壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい   作:あまぐりムリーパー

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まだあいつは治りきってないらしい

「ねえ、シリル。私って何したらいいかしらね?」

「……なんで俺に聞くの?」

 

 イリスがライの治療をするらしいので、アクイラやディオネに任せて室内から出たけど、やることがなくてたまたまエヌマエーラと一緒にいる。

 

 にしても、ここは妙な場所だ。近づいてもあんまり気付かなかったけど、周囲に強固な結界が貼ってある。

 

 そういえば、治癒局所属の治癒師は治癒だけじゃなくて守護もある程度得意だったと聞いたことがある。

 

「だって、他の人はなんか色々やってるじゃない?エオスとイェルクは連絡するとか言ってたものね」

「だからって、別に俺に聞かれても困るけど」

「ふうん、つまらない人ね。あんたって、ライ以外に興味ないの?」

「……なんでそこにライの話が出るんだよ」

「それ、本当に言わないとわからないかしら」

 

 どいつもこいつも、すぐにそういう話に持ってくる。

 ……気にしてないってわけじゃないけど。

 

 面倒くさいので、話を切り替える。

 

「……あんたら魔術師なら、ライの状態とかわからないの?」

「専門外ってやつね。魔術ランク3位に解析が得意なやつがいるから、そこら辺ならわかるかもしれないけれど。……そろそろ疲れてきたんだけど、どこか泊まれる場所とか取りにいっちゃダメ?ねえ、足が痛いわ」

 

 ……たまに残念になるのも本当になんなの?

 

 ――たったった、と急いでいるような足音が響く。

 

「おっ、お二人さん!」

 

 イリスだ。治療は終わったんだろうか。

 

「治療は終わったんだけどね?ちょーっと、変な事態になっちゃってね。イェルクとエオスはまだかー」

「あの二人には何を頼んだの?」

「ああ、ちょっとここら辺最近物騒だからその件と、ちょっと報告にね?」

「……報告?」

「ライちゃんの件、さっさと教会に伝えてもらおうと思ってさ。こういうの、早い方がいいでしょ」

「えっ、そういうの危険って話じゃなかったの?」

「おお、魔術師さんもそこら辺の事情は把握してるわけだ」

 

 今のライは、教会にとってはあんまりいい存在じゃない。そもそも、異界からの来訪者でこの世界の人間じゃない。

 

 そんな状態の人間が、呪いと結び付いて危険かもしれない力を得ているのなら、処分しようとしてもおかしくないだろうし。

 

「確かに、教会に見つかったら危険かもだよ?だから、あえてイェルクの方から伝えてもらうの。ちょっと印象変わるでしょ?」

「ふうん、それでなんとかなるものなのね」

「うーん、ならないかもだけど。結局、ライちゃんを処分するかどうかって、危険性だろうからイェルクが大丈夫って思ってるって伝わってるのなら、行けそうだよねってこと」

 

 ……意外と考えてる。局長だからか。

 

 年が若いせいで、勘違いしてしまうけど。

 

 そう考えると、ライはわからないけど聖女様とかエオス、イェルクも含めて若くてやたらと神聖力が強い人が多いな。

 天才っていうのは、こういう人たちなんだろうか。

 

 ……ライに生意気言ってた時は、自分がそう思ってたから、ちょっと過去の自分に恥ずかしくなる。

 

 そんなことを考えていると、イリスの後ろからゆっくりと聖女様がやってくる。

 

 ……あの人も、かなりライのことを気に入っていて、よっぽどライに絆されてしまったというか。

 ……もしかして、俺もこの人みたいに見られてるってこと?そこまでではない、はず。

 

 よく見ると、聖女様の後ろにライがしがみついている。

 

「ライさん、大丈夫ですから」

「……離さないで、どっか行かないで」

 

 ……治療は終わったって聞いた気がするんだけど、これは何があったんだ?

 

「あれなんだけどねえ。どうやら、ライちゃんを治しちゃったら、一気に全部思い出したせいで、逆におかしくなっちゃってね」

「……おかしくなった?」

「記憶の流入に耐えられなくなって、一時的にまた幼くなっちゃったというか……。自己がふわふわしてる状態はなんとかできたんだけどねえ。まだ不安定だから、ちょーっとずつ治さないとね」

「なるほどねえ、あのライって記憶もあやふやだったものね」

「そこを失念してたんだよね。治癒師としては、かなりやらかしちゃったんだけど。あの体ってどうにも特殊だからわかりにくくて。記憶もちょっと定着しにくいっぽいし。本当の体じゃないからかもしれないんだよ。うーん、ライちゃんに悪かったなあ」

 

 ……そうなんだ。ライは、まだ回復しきっていないんだ。

 俺に、できることとか。何かないのかな。

 

 そういえば、体が特殊だからって言ってたっけ。記憶が定着しにくいとか。それを直せばなんとかできたりするのか?

 

 ……それだったら、できるかもしれない。

 

「ねえ、イリス。ライの件、俺も手伝えるかもしれない」

「えっ、何々?シリルくんって治療系の人?」

「……違うけど。俺の恩寵を使えば、もしかしたら変わるかもしれないから」

 

 恩寵の言葉に、イリスの目の色が変わる。

 

「君、初めて見たときから思ってたけど。まあまあ、やるタイプだね?信仰序列高い方じゃないの?」

「それ言い出すと、イリスもでしょ」

「あはは、それは違うよ」

 

 軽快に笑うその様子には、少し翳りが見える。

 

「私とか、ディオネとかエオスとか。イェルクと他の異端殲滅官もだけど。みーんな、ろくでもないことがあって。それで祈らないといけなかったような人たちなの。だから、こんな若いうちから狂信者だとか揶揄されてる人たちが、できてしまったってこと」

 

 ぴり、と肌に痺れるような感覚がする。イリスから溢れてくる神聖力が、少しだけ周囲に拡散してる。

 

 この人も、見た瞬間からわかった。とんでもない神聖力を秘めている。きっと、俺とかと比べられないぐらいに。

 

 ……こういう人たちは、みんな過去に壮絶な経験をしてるのかもしれない。

 

「君はそういうのもなしに、そこそこ強くなってそうじゃない?なら、それが一番健全でしょ」

「……そういうのわかるの?」

「まあね。まっ、そういうしんみりした話は置いとこうよ。で、シリルくんが手伝ってくれるってことでいいんだね?」

「いいよ。ライが早く良くなるなら、それでいいし」

「おー、いいね。じゃっ、また後で頼むよ」

 

 ばしっ、と肩を叩かれた。

 

「いたっ、何?」

「いやいや?やる気のある若者を見るとさ、ちょっと嬉しくなるよね?」

「そうなんだ。……なんでもいいから、その距離感やめてくれない?」

「おっ、なんだよ。ライちゃん以外だと君はつめたい感じ?」

「……みんなそういうこと言うよね」

「いいね、そういうの」

 

 妙に距離感が近くなったイリスが鬱陶しい。

 

 ちらり、とライの方を見る。目が合った。

 

「あら、向こうも君に興味があるみたいよ?」

 

 揶揄するようなエヌマエーラの声が、耳元から聞こえてくる。……変に近づいてくるなよ、びっくりするだろ。

 

 っていうか、変に距離感が近いやつが多すぎる気がする。

 

「……シリル、手を握ってもいい?」

「あっ、ライさんいつの間に?ちょっと、シリル!変なことしないでくださいね!」

 

 急に、ライが目の前までやってきたと思えば、ディオネに回収されていった。

 

「じゃあ、ディオネでいいよ」

「はーい、ライさん。ぎゅっとしますからねー」

「うん。みんなもして欲しい」

「私だけじゃダメですか?」

「……じゃあそれで我慢する」

 

 ……ライ、治らないからって普通は抱きつき魔にはならないでしょ。

 

 やっぱり、早く治しないとみんなが危ない気がする。




tips:神官は神聖力によってある程度の地位が決まります。そのせいで、姓を持たないものも多く、たとえ信仰序列上位の実力者であっても、元は普通の村人だった人も多いです。

まだまだよわよわライは続くらしい
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