんなのところに戻った。
本人はゆるゆるだけど、周囲を慌てさせるタイプの人
っていうか、馬車の中にこんなに人いるとすごい話を動かしにくいことを実感