壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい 作:あまぐりムリーパー
なんとかディオネを宥めることができた。というか、死ぬほど抱き枕にされた後に病みモードが止まらないディオネとずっと話すことで、なんとか解放してもらった。
ディオネは疲れたみたいで、奥の方に引っ込んでる。
「……何したんですか?ライさん」
ジト目でアクイラに見られてるんだけど、俺のせいなの?
「ちょっとディオネの病みスイッチをいれちゃったね」
「本当に何したんですか?」
「なんか気持ちが溢れだしてた、みたいな感じ?」
「……大体ライさんが悪いってことですか」
「おかしくない?」
俺のせいにされるんだ、それ。いや、俺のせいなのか?
そろそろ考えた方がいいな、今後どうするかとか。
結局さ、帰りたくはあるんだよ。そんな、現代に何の未練もないとか、そういうわけじゃないし。
つっても、しょーもない生き方しかしてないけどさ。
んで、正直帰れるかはわからない。でも、魂の繋がりみたいなのがディオネに見えて、その先の方まで繋がっているような感覚がある。
きっと、その先に行くとたぶん、帰れるんだと思う。
だから、感覚的には帰れそう。
んで、それをもう目指してもいいわけ。
今のところ、俺はディオネを傷つけたくないから仕事をしてるわけで。これをなんとか解決したくはある。
これさ、やっぱディオネと一緒に逃げるのが正解かもな。
まあ、くっそ重いけどさ。あいつと一緒に生きていくのも楽しそうだよな。
……他のやつとも、多少は会いたいけどな。もとに戻ってから、女扱いしてるやつをバカにしに行きたいしな。
なんか守ろうとしてくるシリルとか、すごいバカにするのもありだな。お前らはガキなんだぞって言えるし。
「で、悪女のライさん」
「おい、誰が悪女だ」
「だって、酷いことしてそうですし」
「……ディオネからひたすら好意をぶつけられてるだけなんだけど」
「それを無下にできるのもすごいですよね」
「……明確に答えてないだけだけどな」
「一緒じゃないですか?」
……否定はできないけど。別に好きとか嫌いとかわかんないしな。そもそも、こんな体だし。
「ディオネ以外も、こんなちんちくりんになった俺を好きになるのがおかしいのにな」
「……みんな、姿じゃなくてライさんの心が好きなんですよ」
それは嬉しいやらよくわからないやらで、どう答えていいかはわからないけど。
「アクイラもそうなん?」
「……っ、いやその」
アクイラの目が泳いだ。えっ、お前も?
「へえ、俺もアクイラのこと嫌いじゃないよ?」
スッと近づいてやると、面白いぐらいにうろたえる。
「その、本気……ですか?」
「冗談」
「ライさん!?」
「いでででで」
頬をつねられる。いや、からかっただけじゃん。
「もしかして、こんなことばっかしてるんですか?」
「えっ、どうかな。まあその、シリルとかにもやったとも言えなくもない?」
「……何してるんですか?本当に」
「いや、もうやってないし」
「一回もやらないでください!」
「痛いって」
ぐにぐに、とほっぺをいじめられている。からかいすぎもよくないか。
「結局ライさんって誰が好きなんですか?」
「えっ、どうだろう」
「うふっ、気になるわねそれ」
「……ん、気になる」
「うわっ」
部屋の温度が急に上がったと思えば下がる。
いつの間にか、ヴァレンティナとクラリッサが部屋の中にいた。いつ来たんだよ。
「私も、ライのことは好きよ?」
くすり、とヴァレンティナは笑う。その瞳は真剣な気がする。
「……私はよく、わからない」
対して、クラリッサはいつも通り、ぴくりとも表情が動かない。
「そうよね?人形みたいに、感情とかなさそうだもの」
「……違う。感情、あるから」
「へえ、そうかしら。あなたが笑ってるのを見たことある人がいるの?」
「……あなたが落ち着いてるのも、見たことない。笑い続けてる、人形みたい……」
「この女、燃やすわよ?」
「……そっちがその気なら、凍らせるけど」
なんだなんだ、こいつら仲悪いな?
急に喧嘩するな。
「ちょっ、ちょっと!ライさん!なんとかしてください!」
「えっ、俺?」
「いつもみたいに、心に付け込んでください!」
「俺をなんだと思ってるの?」
「悪い人」
「うわ、ストレートだなあ」
アクイラからの評価が終わってきた。おかしいな。
「お前は、喧嘩やめろ」
「あら、あらあら。しょうがないわね」
「……ん、わかった」
言うこと聞くんかい。
「ってか、なんか用事あるの?」
「……仕事。エオスが、ある程度見つけてきたって」
「そう、そのことよ。ライに何かが引っ付いてきてるそうなのだけど。それがね?どうやら、獣に乗っ取ってきてるらしいのよ」
獣?
ってか、また俺由来なのかよ。
この体、厄ネタがすぎるだろ。
無駄に抱き締められるところも、厄ネタか。なんて、冗談だけど。
なんか、魅了する呪いとかある方が逆に納得できるんだけどな。
まあいいか、それは。
「……だから、ライから辿っていくことで、それを見つけたいって」
「ふーん。そもそもそれって、害があるの?」
「わからないわ。だから、それを確認するの」
「なるほどな」
俺がなんかやらないといけないってことね。
「…………で、私とヴァレンティナでそれを担当するんだって」
すごいな、表情が動いてないのに不満だってすごいわかる。
「不満しかないけれど、ライとの仕事ならやってもいいものね」
「……私も、ライがいるなら、いいかなって」
……なんか、クラリッサからの好感度も妙に高くないか?
それよりも、一緒に仕事する上でやらないといけないことがある。
「とりあえず、お前ら喧嘩禁止ね」
二人は渋々動いていた。
◇◇◇
教会本部から抜けて、人があまりいない通りを通って、俺――シリルは部屋に戻る。
気を抜くと、ライの言葉が頭の中をぐるぐると回ってる。
――結局、お前って俺のこと好きなんだっけ。
その言葉に、真剣に答えられたら少しだけでも、意識させられたのかな。なんて、余計なことを考えてしまう。
なんで、こんなにライに心を乱されているのかもよくわからない。
イェルク……あの神聖力の密度が高すぎる人も、どうやらライに絆されてしまってるみたいだけど、俺とは違う気がする。
友人としてライを歓迎してるみたいに。……俺も、そうなれたらよかったのに。
あいつが妙に近くて。変に意識させてくるから。
「はあ……」
大きくため息を付くと、何かが視界の端で動くのが見えた。
黒い髪が揺れている。細い体がゆっくりと、飛び出してきた。
「……やば、なんか出てきちゃった」
「……ライ?」
どう見てもライがそこにいる。……この部屋の扉は閉めてたんだけど。
「……やほ?」
「いや、何?そういや、聖女様の影を通るとかできたんだっけ」
「へえ、そうなんだ?っていうか、シリルの前に来ちゃったな」
「えっ、何?」
こっちを見て、にやりとライが笑う。
「こういうのも、運命だと思わない?」
どこかライらしくないような、その少女がゆっくりと近づいてきて、なぜか動くことができなくて。
「なんて冗談だよ、ガキ」
「いてっ」
ぺちん、と額を弾かれた。……変にドキドキして損したけど、ライってこういうやつだったな。
はあ、なんでこいつのことを気にしてるんだろ。
「あっ、そうだ。俺のことが気になるならさ、落としてみなよ。なんてな?」
こういうところも、本当に腹立たしいと思う。
くっついてほしい人、ディオネが圧倒的で面白い
ハメって精神的BL大国家だと思ってたのに割と覆るんだ