壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい 作:あまぐりムリーパー
まるで川に流れているみたいに、体が流れていく。俺ってどういう感じになってるんだこれ。
なんかもう、クラリッサとヴァレンティナの様子も見れないし。なんかもう全部見えないし、どうなってんの。どこだよ、ここ。
流されていく。
影の通り道がいくつも開いている。増えた俺たちが何人も流れているのがわかる。
そしていつしか、少し広い空間に出た。
……俺の中に変な空間できてるってこと?
っていうかそれよりも、俺の場所から変なところに繋がりすぎだろ。
「やほ」
一人の俺が話しかけてくる。
「何?」
「いや、本体に会ったからさ。あっ、私は比較的女っぽい方のライね」
「……なにそれ」
全員そういうのあるの?
「そっちは男のつもりのライこと本体」
「おい」
「だって、そうでしょ。普通に考えてよ、こんだけ女の体で生活しておいて、そんなに男の意識残らないって」
「いいよその話はもう」
「へえ、そう」
自分と話してる間に自分が暴れてるのも変な気持ちだ。
「これさ、俺たちをなんとか止められないかな」
「それねー、穏健派の私たち的には頑張りたくて。今、味方の私たちが二人ディオネと一緒にいる」
「えっ、そんなことになってんの?」
「外のクラリッサとヴァレンティナの方が大変そうだけど」
確かに。あいつら大丈夫かな。
「なんかクラリッサとか誘惑されかけてたから」
「……なんて?」
「抱き締めて、仲間になってーってやってた」
「何してんの俺??」
「あっ、ディオネとかシリルにも似たようなことしてたよ」
「何してんの俺???」
……俺って、暴走してるんだよな?なんでそんなことしてんの?抱き締め魔か?
ここに来るまでに見えた影の出口、あれがいろんな所に繋がってるのか。
他の俺の影からも出たりできるみたいだけど、それ以外でも転移みたいなことができそうな気がするな。
……じゃあ、やばいだろ。どこでも俺が出てくるってこと?なんか、暴走してる俺がどこでもできてるのやばいな。
どうしよ、これ。
「どうしたらいいと思う?」
「えっ、そんなぶん投げられるの?とりあえず、クラリッサとヴァレンティナを助けてからディオネのとこ行こうよ!」
「行けんの?」
「行けるんじゃない?」
適当すぎだろ。
……まあ、なんとかするか。
地面に触る。どぼどぼ、と沈んでいく。これ、意外とそのまま行けそうだな。
「えっ、外に出れるんだ」
「そうっぽいわ」
「一緒に行こ?」
ふふっ、と笑ってくいっと俺の裾を掴んでくる。……本当にこれ、俺か?あざとすぎるだろ。
「まあいいけど」
「やった」
がしっ、と掴まってきた俺と一緒に、影の中に飛び込んだ。
◇◇◇
「ほんっとうに、疲れてきたわ」
どろっ、と溶けて流体みたいになって襲いかかってくるライを、ヴァレンティナは熱風を吹かせてそれを飛ばす。
「……ん、でもまだライを助けられてない、よ」
同じように、冷気を漂わせて何人ものライを、クラリッサは凍りつかせていた。
いつものように表情は変わらないのに、その額には汗がにじんでいる。
「ライを助けるって言いながら、ライの一部みたいなのを燃やしてるのもちょっと気分が悪いわ」
「……そこだけは、同感」
疲れが全身を回ってきた二人の前に、何人ものライが立ちはだかる。
「あはっ」
「もう疲れた?」
「まだ、こっちは憂さ晴らしが終わってないよ?」
「あれ……」
「なに、これ?」
途中から、ライたちの様子がおかしくなる。きょろきょろ、と周囲を見渡してる。
「「「私がいない!」」」
全員の声が反響した。
背後にある、ライの集合体が崩れていく。
何人ものライが、ぱらぱらと落ちていって、逆に目の前のライたちが消えていった。
「あらっ、うふふっ。形勢逆転、でいいのかしら?」
「……ん、勝てそう?」
二人の余裕が戻る。けれど、別にそういうわけではない。
集まっていたライがばらけているだけなのだから。
本体を失ったライの集合体が形を保てずにそこらに飛び散っていくだけ。
とはいっても、ここにいるのは少数のライ。二人に、もうなにかできるわけじゃない。
「うふっ、あらあら。さっきの仕返ししてもいいかしら?」
「……これ、報告した方がいい、よ?」
「うるさいわね。こんだけ散らばってたら勝手にそこら辺に伝わるわよ」
「……それは、よくなんじゃない?」
「この陰険女、鬱陶しいわ」
「……激情女?」
「あんたねえ」
「……ん、そっちがバカ」
「は?」
勝手に対立を始める二人の前で、
「……帰っていい?これ」
「怖いんだけど」
ライたちがどうしていいかわからず、縮こまっていた。
◇◇◇
「異端殲滅局所属」
「所属でいいの?」
「信仰序列番外位」
「番外位だって、変なの」
「カブラギ、ミナト」
「ライでもあるよ」
くすくす、と笑う無数のライさんが視界を埋め尽くします。
ヴィアルは塞いでいたと言っていたのに、ここまで来るなんて。
どろり、とライさんの何人かが溶けます。不定形になったと思えば、獣のような形に変えてこちらに飛びかかってきました。
「あら、そうやって変化できるのね?」
「ほう、これが噂の呪いの器か!全員が、ライという少女の同一個体のように見えるな!」
余裕そうなエヌマエーラと、興味深そうにそれを見てるヴィアルが、向かってくるライさんたちを吹き飛ばしていく。
よくみると、なにかが流れているように見える。
魔術というのは、魔力を使って力の流れる道を作るものらしいので、これが道なのかもしれないですね。
遠くを見ると、シリルがアクイラを守るようにしてライたちに立ち回っています。そっちは問題なさそうですね。
……そして、私の目の前にも何人かが来ます。
ライさんは、こんな変な高笑いもしなければ、溶けたりとか変化したりしません。
「ディオネ」
私の後ろいるライさんは、不安そうにこちらを見ています。
「大丈夫ですよ、ライさん。これでも私は、この世界では強い方なので」
この偽物たちを叩きのめすぐらいは、躊躇する理由もない。
体全身に、力が漲る。
向かってくるライさんたちの力が肌に触れるけど、私を傷つけることもなく止まる。
そもそも、ライさんたちは遊んでほしいだけみたいで、攻撃のつもりもなさそうですけどね。
……遊びにしては、やりすぎですけど。
一人を掴んで、叩きつける。どろり、と溶けて消える。
二人目を蹴り飛ばす。同じように、どろりと溶けた。
三人、四人、五人と倒していくと、ぴたりとライさんたちの動きが止まる。
「……みんな、やりすぎ」
「つまんないっ」
「怖いから帰る」
……どろり、と溶けてどこかへと消えていきました。気まぐれすぎません?
そもそも、勝手に出てくるのも変ですけど。
まず、このライさんたちがどういうものなのかというのをもうちょっと理解した方がいい気がします。
「あれは、影を通り道としなくてもよいのだな!だから、我が塞いでも通ることができたのだ!」
「えっ、それってどこでも転移してくるの?対策できないじゃない」
「はっはっはっ、困ったな」
「――そうでもないよ」
シリルの声が、不思議とよく聞こえました。
「俺の恩寵だったら、捕まえてなんとかできると思う」
「シリル、本当ですか?」
「例えば、本体のライを見つけてそういう性質を付与したりすればいけると思う」
本体、ですか。でも、それはここにはいなくて。
「へぶっ」
そんなことを考えていると、一人またライさんが落ちてきて――
「やっべ、なんか変なとこ出た。うわっ、めっちゃ人いるんだけど!?」
……もしかして、本体来ました?
なんかこの話、キャラが多いのでは?