壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい   作:あまぐりムリーパー

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氷の人形さん

「どうも、ライ」

「……どうも、クソ野郎」

 

 なぜか、今日もクソ野郎と顔を合わせていた。

 

 ヴァレンティナとずっと仕事させられるみたいな流れだと思ったんだけどな。

 

「そろそろ、クラリッサが戻ってくるらしいです」

「……で?」

「あなたが、出迎えにいってくれませんか?」

「なんで?」

「あなたが、向いてそうだからですが」

「嫌だけど」

「そうですか。なら、後日顔合わせでもしてください」

 

 断っていいのかよ。

 

 ってか、向いてるって何?

 俺をなんだと思ってるんだよ。

 

 にしても、クラリッサか。あんまり前の印象がないな。

 

 なんか、無口なやつだった気がする。

 

「あら、あらあら。うふっ、帰ってくるのね。嫌よね」

 

 くすり、と笑いながらもどこか不満そうにヴァレンティナは吐き捨てた。

 

「相変わらず、ヴァレンティナはクラリッサのことが苦手ですか」

「苦手、なんてものではないわ。あんな、人形みたいな女」

 

 そういやヴァレンティナは前からクラリッサのことを嫌ってそうだったな。

 

 独特なテンションだけど、変に楽しそうなヴァレンティナと、いつでも何考えているかわからない無口なクラリッサか。

 

 わりと対照的な気がする、こいつら。

 

 唐突に、頬に何かが触れる。くすぐったい。

 

 ……この感触は、ヴァレンティナの髪か。

 

 そのまま、頬と頬が触れて。手が前に回された。

 

「ムカついたから、少しライを補給するわ」

「おい」

「このままずっとぎゅっとしたい」

「……何を言ってんの?」

「癒されるわ」

「なんなんだよ、お前」

 

 くつくつ、とグレゴリーが笑った声が聞こえた。

 

「随分と仲良しですね」

「……別に、そうでもないけど」

「そうですか?にしても、ディオネに続いて、イェルクとヴァレンティナまで、絆してしまうなんて、あなたを呼び出したのは正解だったのか間違いだったのかわかりかねますが」

「何がだよ」

「よくも悪くも、強い影響を与えてしまう存在ということです」

「あっそ」

 

 強い影響って言われてもな。確かに、ディオネは立ち直ったけど、それ以外はようわからんし。

 

 ……ってか、逆に信仰序列高いやつが変なんじゃない?

 あいつらだけ、やたらと俺に気を許しやすいだけとか。

 

「ともかく、クラリッサをよろしくお願いしますね」

「はいはい」

 

 しょうがないから、それを許してやるか。

 

 ヴァレンティナの腕の中から、なんとか抜け出して帰ろうとしたとき――足元に違和感を覚えた。

 

 ……影から、また俺の見た目とそっくりなやつが出てきてる。

 

「……やほ」

「……」

「ごめん、増えちゃった。帰る」

 

 ……そろそろ気にした方がいいかなあ、これ。

 

 俺、分裂してんのかな。いいのか、悪いのか。

 

◇◇◇

 

「ってことがあってさあ」

「はいはい、そうなんですね?あの、それはいいんですけど」

「ヴァレンティナに続いて、クラリッサまで押し付けられてる気がしてめんどくさいよな」

「……それはいいんですけどね?」

「しかも、クラリッサってどう話していいかわかんないし」

「ちょっと、話を聞いてください!」

 

 なんとなく、アクイラに抱きつくようにのし掛かってたんだけど。それがよくなかったのか、引き剥がされて座らされる。

 

「あのですね、前から思ってたんですけどね?ライさんって変に距離が近いじゃないですか」

「そうなん?」

「そうなんです!で、そうしてるとですね……ディオネ様の視線が」

 

 ちらり、とアクイラが見た先にはなんとも言えない表情のディオネがいた。

 

「アクイラには前からこんな感じだったと思うけど」

「いやそれはそうなんですけど!それが元からおかしいんですってば!」

「えー、しょうがないな。逆にアクイラを甘やかすか」

「逆効果!」

 

 騒いでいるアクイラを、なんとなく面白いなと眺めていたら、ぐいっと腕を掴まれた。

 

 そのまま、引っ張られたと思うと今度はディオネの腕の中に収まる。

 

「ねえ、俺の扱い人形かなんかじゃない?」

「違いますよ。抱き心地は最高ですけど」

「おい」

「でも、こうしてライさんと触れあっていたいだけですし。やっぱり、好きなので」

「……お前、やっぱり重くない?」

「ふふっ、重い私は嫌ですか?」

「別にいいけど。触りすぎ」

 

 だんだんと、抱き締めてくる力が強まってくるしさ。なんなん?

 まあ、いいか。ディオネがそれで落ち着いてるみたいだし。

 

「……ん、ここで合ってる?」

 

 急に、部屋の温度が下がった。

 

 黒い髪が、さらさらと揺れる。

 

 その奥に覗かせている青い瞳と目が合う。

 

「クラリッサ、なんでここに来てるんですか?」

「……ディオネ、もう元気になってる」

「悪いですか?」

「……ん、いいこと。今後、ライと仕事するらしいから。挨拶?」

「なんで疑問系なんだよ」

 

 そのまま、クラリッサが室内に入ってきた。それだけで、ひんやりする。夏場は重宝しそう。

 

「……ライ、小さくなった?」

「小さくなったとかの問題じゃなくないか?」

「……そう、かも。ライ、新しい体」

「別に体は変わっても、俺は俺だから」

「……かわいい」

 

 一切表情を動かさずに、ずいっと俺に顔を近づけてきた。吸い込まれそうな青い瞳に、自然と視線が向く。

 こうして見ると、綺麗だな。

 

 っていうか。

 

「なんだ、かわいいって」

「ライさんはかわいいですよ」

「ディオネ、ややこしいから」

「……ライが、かわいくなってるから。小さくて、猫みたい」

「誰が猫か」

 

 ……なんか、こいついきなりおかしくない?

 ってか、変に近いし。

 

「……私も抱き締めていい?」

「ダメです。ライさんが風邪引いてしまいますよ」

「……確かに。人によっては……触るだけでダメになるし」

 

 触るだけでダメになるってなんだよ。冷たいからってこと?

 部屋に入るだけでひんやりするぐらいなのがすごいな。

 

 そもそも、いきなり抱き締めようとするな。

 

 近かったクラリッサが、少し離れて。表情は変わっていないはずのに、真剣そうにこちらを見た。

 

「……ライもディオネも、今のままで大丈夫?」

「何がですか?」

「別に、今は不便とかないけど」

 

 帰れないのは不便かもな。

 

「……そう、よかった。ダメそうなら、凍結して痛みがないように……終わらせることができた、から」

「……急に怖いこと言うな。別に、そんなことしてもらわなくても大丈夫だから」

「……わかった。困ったら、言ってね」

 

 小さく、クラリッサは息を吐く。いつでも、こいつは白い息を吐いてるのかな。

 そして、そのままゆっくりと部屋から出ていった。

 

 たぶん、これは親切のつもりで言ってるんだろうな。異端殲滅官ってずれてるやつ多いし。

 

「……行きました?な、なんか冷えてて怖かったんですけど」

 

 隅っこの方から、アクイラが顔を覗かせる。

 

「寒いし、顔から表情読み取れないですし!」

「なんか、アクイラがいると安心するわ」

「どういう意味ですか!?」

「かわいいね」

「ライさんには負けます」

「確かに」

「おい、お前ら」

 

 ……分裂する俺とクラリッサ、同時に対応だけはやめてほしいな。




今のところ、誰との絡みとか誰ルートを期待してるのか気になるからそのうちアンケートを取りそう
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