壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい 作:あまぐりムリーパー
「ねえ、エヌマエーラ」
「何かしら?」
「なんでお前の腕の中に俺が収まっているんですか?」
「なんていうか、今のライはちょうどいいのよね」
どうやら、俺の体のことを調べてくれるつもりでエヌマエーラに、こうして抱き締められてる。
いや、そうはならないだろ。抱き締める必要ないし。
「そろそろ離してくれない?」
「嫌よ。ライって柔らかいもの。はー、癒されるわ。正直、別に私はこの場所に留まる必要ないけど、役得すぎるしー」
少しだけ、抱き締める力が強まった。
確かに、こいつなんでここにいるんだよ。成り行きだけどさ。
そもそも大所帯すぎるしな。何人いるんだよ。
そういや、イェルクとエオスは外に行ってるんだよな。何してんだろ。ディオネとアクイラは治療手伝ってるけど、あいつらは見回りとかかな。
「あなたの体は、普通じゃないものから作られてるけれど。イリスがうまいこと境界を作って、仕切りがちゃんとあるからでしょうね。安定してるわ」
「そう、じゃあよかった」
ついでとばかりに、頬をなぞられながら、エヌマエーラから調べた結果を教えてくれた。
いいんだけどさ、触りすぎだろ。
にしても、俺の体もよくわからないよな。
後から聞いたんだけど、元々あの呪いから作られてる体だったはず。その後、なんか異端実体を食べちゃったらしい。
……まあ、それは置いておくか。よくわからんしな。確かに、すごいお腹すいてたような記憶はある、ような?
んで、しかも普通に悪魔倒してたんだけど。神聖力がやたらと溢れていて、それがなんか救世主の伝説をなぞってるとからしい。
うーん、ようわからんな。っていうかさ、俺の存在が盛られすぎてるだろ。なんでそんなことに?
……まあ、異端殲滅官も相当盛られてる連中だからいいか。
「おっ、ライさん。もう完全に復活したんすか?」
「うん」
「……なんか、その割にはあれっすけど」
なんだよあれって。仕方ないだろ、エヌマエーラが離してくれないんだから。
「ライ」
エオスの後ろから、イェルクも顔を覗かせた。
「よう、イェルク」
「無事なようでよかった」
……虚ろな瞳に、少しだけ光が宿った気がして、なんかむず痒い。
「あっそ」
なので、なんとなく冷たく返した。
「照れ屋さん?」
「うっさい」
頬をつついてくるのが鬱陶しくて、エヌマエーラの腕の中から抜け出す。
ようやく解放された。人形じゃないんだぞ、こっちは。
「ライ、一つだけ言っておかないといけないことがある」
「えっ何?」
まあ、どうせ大したことないと思うけど。
「お前は異端殲滅官に認定された」
「なんて?」
待って待って。すごいこと言われてない?
は?俺が異端殲滅官に?なんで?
「俺の方からグレゴリーへ、ライの状態を伝えた。害がないことも含めて。そうしたときに、グレゴリーからそう通達があった」
「……なんで?」
「お前は特殊な状態だが、使えると判断したんだろう」
「断っていい?」
だって、やりたくないし。
「断らない方がいいだろう。異端殲滅官である、ということでライの存在を認めようとしてるということだ」
……なるほど。俺は思いっきり厄介そうな存在で、面倒くさいから消すことすらも方針に含めてもいいってことだけど。
それをなくす代わりに異端殲滅官になれよってことか。ありかよ。
「それに、異端殲滅官として仕事をしてくれる限りは――ディオネは働かなくてもいいらしい」
「……それは」
思わず、息を飲んだ。予想していないことだったから。
「だから、断らない方がいいんじゃないか?」
「そう、だな……」
それに、ずっと心配してたから。
ずっと、考えていたことがある。ディオネは立ち直ったのなら、また過酷な仕事をさせられてしまうって。
俺ですらやりたくないのに。
だから、あいつには例えばここで働いてもらうとかそういうことができないかなとか思っていた。
でも、それをなんとかできる、か。
だったら、俺は――
「ふざけた話をしていますか?」
底冷えするような声が聞こえて、しんと静まり返った。
「ライさんを、異端殲滅官に?わざわざ、ここにきてようやくライさんが戻ってきたのに?」
かつかつ、と足音が響く。
それと同時に、ピリピリと肌に感じる。凄まじい神聖力。
これは、本気で怒ってる、んだろう。
「そんなことをするなら、私はグレゴリーを消しますよ」
顔を覗かせたディオネの瞳は、とても冷たくて。そして、きっと本気で言ってることがわかる。
表情がすっぽり抜け落ちていて、今すぐ何かしでかしかねない。
けど、俺は動けなかった。ディオネから発せられるとんでもない量の神聖力に圧倒されてたこともあるけど。俺が何か言うと、逆効果になりそうだったから。
「さすがに、グレゴリーを消すとまで言われると。俺も黙ってみてはいられないな」
そのディオネにイェルクが立ち向かおうとする。
おいおい、ここでバトルになるやつか?
まずいな、なんとかして止めたいけど。
ちらりとエオスに視線を送る。首をぶんぶん、と横に振っていた。ダメか。
「……エオス、お前は強化でギリギリディオネ止められたりしないの?」
「いや、あの状態のディオネさんはさすがに無理っすよ!?」
そうなんだ。山の時はディオネの恩寵使ってた俺を止められてたのに。
「イェルクは、ライさんがどうなってもいいんですね?」
「そうは言っていない。教会そのものを敵に回してまで、ライを助けるつもりか?」
「ええ。私はそのためなら、何をしても構いません」
「それなら、止めないといけないな。ライも、きっとそれを望んでいないだろう」
「あの人は、自分が傷つくことを許容してしまいます。そんな状態を指をくわえて見ていろと?」
まずい、エスカレートしてきた。このままだと――
「こらー!こんなところで戦おうとしないで!」
その間に、イリスが割り込んでいった。
いや、大丈夫か?お前。そこ、下手したら死なない?
「イリス、どいてください」
「だから、ここで暴れようとしないでって言ってるの」
「……あなたからぶっ飛ばしてもいいんですよ」
「頭冷やしなよ。できるわけないでしょ?」
極めて冷静に、ディオネの前に立つ。
拳を握りしめたディオネの前から立ち去ろうともしない。
……えっ、大丈夫なやつ?
ディオネが動いた。見えないほどのスピードで、イリスに迫る。
そうして振るわれる拳は、ぱしっとイリスに弾かれた。軌道がそれて、空を切る。
拳の風圧だけが轟音と共に通りすぎていく。
二発目、同じように手で弾かれた。三発目も同様に。
「私と相性悪いこと忘れちゃった?ディオネ」
「……そういえば、そうでしたね」
すごいな、ディオネはたぶん手加減とかしてない。
魔王を倒したときと同じ、凄まじいレベルで身体が強化されてるのに、それをなんなく捌いている。
もしかしてさ、こいつも恩寵持ち?
「ライちゃんが心配なら、あなたが支えてあげなよ。というか、それぐらいしないと勝手に無茶しそうだし」
「それは、そうですけど」
「アクイラちゃんだっているんだから、みんなでライちゃんの動向をチェックしていい感じにケアしようよ」
あれ、なんか話の方向がおかしいな?
「それもそうだな。ライに、無茶させないようにすればいい」
なんでイェルクまでそっち側なんだよ。
とまあ、どうやらその内容で落ちていて、なぜか俺への包囲網が完成した。
おかしい。
「ところで、ライちゃんは完治でよさそう?」
クールダウンしたディオネから離れて、イリスがこっちにきた。
「ねえ、なんで俺が囲われてるみたいな状態になってんの?」
「うーん、君が撒いた種だし?ディオネに執着されるぐらいに、君がたらしこんだんだから、責任取りなよ」
「……別に、そんなことをやったつもりはないけど」
夢の中で泣いてる女の子を放っておけなかっただけなのにな。
「で、治ったってことでよさそう?」
「エヌマエーラは問題ないって」
「おー、じゃあよかった。っていうかさ、仕事たまってるんだから私はそっちやらないといけないんだよねえ」
「そうなんだ。なんかごめんな」
「いいよ、別に。君たちも落ち着いたら、早く帰りなよ。新人異端殲滅官ちゃん」
「うん。今までありがとうな」
さんざん迷惑書けたし、お礼ぐらいは言っておかないと。
そうすると、イリスはにっこりと微笑んで。
「じゃあ、後で抱き枕にさせて」
と言ってきた。お前ら、みんなそれしてくるじゃん。
「ちょっとだけなら」
つい、そう答えてしまった。
きっと、俺の中に抱き締められて安心する心があるからなんだろうけど。……マジで幼児じゃん。
メンタル、もとに戻したいな。
「ライ、これどういう状況?」
「うひゃっ」
急に耳元から声が聞こえてきて、思わず変な声が出た。おい、シリル。びっくりするだろ。
「……何その反応」
「うるさいな。変なタイミングで来るなよ」
どうせなら、もっと早くきてあいつら止めてくれたらよかったのに。さすがに無理そうだけど。
振り返ると、俺の様子に少しだけ頬を緩ませていたシリルが見えて、なんとなくムカついたので、
「結局、お前って俺のこと好きなんだっけ?」
と、聞いてやった。ちょっと前は、取り返しがつかなさそうでやめてたけど。
ぴしり、とシリルが固まって面白かったので、少しだけ落ちていた。
さて、異端殲滅官になったのはどうしようかな。
たぶん、ここから覚悟を決めてしまったシリルくんが本気でライを落とそうとするIFルートに派生する可能性がある