壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい 作:あまぐりムリーパー
ライに手を引っ張られる形で歩く。俺は聖女様の場所を知らないから。いや、一回行ったっけ。
……事態が意味わからなさすぎて、未だにこのライが増えてるだとか、そういうことが把握できてないんだけど。
たぶん、実物見ないとわからない。
どういう状態なんだろう。たぶん見たら、卒倒しそうになるんだと思うけど。
だって、聖女様とあのイェルクが必要って判断してるレベルなんでしょ。
俺、たぶん必要ないよね。
「ん、どした?」
「なんでもない」
「見惚れてんの?ロリコンかよ」
「なんか罵倒されてる?」
こうして見ると、小さく見える。というか、小さいんだけど。
「ってか、歩くの疲れたんだけど。シリルにおぶってもらうか」
「本当にしようか?」
「おう、やってみなよ」
本当に煽るだけ煽ってくるの何?
別に、軽そうだからそれぐらいはできそうだけど。
っていうか、このライは俺の気持ちとかある程度わかった上でこういうことしてくるから、本当によくない。
そろそろ、誰かに怒られた方がいいよ。
「本当にやっていいの?」
「……どうぞ?」
「やめとく」
「つまんないね、意気地なし」
つまらなさそうにライの眉が下がる。頬を膨らませて、そのままぐいっと俺の手を引っ張った。
強引に連れていかれて、そのまま進んでいく。
普通に、人通りのある道を進んでいるせいで少し目立つのだけちょっと嫌かもしれない。ライが小さいせいで、微笑ましい視線を向けられてる。
「こっちね」
気付けばもう、聖女様の家まで来てたらしい。
扉を開けて中に入る。
「……あれ、ライさん?」
隅っこで丸まっている聖女様がそこにいた。
……なんでそんな隅っこに?
「って、なんで手を繋いでるんですか!?」
ガバッと起き上がって、すぐに目の前までやってきた。いや、速すぎて目で追えなかったし、その軌道に神聖力の流れが見える。
……神聖印とかもしかして使ったの?どういうこと?
「ん、これ?シリルが情熱的に繋いできたから」
「何言ってんの?」
「なっ、ライさんは私のものですけど!」
「いや、別に私はディオネのものじゃないけど」
なにこの状況。ライが煽ったせいで、聖女様からすごい目で見られてる。
と、思えばライは手を離してそのまま奥まで進んでいった。
「で、どういうことなんですか!?」
「あの、聖女様。近いんですが」
「聖女様じゃなくていいです!ほら、ディオネって呼んでくださいね。同じ、ライさんのことを追い求めてる人ですし」
「……」
なんか、やっぱり聖女様もライのせいでおかしくなってるし。いや、前々からそんな感じはしてたけど。
少し奥に目をやる。
「やほ、アクイラ」
「ライさん、どうしたんですか?」
「おー!よしよし!アクイラは可愛いなあ!」
「えっ、なっなんですかっ!?」
……なぜか、ライがアクイラを撫で回してる。
「いやね。私ってディオネとシリルに好かれてるから、そういう意味ではアクイラとは気が楽だよね」
「なんかこのライさんおかしくないですか?」
「アクイラも私のことまあまあ好きだと思うんだけど」
「本当におかしくないですか?ライさんが、そんな人の機微とか感じ取ってるの」
「でも、ディオネとかシリルはラブ勢だけどライク勢っぽそうだしね」
向こうで好き勝手言ってるし。
「で、ライをどうしたんですか?手を握ったりして!」
目の前では聖女様が詰め寄ってくる。助けて欲しい。
◇◇◇
「えっ、そんな状態なんですか?」
なんとか、ライに説明してもらって、状況を整理した。
「あーもう、なんであんなに慌てちゃったんだろう」
聖女様も落ち着いたみたいで、逆に自己嫌悪で頭を抱えている。
「まあそこはライが悪いので」
「えっ、私?」
「そう、そのライさんですよ!なんですか?私って」
「えっ、聞いてなかった?だから、私たちは増えたんだって。今、ここにいるのは女の子のライってこと」
一回説明してるはずなんだけど、アクイラも聖女様も、あんまりついていけてない。
そりゃそうだ、増殖してるとかよくわからないし。
「えーっと、ちょっと待ってください。ここにいるライさんは、分裂してて」
「そうそう」
「で、仕事に行ったはずのライさんは向こうの方でさらに増殖してる?」
「そういうこと」
「それで、そっちのライさんは暴走してるから止めに行こうって話ですか?」
「さすが、アクイラ。かわいいぞ」
「褒め方が雑すぎますって」
なんとか飲み込んでくれたみたいだけど。
「……そんなめちゃくちゃなことになってるんですか?」
逆に聖女様は、あんまり飲み込めてなさそう。
というか、しれっとライのそばに近づいて肩を寄せてるんだけど、速くて怖いんだよ。
「そうだよ。ちなみに、私はディオネの好きな男の子のライじゃなくて、女の子のライだから」
「……それもよくわからないんですけど。とりあえず、みんなでそっちに向かった方がいいってことですか?」
「そういうこと。ディオネもわかってるじゃん」
「それで、シリルが好きな方のライさんってことですか」
「よくわかってんじゃん!」
「あの???」
なんでそうなるの?頭痛くなってきた。
「って冗談は置いておいてさ、イェルクにも協力してもらいたいんだけど、いけそうかな」
「……それはどうでしょうか。簡単に連絡も取れないし、他の仕事をしてるかもしれないので」
「うーん、そっか。とりあえずこの面子でいく?」
「えっ、私もですか!?」
「アクイラは私のメンタル回復用」
「……いります?」
「いるよ?」
……愉快なパーティみたいになってるけど大丈夫?
抱きしめようとする聖女様の腕の中からライがするりと抜けて、逆にアクイラの方に行って後ろから抱きついてるし。
それよりも。
「これ、教会に報告しなくていいの?」
「それは、問題ないでしょうね。ヴァレンティナとクラリッサが対応してると聞けば、たぶんあんまり気にしないと思いますが」
異端殲滅官、その存在を俺はまだあんまり知らない。
ただ、全員規格外な存在なのはわかる。
だから、そのうちの二人が対応してると思われてるのなら、問題ないってことなんだろうけど。いいのか?それで。
「イェルクだめかあ。じゃあ、この面子で一旦私のところに行こう!」
「そんな緩い感じなんですね……私、ここに交じらないとだめですか?」
「来ないとシリルをいじり続けないといけないじゃん」
「……なんで俺?」
「ディオネは、あんまりいじると病みそうだから」
「……別に、病まないですけど」
そんな、そっぽ向きながら言われても。
にしても、そのライの本体?というか暴走してるやつは、どんな強さしてるかによるのかな。
というか、そもそも敵なんだろうか。
「――あはっ」
そこに、不意に笑い声が響いた。
それも、ライの影から。
「いたよ、ここに」
「いるよね、アクイラはいいや」
「シリルとディオネがいるけど、どっちがいいかな?」
「どっちもでしょ。ねえ、二人ともさ。遊ばない?」
俺も、ライも、聖女様も、アクイラも。ぴしりと固まった。
ライの影から何人ものライが溢れてきている。
「シリルって女の子の私が好きなんだよね?いいよ、ちょっとぐらい付き合っても」
「ディオネは、男の私が好きなんだっけ?そっちの要望に答えるのは難しいなあ、だって体の性別をいじるのは難しいから。でも、いいよね?男っぽかったらさ」
するり、と一人が俺の目の前まで来た。
手を背中に回される。抱きしめられている。
鼓動が伝わる。分裂した状態でも生きてるんだ。
遠くでは聖女様も同じようなことをされている。
「それで、遊んで満足したらさ。この世界ちょっとだけめちゃくちゃにしちゃおうよ」
耳元から、入り込んでくる。
なぜか、それに反対しようとしても体が動かなくて。抱きしめてくるその手を振りほどけないでいた。
「……唆すのも、ほどほどにしてね」
ライの、低い声が聞こえた。
「あはっ」
「こっちの俺はそっちなんだ」
「じゃあ、止めてみなよ」
解放される。
するする、と影に戻っていって全員消えていく。
「いや、危なかったなー。あのままだと、みんな誘惑されていきそうだったから」
……まあそうだけど。
単純に、急にあんなにたくさんのライが出てきてびっくりした。ライらしくないし。
聖女様と目が合う。同じことを思っているのかもしれない。
……想像よりも厄介そうで、気が重い。
見直したら初期のシリルがまあまあクソガキで、こんなに変わったのかと感慨深い気持ちです