壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい 作:あまぐりムリーパー
暗闇の中で星がきらきらとしている。
まるで、ディオネと夢の中で出会ったときの空間みたいに。
「やほ」
……また、俺がいる。
「よっ!」
「あははっ、みんないる」
っていうか、俺たちがいる。
そうか、全員回収したからここにいるんだ。
こいつら、夢の中でも会うのかよ。なんか、やりにくいな。
……これが、膨れ上がっていたとはいえ、全部俺の中にあった感情ってマジ?
信じたくないな、本当に。
「ねえ、本体の俺」
一人、遠くにいる俺がこちらに話しかけてくる。
でも、少し様子がおかしい。そもそも、ぼやけてるし。
とりあえず、話してみるか。少しずつ近づこうとするけど、あんまり見えない。結構遠いのか?
「ごめん、そっちに行けないんだけど」
「うん、それはそうだよ。だって、私は回収されてないし」
えっ、マジか。ここって他の個体も来れるの?
じゃあ、俺の把握してないやつもいるんだな。
「んでね、私はイェルクに捕まってたんだけど」
「……マジで?」
「なんか、分裂したやつってバレてて触手みたいなのに捕まってたよ」
あー、あの影みたいなやつか。あれって普通に切断したりとかできて便利だよな。
「頑張って誘惑とかしたりして頑張ってたんだけど」
「えっ、何言ってんの??」
誘惑って言った?
「こう、体好きにしてもいいみたいな雰囲気で抜け出せないかなって」
「いや、ガチで何しようとしてんの!?」
「でもダメで捕獲されたままなんだよね」
……いや、これが俺の一面って認めたくなさすぎる。
適当に言ってるんだと思うけどさ。そういうことをしれっと言わないでほしい。いや、本当に。
……俺もよく人はからかってるけど。それはそれ。
「それでね、なんか今回の件はもう教会に伝わってるらしくて」
ああ、マジか。それはあんまりいい話じゃないな。暴走しちゃったし。
「それで、その。私たちの捕獲命令が出たんだってさ」
「……んん?」
捕獲?何、捕獲って。
「私が危険だから、捕まえに来るらしいよ?」
「……マジで?」
「マジで」
……マジかあ、ちょっと困るなあ。
えっ、イェルクが捕まえに来んの?無理じゃね?
「たぶん、グレゴリーの差し金だと思うけどね」
「クソ野郎、本当にずっとそんなんだな」
「イェルクも乗り気じゃなさそうだけど、仕事はすると思うから。私はそっちに行けないけど頑張ってね」
あはは、と軽快に笑いながら、その俺は消えていく。
……なんか、自分を見捨てるみたいであんまり気分はよくないけど、さすがに相手をするやつが面倒だな。
前も確認したけど、俺の元の体への道筋はたぶん作れている。
だから、この騒動から逃げるようにして帰れる気がするんだけど、まだ行けるかわからないしな。
「……どうすんの、俺」
おずおず、と遠くから聞いてたらしい俺が話しかけてきた。
「捕まった俺でも回収するかな」
「でも、相手が相手だし。なんなら、他の異端殲滅官が相手するかもしれない」
「まあそうだよなあ。なんとかするか」
「適当……なのが俺か」
……適当だけど、自分に言われるとなんかイラッとするな。
ディオネはたぶん敵対しないだろうけど、クラリッサとヴァレンティナはわからないし。敵対しないんだったら、そのままなんとかするか。
……最悪、いい感じに帰ろう。
◇◇◇
と、いう感じで朝を起きるとなんか目の前を何人かが埋め尽くしていた。
「……ん、ライ。おはよう」
もういるし。え、これ詰んだ?
「あら、あらあら。おはよう、ライ」
ヴァレンティナとクラリッサのセットは、こいつらが仲悪くてもきついかもしれない。
「……ライを捕獲した方がいいらしいから、抱き締めに来た」
「ちょっと、私が先だけれど」
……えっ、そういう感じなん?
両端から引っ張られてる。ある意味拘束されてるけど。
「ちょっと、ライさんに変なことしないでください」
ディオネまで参戦してきた。なんなら、正面から割り込んでガバッと抱きついてるし。
「……なにこれ」
異端殲滅官三人に捕まっています。助けてくれますか?
あっ、アクイラだ。ヘルプの視線を送る。目を逸らされた。
「グレゴリーから、教会で管理するから捕まえてって言われたけれど、別にそのまま従う気にもならないものね?」
「……ん、ライの暴走もそんなに頻発しない」
ごめん、それは俺が迂闊なせいで暴走してただけだから。
……一番こいつらが暴走の被害受けてたけど、それでいいのか?
「ライさんは誰にもあげませんけど」
ぎゅーっと抱き締めながらなんかディオネが言ってるし。
ってか、身動き取れん。どうしよかな。
と、じっとしていると――どろり、と体の中から溶けて抜け出していく感覚がある。
分裂体の一人がどっか行ったな?おい、勝手にどっか行くなよ。
確認してみると、どっちかっていうと女っぽい方の俺か。……なんか、だいたいのやつ女っぽくないか?
気のせいか。うん、そんなに女に染まってるわけない。
にしても、どこに行ってるだろう。シリルのとことかか?ほどほどにして欲しい。
「そういえば、だけれど」
ヴァレンティナが、俺の右の腕を占領しながら話し始める。離してもらえる?
「急に、神罰執行官を見かけるようになったわ。もしかして、ライの件かしらね?」
……えっ、俺の捕獲内容ってそんな大々的にやってんの?
いやいやいや。過剰じゃない?
うーん、俺って一応分裂してたからなのか?
……本当にどうしようかな。
まああれだ。最悪、クソ野郎に殴り込みするか。
今は動けないんだけどな。いつまで抱きついてんねん。
◇◇◇
「あれ、なんか神罰執行官多いなあ」
イリスはゆっくりと、王都でライの分裂体を捕まえたまま、キョロキョロと辺りを見た。
「神罰執行官って珍しいの?」
「そうだねー、そもそも信仰序列100位以内じゃないと入れないから。この前にいた、シリルって子がたぶん見た感じギリギリだね」
「ふうん、シリルもすごいんだ」
「異端殲滅官がおかしいだけだからね。っていうかねー、治癒局で頑張ってるだけで異端殲滅官と関わっちゃうとか、本当に勘弁なんだけどね」
「大変そう」
「大変だよ?私、治癒そんなに得意じゃないのに。守護の仕事も兼任してるせいでさー」
と、二人にして談笑して進む先に別の影を見つける。
「……あっ、俺がいる」
「えっ、本当っすか?」
二人の目の前にはエオスに連れられたライがいた。
「おっ、エオスじゃん。そっちもライちゃんがいるんだ?」
「なんか、そうみたいっすね?」
片や通信局のトップ、片や治癒局のトップ。
ライが増えているという事態であっても、今までろくでもないようなことをたくさん経験してるので、そんなこともあるんだろうな、程度に思っていた。
「うーん、じゃあなんかこの神罰執行官増えてるのってライちゃん関係?」
「そうなんじゃないっすか?……なんか、ライさん関係の騒動ばっかっすね」
ちなみに。魔王も邪教も別にライのせいで発生してるわけではない。
「……あの、私?夢の中で、なんか向こうの私が言ってなかった?」
「捕まるんだって」
「マジか」
「マジだよ」
ライたちは勝手に情報共有してるが、イリスとエオスに伝わるまでは、さらにもう少しかかることになる。
教会全体を巻き込みかねない、ライを巡る騒動が始まる。