壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい 作:あまぐりムリーパー
ライの暴走を魔術院の件で解決したけど、あまり役に立った気がしない。
俺の恩寵は、対象への性質を付与できるからライをまとめることはできたけど……それ以外はほとんど他の人が対応してた気がする。
どうせなら、ライのために何かしたかったのに。
思えばずっとそうだった。初めてライと出会った時も、ずっと危なっかしくて目を離せなくて。
今になっても、ずっと危なっかしいのは変わらない。なんか、体が変わって小さくなったと思えば分裂して、その結果。
「やほ、シリル」
こうして、少し変わったライに変に絡まれてる。たぶん、これは本体じゃなくて分裂してる方だと思うけど。
「どうしたの、ライ」
「いやね?私って、女っぽくなってしまったことを自認してるわけ」
……こうして、よくわからないことを言ってるし。
「んで、それっぽく振る舞おうとしたけどあんまり性に合わないなーと思って」
ゆっくりと近づいてくる。ライの細くて白い腕が、俺の方に伸びてそのまま肩を組んできた。
「ガキとはこれぐらいのノリでいいよな」
ニッ、と笑ってるのが見える。……少し、鼓動が跳ねてる自分がなんとなく情けないような。
「ライ、距離感がおかしいのやめるんじゃなかったの?」
「んー、それはあれだろ?勘違いされるとか、そういう危険性じゃん?お前はもう私のこと好きならいいだろ」
「……尚更ダメじゃない?」
「なんかもう距離考えるのだるいなって」
ふわり、と甘い匂いが鼻腔をくすぐる。……ライ、体が変わったからって匂いまで変わってない?
いや、変態みたいなこと考えるのやめよう。
そもそも、考えるのだるいって何?こっちの心臓が持たないから勘弁してほしい。
「それよりも、なんか私の捕獲命令みたいなの出てるっぽいからだるいよね」
……ん?
「なにそれ」
「暴走したから、危険視されて教会で管理されようとしてるんだって」
「……それは」
確かに、ライの状態は結構危険なのかもしれない。
だから、そういう制御するために教会側で管理するって流れは自然なのかもしれないけど。管理の内容が、きっとまともにはならない。
だって、教会はそういう組織だから。
「だから、捕まったらあんまこうしてからかうこともできるなくなるからさ。ちょっと寄ってみたってわけ」
「捕まる気なの?」
「それはちょっと嫌だけど、でも教会に面と向かって逆らう気にもなかなかなれないから、捕まっちゃうかもね」
するり、と肩を組んでた手が離されていく。ライの視線が少し寂しそうに見えて、口を開こうとする口を、ライの指が触れて止めた。
「シリル、私のために教会と敵対するのはなしね」
別に、神様への信仰が揺らぐとかはない。
それでも、教会に対しては恩があるってほどでもない。だから、ライのために少しぐらいは……と思ったけど止められてしまった。
「最悪さ、私たちは逃げられるんだ。でも、そうするとお前らに会う手段が消えてしまうかもしれないから」
「……だから、そんな寂しそうにしてたんだ」
「うるさいな。……どうせなら、最後に思い出作りでもする?」
くすり、とからかうようにライの口角が上がる。
「何、思い出って」
「したいことをするとか」
……たぶん、そういう意味で言ってるんだと思うけど。本気でそれを選択したらどうするつもりなんだろう。
まあいつも通りだからいいか。
「あんまりからかってると、無理やりそういうことされても、文句言えないんじゃない?」
「何、本気なん?」
「……ライは一回、痛い目見た方が言いと思う」
「ひどっ、勝手にこんなんでどぎまぎしてる方が悪い」
「いや、ライが悪いけど」
「なんだと、このっ」
と、ライが勢いでこちらに踏み出したときに――ぱきりっ、と何かが割れる音がする。
「おっ、ビンゴじゃん」
天井を破って、誰かが落ちてきた。
身に纏うのは法衣。槍を模したような刺繍が入っている。
それは、神罰執行官の証。
急いで、光の槍を形成する。
「……何か、用ですか?」
「いや?なんか知らないけど、そっちのちっこいのを捕まえてこいって言われてるから。えい」
「いだっ」
一瞬で、光の矢が通りすぎる。それが軽くライの肩に当たって、よろけた。
ぎゅっと、槍を握る力が強まる。
「軽めの祓魔が効くってことは、バケモンに近いってことか」
「……ここで暴れるのは勘弁してくれない?」
「おっ、敬語が外れたじゃん後輩。いいね」
相手も、光の槍を形成する。
ライは、教会と敵対するなと言った。それはきっと、俺のことを案じてだと思う。
でも、神官はまともなやつばっかじゃない。こうやって、軽い気持ちでライを痛め付けてくる。
それを許すのは嫌だ。たとえ、ライの気持ちに背くことになっても、今ぐらいは守らせてほしいから。
「神罰執行局所属、信仰序列100位――シリル」
「ははっ、名乗りまでやんの?ってか、歯向かうんだ。いいね、そういうの」
神罰執行官の男は、楽しそうにけらけらと笑いながらこちらに槍の切っ先を向けた。
◇◇◇
「すまないが、ライをこちらに渡してくれないか?」
ぴりぴり、と肌に強い神聖力を感じる。
うーん、やらかしたな。俺がどうやら狙われてるらしいから、いつまでもディオネの部屋にいるのはまずいので、移動しようとしたんだけど。
そうしたら、イェルクに見つかってしまった。
しゅるしゅる、と影が伸びていく。
「ライさんに近づかないでもらえますか?」
その前に、ディオネが立ちはだかる。
……こいつら、ここで戦うつもりか?
そもそもだけど、元凶としては俺が悪いんだよな。
こんな、暴走っていうリスクのある存在をそのままにしておけるわけないし。
まあでも、そのまま捕まるのもあのクソ野郎に従うみたいで嫌だし、それでまた痛め付けられるとかもありそうだからな。
ある程度穏便に、話を片付けていきたいんだけど。
ディオネが完全に喧嘩腰でイェルクと戦うつもりなんだよな。
勘弁してくれよ。
こうなるんだったら、無理やりお留守番させたヴァレンティナとクラリッサもつれてきた方がよかったか?
いや、もっとややこしくなるか。
「教会と敵対するのはおすすめしないが」
「教会はいつだって、ライさんに優しくないですよ。そんなところに渡せと?」
「ああ、そうだ。このままだと、ライは異端として扱われて、教会から始末しろと言われかねない」
「そうだとしても、私はこのまま大人しくライさんを渡すつもりはありませんよ」
「……仕方がない」
しゅるっ、と鞭のようにしなった影の触手が振るわれてディオネの胸元を裂いた。
「……っ」
鮮血が舞う。服の切れ端が散っていく……はずだった。
攻撃でよろめいたディオネが体勢を立て直すと共に、血が体内に勝手に戻っていき、切られた傷が跡形もなく消えて、服装も元に戻る。
「……乱暴ですね」
「最初から喧嘩腰だったやつが言うか?」
「手を出したのは、そっちが先ですよ?」
再び振るわれた触手が、ディオネの頭部にぶつかるが、何事もないように弾かれていく。ディオネには傷ひとつ付かない。
「異端殲滅局所属、信仰序列3位――ディオネ」
「異端殲滅局所属、信仰序列1位――イェルク」
二人の爆発的な神聖力が周囲に伸びていき、近くにいるだけで、肌が軽く焼けるみたいにぴりぴりとする。
「これより、神の敵を殲滅する」
「あなたの魂を、主の御前に引きずり出します」
教会最強戦力の二人が、ぶつかり始めた。
正直、ずっとディオネとイェルクをぶつけるような話はやってみたかったんですが、なんか主人公をめぐって争いが始まってしまい、あれ??
最近、ちょっと話の流れとか描写がちょっと雑めだったので反省して頑張ります