壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい 作:あまぐりムリーパー
解析の魔術師――ヴィアル・グロスリーズがどうやらこの魔術院に勝手に来たことは許してくれるらしいですが、ここって無断で入って何か言われたりしないのでしょうか?
……しないのなら、いいんですけどね。
にしても、この人たちは手伝ってくれる感じなんですか?
……魔術師は好奇心旺盛とはよく聞きますが、それだけで動くものですかね。いや、手伝ってくれてるのかはわからないというか。あのままだと迷惑なので、移動しているだけなんですけど。
ちらり、と横目でヴィアルを見る。綺麗な顔立ちではあるんですけど、それ以上に身に纏う圧のあるものが、少しに気になります。
そこそこの密度で、肌にぴりっとくる。これがたぶん、魔力なんでしょうね。神聖力とは似てるものなのかもしれません。
私の視線に気付いたのか、ヴィアルがこちらを一瞥します。
「むっ、どうした?」
「なんでもないですよ」
ヴィアルに連れられる形で、とりあえずさっきの場所を出ました。
どうやら、あの場所は講堂のようなところらしく、使用することもあるので邪魔にならないように移動するんだとか。
……話を聞く限りは普通は、ここら辺は入っちゃダメそうなんですけどね。
にしても、どこに行くんでしょうか。
とりあえず、エヌマエーラとヴィアルに関しては今の内容を説明しました。
ついでに勢いで考えてる方のライさんを捕まえています。
「……これ、ずっと捕まってるやつ?」
「はい」
「即答ぅ……」
ライさんの手を握って、逃がさないようにしています。
……分裂してるうちの一人ですから、普通に逃がしたら面倒くさいってのもあるんですけど。
もう一人のライさんは、アクイラが自然と手を繋いでる形ですね。シリルからは離れたみたいです。
……なんか、ライさんって結構アクイラに甘えるの好きですよね。なんでなんでしょう。
にしても、人通りがないですね。木々が風に揺れるような音しかしません。
ゆっくりと、エヌマエーラが近づいてきます。
「ねえ、ディオネ。話は聞いたけれど、すごいことになってたのね。こんなにすぐ再会するなんて」
「それはまあ、そうですね。これってどこに向かってるんですか?」
「部外者がいても、話せそうな場所」
そういう場所もあるんですね。ここって意外とオープンな場所ってことですか?
教会は、部外者が立ち入れる場所は意外と少ないので新鮮。
なんて言ってると、広々としてる割に誰もいないような場所に来ました。
「ここは、上位ランク向けの実験場だから誰もいないわ」
「……そんなところに来ていいんですか?」
「いいわよ。どうせなら、ちゃんと部外者が入らない場所の方がいいでしょう?」
「上位ランクの人たちが来たりは?」
「来ないわよ、最近は忙しいから」
……それなら、まあいいか。
――不意にヴィアルの手が、ライさんの頭に伸びます。
「うん?」
手が触れた瞬間に、青……というよりも紫に近い光がライさんを包んだ。
私の神聖力が、吹き出す。身体強化の恩寵が、全身に行き渡ってヴィアルの元へと駆け出す。
「……ライさんに何をしたんですか?」
「影の通り道を塞いだだけだが?ぬっ、もしかして攻撃してると思われたか!?おお、我としたことが説明が抜けていたな!すまぬ!」
私が、ヴィアルを止めようとした手が、ヴィアルに届かない。
よく見ると、何かがヴィアルの周囲に流れている。その流れが私の手をうまく受け流している。
「えっ、なんですか?この状態」
「おお、なんか向こうの私が変な感じになってるよ」
「……あれ、大丈夫なの?」
向こう側からも、困惑の様子が見える。
それにしても、常に防御の結界みたいなものを貼ってるみたいなことですか。用心深い。
にしても。
「塞いだ、ですか」
「ああ。移動中に、すでにライという少女の状態は解析が完了した。影からの繋がり方や、体の作りとか全部だ。だから、その状態を少しぐらい変えるぐらいは可能だ」
……なんか、普通に優秀な人ですね?
「にしても、すごい体の状態だな!なんというか、どす黒いものが中にあるな。それと、神聖力がせめぎあっている。不思議な形になっている」
「それ、邪教の呪いが元らしいわよ」
「ほう!邪教!あの、魔術と似た技術の呪いを使ってるんだったな!」
「それで、巨大な瘴気の塊みたいなものを取り込んでこうなったらしいわ」
「ふむ。それにしては、この神聖力も妙な感じだ。興味深い!どうやら、神聖力を食って実体化する呪いに見えるな。そこに瘴気の塊のようなものが固まって、そこに神聖力が混じっている?」
エヌマエーラとヴィアルが、ライさんの状態について話し合っているんですけど、これ勝手に話進んでないですか?
こっちを置いてけぼりにしないでほしいですけど。
「……あの聖女様、これどういう状況ですか?」
おずおず、とゆっくりシリルが近づいてきました。
「いい加減、その言い方やめませんか?私は別に、聖女とかやりたくてやってるわけではないですし」
「いやそれでも」
「あっ、でも聖女だからライさんに会えたって思うと嬉しいかもしれないですね」
「ライのこと好きすぎないですか?」
「あなたもでしょ。ライ大好きくん」
「……あんたも大概だね」
はあ、とため息をついてようやく普段の口調に戻りました。
「これからちゃんとライバルになりますね」
「今、そんなこと言ってる場合じゃなくない?」
「あのー、ディオネ様。なんか向こうが白熱してるんですけど。もう一人のライさんもなんか連れてかれて、変なことをされててですね」
「変なこと?」
見てみると、ライさんがもう一人と同じように変な光を浴びせられてる……影を塞いだってやつですか。
「あれは、敵対しているライさんが出てこないようにするためって感じらしいです」
「……そんなことできるんですか」
「らしいです」
冷静になって考えてみると、影を塞いでるってそういうことできるものなんですかね。
思えば、ライさんのあの力は呪いの器からの力が根源だと思いますし、魔術と呪いは似てるものもあるみたいなので、わかりやすいんですかね。
魔術っていうのは私たちの神聖印や恩寵と違って、人間のみの力によって構成されているものなので、どういったものかはわからないんですけど。
ただ、それゆえに小回りは効くので極めたらどんなことでもできてしまうのかもしれませんね。
「ふむ!これで問題はないだろう!にしても、同一人物の複製ができて尚且つ感情が違うものというのは面白いな!」
別に面白くないです。
「聖女ディオネよ、とりあえず現状を理解してからこの状況を改善したが、すぐに対処した方がいいという問題で間違いないな?」
「そうですね。今も同僚がなんとかしているはずなので」
「ふむ。まず、そこまでは遠いので転移に近いものを使う必要があるが、この場の戦力だけでは不足があるか?」
これはおそらく、私とアクイラとシリル、それからライさん含めたメンバーのはず。……少し、心もとないかもしれない。
そんな私の気持ちを顔から読み取ったのか、ヴィアルは私の返答を聞かずに続ける。
「ふむ、ならば我々も参入するか!」
「……えっ、私も?」
暇そうに、近くの椅子に座って足をブラブラさせているエヌマエーラが、驚いたように顔を上げた。……自由ですねこの人。
「――あはっ」
軽快な声が聞こえた。
「それで閉じたつもり?」
「まだ、こじ開けられるよ?」
「さあ、さあ。遊んでくれる?」
どぽんっ、と上に影が侵食してそこから数人のライさんが落ちてきた。
……やっぱりそう簡単には行きませんか。ライさん、普通に手強いのやめてください。
毎回、ライと誰かがくっついてたりしてる話じゃないんです