壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい   作:あまぐりムリーパー

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芯のあるかわいい子

 昔の話を聞くと、どうやら私は普通の人だったらしい。

 

 将来は別嬪さんになるだとか、色々なことを言われていた記憶があるぐらいで。特別な出来事もなくて、平凡な日々を過ごしていた。

 

 それが変わったのはいつだったか。

 

 私の住んでいた村が、炎に包まれていた時だったか。

 それとも、その時に燃え盛る村人たち――いつも話していた隣のおじさんとか、花をたまにくれたおばさんとか、憧れていたお兄さんの絶叫を聞いたときだったか。

 

 あの炎を見たときに、あまりに現実感がなくて魅入られてしまった。

 

 人は、火を見ると落ち着くことがあるらしいが、そういったものではない。

 ただただ、あれが神様のように見えた。

 

 すべてを紅蓮の光で包んで、消し去っていくあれは、すべてに平等に終わりをもたらすような、神罰に見えたんだろうか。

 

 今となっては私にもよくわからないが、炎は特別なものに思えた。

 

 だから、見知った人が命を散らしていってるのに、私の口角は上がるばかりで。

 

 歪に笑っていた。うふっ、うふふふ。あははは。

 そんな声が、ずっと耳元に聞こえていた。

 

 こんな笑い方をするのが自分だったのかなんて、その時に初めて知った。

 

 だからだろうか、こんな力が芽生えたのは。

 

 すべてが燃え去る瞬間が、美しいと感じて。

 その考えにどっぷりと浸かると、私の手のひらには炎が燃え盛るようになった。

 

 神聖印とは違う、数多のものを燃やす炎。

 どうやら、私の炎への妙な執着は信仰として判断されているらしい。

 おかしなものだ。

 

「あなたは、今から異端殲滅官です」

「あら、そう」

 

 いつしか、私は特殊な神官になった。

 

 異端殲滅局。普通の神官たちでは太刀打ちできない特殊な異端たちを滅ぼす存在。

 

 いつしか。信仰序列5位にまで上り詰めていた私の火力は、容易く敵を燃やし尽くした。

 

 そして、それに荷担した人間も。

 

 愚かな人間たちが、何人も私の炎で死んでいった。

 

 どいつもこいつも、妙な欲望に目が眩んだ連中だった。悪魔と結託して、目先の欲求を満たそうとして、事件を仕組んだような村をいくつも燃やした。

 村ごとまとめて焼き尽くしてしまえる私の力は便利らしくて重宝された。

 

 ……同じように使われてるのが、あの冷たくて人形染みた気持ち悪い女――クラリッサということは気に入らないが。

 

 そもそも、異端殲滅官たちが気にいらない。

 

 イェルクもクラリッサと同じで、人間味がない。あれらのどこに、信仰があるのかもわからない。神の敵を殲滅することだけを考えている、気持ちの悪いやつ。

 

 グレゴリーは、ある意味人間らしい。冷酷に、少数の被害を許容して世界を守る選択を取る。わかりやすいので、まだ気持ちはまし。

 少年少女だろうと、平気で使い潰すのはいささかどうかと思うが。

 

 ディオネは聖女と言われるだけあって、つまらない。善人を越えて、自分を犠牲にしてでも人を助ける割に、傷つきながらも人を殺すこともある。

 そんなに嫌なら、こんな仕事をやめてしまえばいいのに。

 

 他の面子も似たようなもの。興味が湧かない。

 

 だからだろうか。ライを見たときに酷く心が震えたのは。

 

 あのディオネが、傷ついて再起不能にまで追い込まれて、その中に入った極めて普通の人間……のはずなのに、この過酷な仕事で普通であり続けている。

 

 面白い。その普通らしさも、逆にそれを保てる普通らしからぬところも、とても興味をそそられた。

 

 だから、たくさん近づいてみせた。一度、仕方ないと言って燃やして。抱き締めて、愛を囁く。

 

 面白いように反応してくれる。震えて、怯えているのに。敵意だとか、警戒を隠さない。あの心は、折れないらしい。

 本当に好きになってしまいそう。珍獣を観察してるようなものなのに。

 

 

 そして、今。ライは小さな少女として新しく生まれ変わっている。そう表現するのは正しくない気もするが。

 

 細く小さな手足。保護欲をそそる、華奢な体。

 事前に聞いてはいたけど、見るまではあまり信じられなかった。呪いが形を得て、そこにライの魂があって、膨大な神聖力も得ているなんて。

 

 とはいっても、話してる限りはライだけども。

 ただ、接してみると少し様子が変わっている。

 

 前よりも随分と可愛らしい。中身はあまり変わっていないように見えたけど、少しばかり幼くなっているような印象を受ける。

 

 試しに抱きついてみれば、前に比べて反発の覇気がない。撫でても、あまりそれを嫌がる素振りもない。

 

 もしかして、こういった行為が実は好きなのかもしれない。体がかわって、そういったところが表に出てしまっているようなことなのかもしれない。

 

 ――けれど。

 

「勝手に、人のことをわかった気になるなよ」

 

 ライから、額を指で弾かれて。

 

 その時に、瞳をまっすぐと見た。

 

 そういえば、ちゃんと人として見たことはなかったのではないか。

 

 こうして見てみると、ただ一人の人間だ。震えて怯えて、それでも立ち向かっているあのライと同じ。

 

 きっと、その様子を見たときから少しずつ惹かれていたのかもしれない。

 

 いつの間にか、おかしくなってしまった私には眩しい存在。

 

 きっと、こんな人を見ると私みたいな存在はおかしくなってしまう。

 だからきっと。ディオネだって、あんなに入れ込んでしまっているんだろう。

 

 少しだけ、ライのことがわかって胸の奥が、どくんと跳ねた気がした。

 

◇◇◇

 

「ねえ、ライ」

「……何?」

 

 警戒するように、ライは目を細めた。その威嚇染みた行動も、その容姿では可愛らしくしか見えないけれど。

 

「あなたって、実はこんなことばかりしてるのかしら」

「何の話?」

「こうやって、デコピンだとかして。無理矢理、普通に引きずり込むのを」

「いや、本当に何の話?」

 

 きっと、ライには伝わらないだろう。

 

 ただ、デコピンされただけで。夢現のように、ぼんやりした状態で現実を見ていた私に、まっすぐと立ち向かったあなたが、とても眩しく見えて。

 

 好きになってしまいそうだと。

 

「例えば、ディオネとかにだってこんなことをしたの?」

「……デコピンはしたけど」

「うふっ。ふふっ、そう」

 

 自然と、頬が緩んだ。ああ、ライのことを恐らく気に入ってそうなディオネだって、同じようなことをされてたのか。

 

 ディオネはきっと、男としてのライを先に見て気に入ったはず。

 だったら、私だって知りたい。

 

 あなたの、その可愛らしい様子以外も。例えばこんな、危険で歪な女の子にさえ手を伸ばしかねないような、そんな男のライがいたとしたら。

 

 絶対に捕まえてみたいから。私のものにしたい。

 

 この体のライだと、無理そうだけど。

 

「……ねえ、これいつまでやんの?」

「そうね。今日は、特に何もなさそうだわ。明日もよろしくね?」

「……また、お前と仕事かよ」

「もう少ししたら、東の方の仕事もあるかもしれないけれど。クラリッサとセシルとの仕事がしたい?」

「……それしかないのかよ。イェルクとかディオネと仕事させてほしいな」

 

 しょんぼりと肩を下ろすライが、とてもかわいかったので。こっそりと後ろに回って、そのまま抱きついた。

 

「おわっ!?」

 

 柔らかい感触がする。不思議な匂いが鼻腔をくすぐって、少しだけ胸が高鳴る。

 

 そのまま、抱き締める力を強めた。

 

「私とは、嫌かしら?」

「お前、俺から好かれてるとでも思ってるの?」

「嫌われてたら、悲しいわ?報復でキスしてしまいたくなるぐらい」

「……」

 

 困ったように黙り込むのも、かわいい。

 

 そんな様子のライに頬擦りをした。びくり、と肩を震わせている。

 

 また、こうしてライをいじれる日々が続けばいいけれど。




村焼きは基本
ライかわいい勢が増えてきた
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