壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい 作:あまぐりムリーパー
シリルの恩寵と、ヴィアルとエヌマエーラの魔術によって、ライはある程度統合されていた。
帰る準備をしながら、ぐったりとディオネの腕の中で眠る。
不思議と、ライは体が重くて動けないでいた。
その理由は単純で、散らばったライの感情が流れ込んでいたから。
ライは、神聖力を無駄に放出しすぎた影響で呪いの器とのバランスが取れなくて暴走した。その時に増幅されたライの中の悪感情などが、膨れ上がっていたのが、分裂していたライになる。
この理不尽な世界への怒り、ディオネたちを虐げる教会に対する不審。それから、ライを傷つけた異端殲滅官に対するちょっとした仕返しとか。
その他にも、ライの内側にある子供っぽいところだとか、そういった部分もあったが。
ともかく。
そのライたちと一緒になった影響で、ライの中に様々な膨れ上がった感情が流れ込んできて、そのせいで気持ち悪さが体の中に充満している。
「ってわけね」
「何、分析してんの?」
ライに持たれるようにしてだらけたエヌマエーラが、ぼんやりとライの様子を見ながら、内容を解析していた。
状態を調べる、というのは魔術師に取っては基本的な能力だ。魔力を対象に軽く流すことで、それへの反発内容などで、状態をある程度把握できる。
それを極めていくうちに、別にそんなことをしなくても見えるようになる。
それを極めたのがヴィアルであり、エヌマエーラはそれには及ばないまでも、高い解析能力を有している。
それは、彼女が悪魔狩りの魔女と言われる所以である瘴気を自信の魔力へと変換する技術に使われているせいもある。
そのせいで、ライの状況をなんとなく把握していた。
なんか巻き込まれて疲れたけど、なんとなく様子を見てたらすごいことになってるな、程度に本人は考えているが、せっかくなのでライの一人を捕まえながら観察してやろう、と遠目から見ていた。
研究したい、というエヌマエーラの欲求もあるが、純粋に調べておかないとライがまずそうだという、心配もある。
「ライの状態があんまりよくなさそうだな、と」
「私?」
「本体の方ね。にしても、そっちは雰囲気変わったわね」
「女の子っぽいライだからね」
「ふうん、かわいいかわいい。男の子でも捕まえてきたら?」
「どの男の子がいいと思う?」
「うわ、本気にしてる」
と、雑に話しながらエヌマエーラはライにしなだれかかる。
ライの様子をもう一度見る。気持ち悪そうにはしているものの、そのうち元に戻りそうだな、と思ってそのままライを抱き締めてぐったりと横になった。
「あの、離してくれない?」
「眠いから」
ライは子供体温みたいで温かくて、寝やすいらしい。
◇◇◇
疲れてぐったりしてたけど、なんか俺の中に色々混ざってたせいで気持ち悪くなってたらしい。
ってかさ、なんで分裂したままのやつがいんの?よくわからんし。
エヌマエーラに一人取られてたんだけど、戻ってきたみたいだ。寝やすかったとかなんとか。勝手に昼寝するな。
にしても、魔術院か。あんまり人がいないところにいるせいで、こんなところにいるのもなんか違和感がある。
……なんか、俺があんまりちゃんと統合されてる気がしないんだよな。たぶん、何人かはバラバラになってる。
どこいったんだよ。なんかあいつら、勝手にワープしてるから、見つけらんないし。
どーしたもんかな。
……ってかさ、暴走してる方の俺が混ざった結果、ああなってたわけで。
じゃあさ、女っぽくなってる俺と統合するとああいう感じにワンチャンなるってこと?それはやばくない?
……それで、邪教の呪い受けてたみたいな時にはならないよな。うん、ならないはず。だったらいいか。
「ライさん、どうしたんですか?」
「なんでもないよ」
ディオネもずっと抱き締めてるしさ、なんなん?
散らばった俺をなんとかしたいな。
できるかな。できるか、たぶん。きっと未来の俺がなんとかしてくれると信じて。
「ねえ、私」
「……何?」
「ちょっと、一旦帰るね?」
「俺も」
「私も」
急に、俺の側に分裂した俺がいたと思ったら、影の中にずるずると消えていった。
……そうやって、俺の中に戻ってこれるんかい。
でも、前みたいに感情が混ざってくる感じはないな。あれか?俺の中にストックされてる?
これ、自由に分裂できそうだな。前までのやつらはちゃんと取り込んだ気がするけど。
そういえば、帰りは馬車じゃなくて転移して帰るらしい。
面白いものを見せてもらったから、お礼だとかでヴィアルと手伝いでエヌマエーラがやってくれるんだとさ。
まあ、いいか。
俺の件も魔獣の件も解決したんだったら、それでいいや。
後でクラリッサとヴァレンティナにも謝っておくか。
「では、諸君たちを飛ばす!また、機会があったら、来てくれ!」
くそでかいヴィアルの声が響く。
「ごめんなさいね、こいつ声がでかいから」
「はっはっはっ!よく言われる!」
本当にうるさいな。まあでも。
「ありがとう、助かったよ」
「謎多き少女ライよ!こちらこそ、楽しめたぞ!」
「そっすか」
魔術師は好奇心旺盛なんか?猫を殺すって言うしほどほどにな。
「こちらこそ助かりました」
「……私、何にもできなかったですけど、ここにいてよかったんですか?」
「いいんじゃない?ライは癒されてたらしいから」
なんか、その大団円の雰囲気は何?
……思えばこれあっさり解決しただけで、結構大事だったな。
ヴィアルが空間に指をなぞらせた。
すると、体を浮遊感が包む。
ゆっくりと、俺たちは何か浮かんだように見えて、すぐに景色が切り替わった。
◇◇◇
その頃、イリスのところにいるライは、そのままイリスに捕まっている。
「あちゃー、結構緊急でやったからボロが出ちゃったかー」
「……離してくれない?」
「いやいや、遊んでほしいんでしょ?うりゃうりゃー」
「なんか思ってたのと違うぅ……」
ライの分裂体は、統合されたことを機にして、呪いの器としての影響がかなり薄れていたこともあって、おとなしくなっていた。
そのまま、イリスに抱き締められてこね繰り回されている。
それ以外にもイリスは、結界を張ることに関しては他の神官たちよりも優れてるため、ライに変な動きができないように、軽く縛るように薄い膜のような結界を張っている。
「記憶の定着が結構負担だったっぽいからさー、ちょっと境界を緩めにしちゃったんだよね。だから、今回みたいな暴走が起きちゃったのはやらかしたかなー」
「ふーん。なんかこのまま寝ていい?」
「いいよー、私もライちゃん抱き枕にしとくから」
「なんかそれは嫌」
「えー?甘えたがりなライちゃんはどこにいっちゃったの」
あー、困ったなーと言いながらイリスはこのままにしておくわけにも行かないので立ち上がる。
「ごめん、ちょっと迷子のライちゃん届けに行くから任せた!」
「局長!?」
治癒師たちに仕事を押し付けて、イリスはライを届けるために、ディオネたちの元へ行くことにした。
「誰が迷子って?」
「あはっ、とか言ってるタイプのライちゃんだけど」
「……テンションが上がってただけなんだけど」
「かわいいね。食べちゃおうかな」
「……うざ」
明日はこの作品初のお休みである可能性があります。
イリスも参戦してるけど、なぜかこの作品の中では精神安定してるな