壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい 作:あまぐりムリーパー
ぐらついた視界が、ようやくはっきりしたときはよくわからない建物にいました。
……さっきの声はいったい?ライさんの、声らしきものが。
「あっ、やっべ……こっそり飛ばしてきたの変なところに来ちゃった」
声の方を見ると、ライさんがいます。いや、向こうにもライさんが?
というか、他の人もそこにいる。これは、全員巻き込まれた、んですかね?
「あっ、ディオネ。……えーっとその、捕まえた。なんちゃって、はは」
誤魔化すように、ライさんが近くまで来て裾を掴んできます。……なんか、そういう動作をされるとかわいくてつい、手が出そうになるのを、我慢我慢……。
「えっと、増えてる他のライさん」
「うーん、まあそう。いや、あの暴れてる方の俺たちが影から出ていってたから、あっそこに繋がるんだ!って思って出てきたんだよね」
……つまりは、ライさんたち全員が暴れてるみたいな感じではない?
「俺たちのうち、負の感情で構成されたものが、呪いの器と結び付いて異端殲滅官とかに八つ当たりしてるんだけどさ。そうじゃない俺たちもいて、そのうちの本体以外があっちにいる女の子の俺と、ここにいる普通の俺ってわけ」
なんか、ややこしくなってきました。なんでそんなことに?
「それで、ここに来るときにあいつらの仲間のふりしないと行けなさそうだから、こっそりきて、敵っぽく捕まえたふりしてて、そこでなんかこう飛べそう!って思ったからやったらこうなった、みたいな」
「……勢いでやりすぎじゃないですか?」
「ははは、こっちはあんま考えてない方のライだからね。少年みたいな感じ」
「ふーん」
「おい、自然と抱き締めようとするな」
とりあえず、腕の中にライさんを納めて考えます。温かい。温もりってこういうことなんですね?
ライさんは、私が持っていっていたあの呪いで体を得たけど、あの呪いのせいでどうやら暴走してしまった。
そのうち、負の感情らしき部分が八つ当たり気味に動いて、恐らくヴァレンティナとクラリッサを襲っていたり、私たちを仲間に引き入れるために誘惑してくる。
でも、そうじゃない個体もいて、それがここにいる、とかそういうことでしょうか。
「えっ、なにここ」
「……なんか私に飛ばされたりした?」
「なっ、なんですかこれ。知らないところにいるんですけど!?」
みんなも慌ててる。そりゃ、そうですよね。
「あっ、もう一人私がいる!?」
「よっ、俺!ごめん、短縮移動っぽいことしようとしたんだけど、場所間違えたわ」
「なにしてんの?って、ディオネに捕まってるからいいか」
……そういう判断でいいんですか?
「えーっと、ディオネ様。そっちのライさんは?」
「普通のライさんっぽいので捕まえてます。アクイラもそっちのライさんを捕まえてみては?」
「何言ってるの?」
「確かに」
「なんで納得してるの??」
……にしても、ここはどこでしょう。この建物は、知らない場所ですけど。大広間みたいなところにいます?
――がららら
扉が開く音がした。
「……あら、大勢ね?」
ローブを着た女性が、ゆっくりと入ってくる。
ローブ、ということは魔術師?
宝石でも嵌め込んでいるような、綺麗な瞳は見覚えがあった。
「……エヌマエーラ?」
「あら、ディオネじゃない。お久しぶりってほどでもないわね。ん?なんか……なに、これ?」
二人いるライさんを見て、固まってしまいましたけど、そりゃそうですよね。
にしても、エヌマエーラがいる?ここは、魔術院とかそういうこと?
「あっ、そっか。なんとか解決できそうな感じで飛ぶぞ!ってイメージしたんだけど、もしかしてそれで本体じゃなくて、解決できそうな人がいる場所にきてしまったとか?」
「……ライさん、曖昧な感じで短縮移動しないでください。っていうか、なんで飛ぼうとしたんですか?」
「んー、なんかそのままゆったり歩いてても大丈夫そうに見えなかったから?」
このライさん、ちょっと適当すぎますね。もぎゅもぎゅしておきますか。
少年らしい方のライさんなので、こっちの方が好き。早く男の状態になってほしい。
「ねえ、シリル。疲れたからおぶって」
「その話は乗らないって」
「じゃあ勝手に背中に乗る」
「うわっ、引っ付くな!」
向こうは向こうで、なんか収集つかなくなってるし。
これ、エヌマエーラさん置いてけぼりですよね。
「えーっと?ライが増えたってこと?」
首をひねりながらすごい頑張って言ってる。アクイラもあわあわしていて、答えられそうにないので、私が答えておきますか。
「なんかそうみたいです。というか、ちょっと大変なことになっていまして」
「……大変なこと、ねえ」
「――おお、これはたくさんの客が来たようで。ようこそ、魔術院へ!我々に興味があるのであれば、話ぐらいはしようじゃないか!」
金色の髪が揺れる。自信に満ちた笑み、エヌマエーラと同じようなローブ。
……キャラが濃い人が増えてしまいました。
「こら、ヴィアル。ややこしくなるでしょう?」
「何故だ!魔術院への客じゃないのか!?」
「たぶん、飛ばされてきたんでしょう」
「飛ぶ、だと?待て、この者たちの装い。これは、法衣ではないか!神官がここに来るとは、珍しいな!」
するする、と私の腕の中からライさんが抜けていきました。
「えーっと、話がややこしいんだけど。勝手に来ちゃったからごめんな?」
「おお、そこの小さい子供よ!構わぬぞ、我々は魔術を学ぶものには……ではないのだったな。とりあえず、事故なのだろう?であれば、それを責めるのもおかしなことだ」
「お、おう。さんきゅーな?」
「ふんっ、礼には及ばぬ。どうやら、エヌマエーラと知り合いらしいじゃないか。なら、我とも知り合いということだ!」
「そう、だな……?」
……ライさんが押されてる。あの人、すごい性格というか。
裾を引っ張られると、いつの間にかアクイラがすぐ横にいます。
「……えーっと、ディオネ様?これは、どういう」
「うーん、どういうことなんでしょうね?あまりやばくない方のライさんが、私たちの仲間になろうとして、事故ってしまったらここに来た、みたいな?」
「……なんか予想外の事態ということは理解しました」
「……ちょっと、誰かこのライ剥がしてくれない?」
「やだ、降りない」
「……ライさんを堪能しておけばいいんじゃないですか?」
……なんか、ちょっと疲れてきました。これ、どうしましょう。
「むっ、そこの少女!金色の髪にその圧に、白くて銀の装飾!聖女、ディオネか!」
「……はい、そうですよ」
急に、標的にされてしまった。面倒くさいし、ここまでくると頭がいたくなってきます。
……にしても、この人は見覚えがあるような?
ヴィアル、と言いましたか。エヌマエーラと知り合いなのであれば、魔術院の中でも強い人、なんでしょうか。
「ほう、聖女が絡んでるのであれば話が気になるな?どれ、我に話してみないか?」
ゆっくりと、こちらに歩いてくる。
「このヴィアル・グロスリーグに!」
ああ、知っている名前だった。
ヴィアル・グロスリーグ。魔術院の中でも、解析を得意とする魔術師。
確か、魔術ランク3位でしたか。
「魔術師は基本的に話ができないが、人に聞く限りは我はましらしいぞ!」
……それ、頼りにしていいんですか?
どうして事態がやばそうなのに、主役一行がワープしてる展開を私は書いているんですか?