壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい 作:あまぐりムリーパー
ひんやり、と冷えた空気を肌に感じる。今日は、ヴァレンティナは来ないらしい。
というか、王都付近ではイェルクもだけど、あいつらは忙しいらしい。
たまに、局所的に悪魔とかがでてくるとかで、忙しくなることがあるんだってさ。
そういうわけで、たまたまこっちにきたクラリッサと共に歩いている。
王都からちょっと離れたところだな。ここら辺になんかいるのか?
「……」
「……」
クラリッサってさ、あんまり喋らないし無表情だからわかりにくいんだよな。
何話していいかわからん。
「……ライ」
「何?」
「……気を付けて、ね」
「……おう?」
こちらを覗き込んでくるその表情もいまいち、読み取れない。
こいつ、元からそんな感じなんかな。
「……エオスがね」
ぽつぽつ、と話し始める。なんか、テンションもいつも低いな。昨日見た感じだと、意外と感情はちゃんとしてる気がする。
「……ライに、なんかついてきてるって」
「えっ、俺に?」
着いてきてるって何?そんな、ホラーなものでもいんの?
いや、この世界は割とホラーとかそっち系か。
異端実体とか、だいたいキモいしな。
「……だから、あんまり離れないで、ね?」
「守ってくれるって?期待してるよ」
「……近すぎてもダメ」
「……えぇ」
少し寄ろうとしたら、逆に離れられた。ひんやりしてるから、近づくとなんかあんのかな。
そういや、触るとダメになるみたいな話もあったっけ。
どうせ、問題ないだろ。なんか、距離感遠いと逆に嫌だしさ。
だから、クラリッサへ手を伸ばしてその手を掴んだ。確かに、冷たいな。ひんやりしてる。
「……さ、触っちゃダメ」
「いや、離れたらダメならこれでいいだろ」
「で、でも……凍ってしまうか、ら?」
目をぱちくりとさせている。俺が握ったままでも、大丈夫だからってことか?
でも、ちょっとひんやりしてるだけだしな。
「……ライ、神聖力がすごい、ね?」
困惑して、ずっとこっちをキョロキョロと見ている。
神聖力か。なんだっけ、なんか救世主の伝説をなぞってるせいで、そういう扱いになってるだとかで、神聖力が溢れてるんだっけ。
「ディオネとか、みんなの方が祈ってるのにな。なんか、なんもしてない俺がこんな力持ってるのも変だけどな」
「……でも、ライはディオネを立ち直らせたから。それでも、いいと思う」
「……はあ、俺がやるべきことだったのかはわからんけどな」
「……ライで、よかった。と思うよ?」
握ってる手が、少しだけ引き寄せられた。少し、込められた力も強くなる。
「……こんなにかわいいのに、ね」
「なんだよ、見た目だけだろ」
「……そんなライの、心に。みんな、救われてそうだから。すごい、よ?」
「……そうかよ」
救われてるって言われても。ディオネと話しただけだし。
ってか、みんなって何?イェルクもヴァレンティナも変に人間っぽくなってたけどさ。
「……私のことも、救ってくれたりする、かな」
じーっと、クラリッサの瞳がこちらを捉えてくる。やっぱり、表情は動かない。
でも、不思議と微笑んでいるような気がした。
「別に、俺は誰でも助けるみたいなやつじゃないよ」
「……そう。残念」
声色も平坦で、感情は読み取れないけど少しだけ弾んでる気がする。
「……思ったんだけどさ」
「……うん?」
「クラリッサって、チョロい?」
ぴたり、とクラリッサの体が固まる。
……いやその。なんか、懐かれてる気がしてさ。
手を握っただけで、そうなるの?ってなっちゃったから。つい、ね?
「…………ライって、たらし?」
「なんだよ、それ」
「……よく、人に好かれてそうだけど。こういうところかなって」
「さあな。なんか好かれてるってのもわからんし」
「……ふうん」
と、何かしら意味ありげな視線を向けてきてからは、何も言わなかった。
ただ、少しだけ歩くスピードが早くなって。引っ張られるようにして進むことになった。引率されてんのか?
「……いない、ね」
「そうだな」
特に、何も見つからない。エオスが探したらしいから、そこら辺にいそうだけど、
エオスって、一応見つけたいものを探す恩寵なんだよな?
探しにくいんかな。じゃあ、俺らで探せるか?
「……ん、なんかいる」
「マジ?」
煙のようなものが揺らめいている。実体は、なさそうに見えるな。
少し見続けていると、フッと消えた。
その下には、何かある。
「……これは」
倒れた犬がいた。たぶん、死んでる。
……外傷らしきものはないけど。なんだ、これ。胸糞悪いな。
いや、なんか病気とかなのかもしんないけど。悪魔とかが関わってたら嫌じゃん。
ってかさ、この世界の悪魔は意外と影薄いな。あんま直接戦った気がしないぞ。
邪教には関わってたけど。それぐらいだし。
「……獣の声がするって、これに関わってるのかもしれないね」
「お前、たまにスラスラ喋れるんだ」
「…………ライ、真面目な話してるのに。そんなこと、言ってると。みんなみたいに抱き締めるよ?」
「勘弁してくれよ。最近、ずっと抱き枕の扱いなんだけど」
「……子供体温で、温かそうだね」
「おい」
なんて、軽口を叩きながらその犬のお墓を作ってやった。この世界はそういう文化あるのか知らないけどな。気持ちの問題だし、こういうの。
にしても、わんこ絡みってのはなんかやだな。
この前の穴とかさ、気持ち的にきついやつが無駄に多いんだけど。この世界ってやっぱろくでもねーわ。神様との距離近そうなのにな。
「……ライ」
振り向くと、思ったよりも真剣そうなクラリッサの顔が見えて、少しビックリした。
「……これ、やっぱりライを狙ってる気がする」
「あー、さっきも言ってたな」
「……だから。気をつけて、ね」
ぎゅっ、と手を握られた。たぶん、普通に心配されてるんだろうな。
「なんかお前、普通にいいやつなのに異端殲滅官なんだな」
「……私は、人の心とか。よくわかんない、から。殺すのも、躊躇いないから向いてるらしい、よ」
……これ、あのクソ野郎に言われたパターンとかじゃない?
向いてるって。たまたま、理解できてないだけだろうに。嫌な話だ。
私も救ってくれるだとか言ってたし。本当は、こういうことが嫌で救われることを期待してるんだろうか。
……なんて思ってても、自己満にしかならんけどな。
「……私のことは、気にしなくてもいいよ」
最後にそう、微笑んだように少しだけ口元が緩んでいて。
……なんとなく、俺を遠ざけるときのディオネと重なって、気に入らないという気持ちだけ抱えていた。
◇◇◇
「やほ」
暗い空間に、俺と同じ何かが立っている。
クラリッサとの仕事を終えて、帰って寝たはずなのに。
「私は、ライだよ」
……何から突っ込んでいいのかわかんないな。
「たぶん、そっちは男のつもりの
「えっ、何。つもりってどういうこと?」
「こっちは、女の
「……なんか、それも複雑だな」
「お嫁さんって興味あるよね」
「急にぶっ込んでくるな!?」
……なんか、もう頭が痛いな。寝させてくれ。
ごめん、寝てるわ。
うーん、現実逃避したらダメかな。
と思いながらも、どうしようもないので。
こいつの話に耳を傾けることにした。
ようやく分裂体との話