壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい 作:あまぐりムリーパー
馬車に揺れられてるのが、ゆっくりと眠りを誘った。
どうやら、俺はちゃんと治ったらしい。
いや、治るってなんだよ。別にこれ、本来の体じゃないし。
不安定なのが安定したって感じか。
ぐっと手を握る。それを開く。手に宿る妙なエネルギーを感じる。
というか、全身に駆け巡ってるような気がする。よくわからん状態だ。
俺の前に、手が回される。
「ライさん、揺れますよ」
耳元から、アクイラの声がする。……なんか知らないけど、ずっと抱き締められてる気がするんだけどな。
なんか知らないけど、勝手にどっか行かないようにとかで、なんか捕まった。
子供の相手は、アクイラの方が得意ですよね?とかいいながら、ディオネが任せてたんだけど。あの、子供ではないんだけど?
こんな見た目だけどさ。
……馬車の中は、俺とアクイラとディオネの三人だ。
そういや、どうやって動いてるんだこの馬車。まあいいか。
エヌマエーラは、なんかそのまま魔術院に帰った。んだけど、こっちをじっと見つめてから、
「研究対象としては興味深いから、たまにはこっち来てよね?」
と言っていた。俺の体のことが気になるらしい。
……あんまり行きたくはないな。研究対象とか、そんな気分よくないし。
イェルクとエオスは、早く戻らないと行けないんだってさ。
まあ、また向こうで会う機会あるだろ。
シリルはまあ、なんか顔を合わせづらいみたいで一緒に帰ることはしなかった。からかいすぎたか。
ってかさ、あいつあんな反応してたってことはガチなんか?
……俺みたいなのを好きになってたんだとしたら、それはなんというか。
なんというか、だな。うん。
普通に女の子を好きになった方がいいよ。
がたん、と馬車が揺れる。小刻みな振動が心地よくて首がかくんっ、と頷くように振った。
後ろにいるアクイラにもたれ掛かって、意識を手放した。
◇◇◇
次に目を覚ますと、もう王都付近についてあた。
えっ、俺めっちゃ寝てた?
って思ったけど、短縮移動をバコバコ使って戻ってきたらしい。
ゆっくりと、馬車を降りようとすると手を掴まれる。
振り向くと、ディオネが俺の手を掴んでいた。
ゆっくりと、白く細い指が俺の指を絡めとる。
「急に降りると危ないですよ」
ふふっ、と軽く頬を緩ませてるけど。お前、手を握りたいだけだったりしない?
なんて、思ったけどさ。手から伝わる熱が酷く熱くて、それを言うことを憚られた。
「さんきゅ」
ディオネに引っ張られるような形で馬車を降りる。
……さて、久しぶりに戻ってきたわけだけど。俺ってどうすればいいんだろうな。
――そんなことを考えてると、生暖かい風が頬を撫でた。
なんていうか、熱風みたいな?
「――あら、あらあら。ディオネはそっちで、ライは別、かしら?」
銀色の髪が風に揺れた。真紅の瞳が、じろりとこちらを覗いた。
「……ヴァレンティナ、何か用ですか?」
「あら、怖いわ?少し様子を見に来ただけだもの」
くすくす、と妖しくヴァレンティナは笑っている。
その姿を見ると、少しだけ背筋に寒いものを感じた。
あの時、一緒に仕事をして。話せると思っていた矢先に、燃やされたときの記憶が思い浮かんだ。
「はっ、はっ……」
呼吸が浅くなる。
こんな、恐怖が残っていたなんて。前に話してたときは、それぐらいはなんとかなってたと思っていたのに。
イェルクは、たぶん直接話してその気持ちを乗り越えられたんだ。
でも、ヴァレンティナは違う。というか、あの異端実体たちに殺されてた時の、嫌なものが一気に吹き出してしまったんだと思う。
深く息を吸い込む。大丈夫、ヴァレンティナもまともじゃないけど、話せないことはないから。
「ライさん、大丈夫ですか……?」
心配そうに、アクイラが覗き込んできた。背中をゆっくりと撫でられる。
「ごめん、落ち着いた。いきなりだったから」
「――ライ?へえ、あなたが。ライなのね?」
一瞬のことだった。ディオネの脇をすり抜けて、スッとヴァレンティナの顔が目と鼻の先まで近づいていた。
「……近いんだけど」
「とても可愛らしくなったのね?ライ」
「……うっさいな、たまたまこんな体になったんだよ」
実際、なんでこんな体になってるのかはよくわからんけども。
「そういうことじゃないけれど。中身が、かわいらしくなった、と思うのだけれど?」
こてん、と小首を傾げた。
……俺の中身がかわいらしくなった?
なんだ、そりゃ。そんなわけないだろ。
「……ヴァレンティナ、どいてもらえます?」
「あら、あらあら。まるで逆ね?ディオネを守るナイトのライが、こうやってディオネに守られてるんだもの。面白いわ」
くすくす、と笑い声を小さく響かせた。
そして、ゆっくりと俺の目の前から離れていく。
……本当に、いるだけで心臓が落ち着かないやつだよ。
「じゃあ、今日はこのくらいにしておくわ。久々に、面白いことになりそうだもの。うふっ」
小さく笑みを溢して、ヴァレンティナの背中が遠ざかっていく。
「……油断も隙もないですね」
「びっくりした、本当に」
「なっ、なんですか?あの怖い人。怖いんですけど?」
おー、よしよし。アクイラは普通の人の反応でかわいいなあ。
「えっ、何々!?なんですか、ライさん!?」
「アクイラはかわいいね、よしよし」
「なんか、ディオネ様からの視線がやばいんで、解放してもらっていいですか!?」
確かに、すごいディオネが凝視してくる。やめておくか。
……そういや、俺って異端殲滅官になってるんだよな。ってことはさ、めっちゃヴァレンティナとかと顔合わせない?
イェルクとある程度話せるようになっててよかった。いや本当に。
他のメンツも大概だけどな。怖いし。
やりたくねー。そう思いながら、歩き出して気付く。
そういや、ディオネの住んでたところって扉破壊されてたよな。
そもそも、俺ってそこに住むの?
「ライさん、私の部屋の場所は直ったそうですよ」
……思考読まれてる?
「ライさんはわかりやすいですから。よっと」
「なんで抱き抱えられてんの?」
「……ダメですか?」
「まあいいけど」
こうして逃げられないまま、ディオネに連行されたのでした。
「ライさん、異端殲滅官の件は無茶したらずっと閉じ込めちゃいますからね」
最後に怖いことを言われながら。
……あれだけ怒って反対してたもんな。気を付けます。
◇◇◇
「あら、あらあら。うふっ、今日はあなたと仕事ね?楽しみだわ、ライ」
「マジか」
「今のあなた、かわいくて好きよ?」
翌日、いきなり仕事を頼まれて現場に行くと、ヴァレンティナが待ち構えていた。
助けて。
ヴァレンティナ、久々に登場したなって