壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい 作:あまぐりムリーパー
とことこ、とディオネに連れられてライは歩く。
全員、唖然としていた。急にライが走り出したと思えば、そこに出現した悪魔を一瞬で消滅させて見せた。
悪魔の強さは三段階程度に分けられる。
下級、中級、上級の三つだ。
ライが倒したのは、下級と中級の間ぐらいの存在。一撃で倒すにはかなりの神聖力が必要になるはずなのに、それをライは引き出せて見せた。
「ええ、またライさんの件で問題が。なんでこんなに神聖力引き出してるんすか?」
「呪いにまみれてるよりはいいんじゃないですか?」
「アクイラさんはもう諦めモードっすか」
「だって、私はお世話係として来てるだけですから」
自分のことを話されてそう、と思ってライはキョロキョロと周囲を見る。
もしかして、またやらかしちゃったかなと思ってびくびくとディオネの後ろに隠れている。
全員の注目を集める少女、その本人は自覚しないまま、ただ場をひたすらかき回してはいるが、それは少女になる前から同じなので彼女、彼の気質なのかもしれない。
「もうライを勝手にどこかに行かせないようにしてよね」
「あなた、部外者でしょう?」
「成り行きってやつじゃない。もうシリルとかくっつけておけばいいんじゃない?」
「……なんか、俺を犠牲にしようとしてない?」
シリル、エヌマエーラ、ディオネを前にして治癒局の扉まで来た。ディオネが扉を叩く。
「はいはい、なんでしょう……か?」
扉から、チラリとみんなの様子を女神官が見ると、ぴしりと固まる。
そして、バタン!と勢いよく扉が閉まり、
「ちょ、ちょっとー!局長ー!なんかすごい人たちが来てます!圧がやばいんですけど!神聖力が爆発しそうなんですけど!」
と、慌ただしい声が聞こえている。
それもしょうがない。一般の神官では到底会わないような人物たちなのだから。
アクイラやエヌマエーラは置いておくにしても、他の面子からはとてつもない神聖力を感じて圧倒されてしまうのも無理はない。
「……悪いことしてしまいましたかね?」
「どっちにしろ、お偉いさんに話を聞いてもらわないといけないっすから」
苦笑したディオネに、エオスが声をかけたときに、がちゃりと扉が開く。
「はいはいどうもー、うわえぐいメンツだねー」
一人の神官が扉から顔を覗かせた。年は10代後半ぐらいだろうか。水色の髪を後ろで結っている。
背格好はディオネと同じぐらいで、少し小柄に見えた。
その少女がぐるりと全員を見渡して、はははと軽く笑う。
「どうもっす、イリス」
「おっ、エオスじゃん。ってかメンバーすご。イェルクにディオネ……と知らない人たち?おっ、そっちのは悪魔狩りの魔女じゃない?」
けらけら、とイリスと呼ばれた神官は笑う。
「イリス、いいですか?」
「どしたの、ディオネ。なんか、明るくなった?って、どうしたのそこの子。なーんか、変な感じだねー。神聖力はバチバチに感じるのに、なんかすごい圧があるよ」
「……イリス、少し止まってもらえますか?あなたを知らない人もいますから」
「おー、はいはい。そういう感じ?」
改めて、と言いながら扉から出たら黒い法衣をパッと払って全員の方へ向き直った。
「私はイリス、治癒局の局長ってのをやってます。そこのディオネとイェルクとエオスとは知り合いね。みんな、よろしくー」
ひらひらとイリスは手を振った。
◇◇◇
治癒局の中に、全員通されていく。人数が多いので、大部屋に全員入る形になった。
先に、エオスからイリスの元に行く。
「んで、今日は何の用?知らないかもしれなあけど、治癒局は忙しいんだよ?」
「あー、自分はちょっと寄っただけで」
「こらー、暇人か?あなた司教でしょ。いつまで私にくっついてるの」
「いや、この人たちに着いていく予定があったので、ついでにこれ渡しに来たんすよ」
「おー、この前の邪教の呪い案件ね?了解、了解。さっさっ、帰った帰った」
エオスから邪教の持っていたナイフを受け取って、懐に仕舞い込んで、しっしっと追い払った。
「あなたに用事があるのは私たちです」
「うんうん、言ってみて?っていうかさ、なんで魔術師までいるの?」
「私のことは気にしなくていいわ」
「うわ、すっごい気になるやつ!まあ、わかったよ。そこのディオネになんか似てる子でしょ?はーい、こんにちはー。私はイリスだよ?」
スッとライの目の前まで来ると、少しだけ屈んで視線を合わせる。
「こんにちは。えーっと、私はライ……でいいのかな?」
「えっ、もしかして名前をわからない感じかな?」
「ううん。みんながそう言うから」
「……なんか、複雑そうだね。話を聞きましょう」
ライから離れて、ゆっくりと椅子に座った。その対面に、ディオネが座る。
ディオネから、ライについての話を聞いてふんふん、とイリスは頷きながら耳を傾ける。
その間、たまにライの方に視線を向けて、興味深そうにその様子を眺めていた。
「なるほどねー、この子がディオネの中に入ってた異界からの来訪者で、呪いによって受肉したってことなんだ。そういえば、ディオネってこの前ボイコットみたいなことしてたの思い出したよ」
「ボイコットって……会ったときに気がついてくださいよ」
「あはは、なんか久しぶりに見たからさ。っていうか、ディオネもさっさと異端殲滅官なんてやめたらいいのに。こっちに来ない?あなたの
「今は、それよりもライさんを」
「はいはい。……これ、呪い関係してるからって私が見るところなの?まあいいけどね」
再び、イリスがライの目前にまで来て目を合わせる。
「おー、ライちゃん」
「どうも?」
「ふんふん、なるほど。魂を核としてその周囲に強力な呪いがうまいこと無害化しながら実体を得ていて、それが体になっているけど、魂と呪いとかがちょっと溶け合ってるから、自我が曖昧なんだね」
「え、えーっと?何の話?」
「ライちゃんの話。どう?体とか痛くない?」
「痛くはない、けど。なんか、自分の物じゃないみたい?」
「ほうほう、そんな感じなんだ?なんでそう思うの?」
「……わかんない」
「うーん、そっか」
その場で、イリスは周囲に問いかける。
「で、私の見立てを言う前にエオスとかはなんもわからなかったの?」
「自分は探し物専門っすからね」
「体の内部とかは専門外って感じ?そこの魔術師さんは?」
「そうねえ、呪いや瘴気とか化け物を燃料にして肉体を得ていて、ディオネにぶら下がっているような状態でこの世界に存在してるってことぐらいしかわからないわ」
「ほうほう、確かにそんな感じだね。でも、それだけだと本来はちゃんと意識があるはずなんだけど、ちょっと不思議な状態になってるね」
黒い髪を撫でて、混乱しているようなライを落ち着かせた。
「この子は、魂だけがある状態で何もないところから生まれて来てしまった。救世主は言い伝えによると、北の湖から母親もなしに生まれてきたとされているんだけど、これはその一部をなぞってるって言えると思わない?」
「それは、つまりライは救世主ということになるのだろうか」
「イェルクー、そんな単調じゃないって。聖典と同じ状況にすると、うまく神聖印が使えるのと同じだよ。救世主の伝説をなぞっているから、この子はその補正を受けて莫大な神聖力を得ている。それでいて、呪いの結晶で体が作られてるってこと」
ライの周囲からは常に微弱な神聖力が漏れていて、よく目を凝らすとそれが僅かながら見える。
「だから、多重の要素が重なっているせいで、この子は本来の自分を見失ってしまっているの。だから、境界をはっきりさせれば済むってこと」
「……治せるのですか?」
「ディオネ、これは治すというか元に戻すってこと。私ならできるよ。治療よりも、そういうやつの方が得意だからね。結界とかは私に任せてね!」
へへん、と胸を張って宣言しながら、イリスはライの髪をわしゃわしゃと撫でた。
毎回便利キャラが出てくる不思議な話
たまに合間にifエンドを入れようかなみたいな気持ちになっています