壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい 作:あまぐりムリーパー
「うーん、なるほどね?今、ライちゃんたちは追われてるわけだ。いやー、なんか大変な時に来ちゃったなー」
「……軽すぎないっすか?まあ、そんなもんっすけど」
合流した後、神罰執行官たちの目を潜り抜けて、エオスとイリスはそれぞれ引き連れたライと共に隠れていた。
とはいっても、神罰執行官はせいぜい100名もいない程度なので、その目を躱すことはそこまで難しいことでもない。
「にしても、神罰執行官駆り出すとか大げさすぎでしょ」
「いや、その……異端殲滅官相手に暴れすぎてて」
「何してるのライちゃん??もしかして、結構いい勝負したりした?」
「……分裂しまくってたから、ちょっとだけ追い詰めてたかも?」
「やりすぎだよそれは。もう、擁護しにくいでしょ」
なんて言いながらも、イリスはライの体に結界を施していて、好きにできないようにはしている。
何かあったらまずいかなー、程度に思っているのと、最初に会ったときのこのライの様子がどうやら敵っぽいから、というだけではあるが。
「にしても、これどうするんすか?元々、本体らしきライさんに会いに来たんすけど」
「んー、そうだね。事情を知りたいのと、仕事をやらない名目にライちゃん連れてきただけなんだけど」
「……いいんすか、それで。治癒局長」
「エオスだって、司教の癖にこんな好き勝手動いてるでしょ。いつまでもそんなんなんだから」
「なんすか、もう。今はいいじゃないっすか」
ばつが悪そうにエオスは顔を背けた。
外では、たまに神罰執行官らしき人が歩いてるのが見える。
確かに、異端殲滅官の手を煩わせるレベルなのは脅威ではあるが、ここまでしなくてもいいのに。そんなことを考えていると、ふと一際体格の大きな神官がいるのが二人の目についた。
「やっば」
焦ったように、思わず声を漏らす。今は、たまたま普通の家屋の窓から覗いている程度なので、下手したら見つかりかねないと、窓から少しだけ遠ざかった。
「……あれって、あれっすよね?」
「うーん、そうなんだよね。どうしよっか」
二人は顔を見合わせた。そんな様子を、困惑したように二人のライが首を傾げる。
「なんかいたの?」
そう聞かれたときに、エオスがゆっくりと口を開いた。
「レオンハルトっすね」
レオンハルト、ライたちは少しだけその名前のことを考えた。どこかで聞いたことのある名前だ。どこだろうか。
そして、考えを巡らせているうちにひとつのものにたどり着いた。
「……魔王の時にいた、異端殲滅官だ」
「やっぱ、知ってたっすか。そうっすよ。普段なら南の方にいるっすから、こんなところにいないんすけどね」
そうなると、今この付近にはイェルクとディオネ、クラリッサとヴァレンティナに加えて、レオンハルトまでいることになる。
「えっ、異端殲滅官また大集合してる?」
「嫌だねえ、本当に。あいつら、ちょっと話通じないのが多くて気が滅入るから」
「イリスも、あいつらのこと知ってるんだ」
「恩寵持ちだからか知らないけど、たまに勧誘されてるからね。っていうか、ある程度の地位まで来ると、勝手に顔を合わせることになるからね」
イリスは、治癒局のトップだ。それに合わせて、法衣が黒に銀の装飾がついている。司祭の証。司教ほどではないにしても、そこそこの地位であることは変わらない。
「そうっすよね。自分もちょいちょい顔を合わせてるというか、普通にめっちゃ会ってるっすね」
エオスは当然、司教であるため顔を合わせる機会も多い。それに加えて、通信局自体が異端殲滅官との連絡として用いられてることもあるので、その機会も人一倍多くなってしまう。
「……なんか、二人とも大変なんだね」
「うん、確かに」
気の毒そうにしているライに、イリスは軽快に笑った。
「はははっ、慣れるよこんなもん。そんなことよりも、異端殲滅官と神罰執行官が仲良くしてるってことは……相当だね」
「……どういうこと?」
「それはっすね。異端殲滅官は当然、枢機卿グレゴリー・コーエンの管轄っす。でも、神罰執行官はおおよそ枢機卿アルフ・ストラングが掌握してるわけっす」
ライたちの頭には、柔和そうだが圧のあるアルフと、何かある度にむかつくことをしてくるクソ野郎のグレゴリーが思い浮かぶ。
自然と対峙してるようなイメージになる。
「それで、その二人は大体対立してるようなことが多いからさ、神罰執行官と異端殲滅官もちょっと対立気味というか。あんまり一緒に仕事したりはしないの。でも、今回は仲良しです。さあ、なんででしょうか?」
「……二人とも、考えが同じってこと?」
「うん、正解。つまりは、教会の戦力はだいたいライちゃんを捕獲したいぞーってしてるってこと」
ライたちは、思ったよりも面倒そうな事態に顔をしかめた。
「じゃあ、これ絶体絶命だったりする?」
「するよね?」
「まあそうだねー、どうしよっか?」
「そうっすね。別に、治癒局自体はなんも命令とか来ないっすよね?」
「そうだよ?通信局もでしょ。そうじゃないなら、祓魔師だって大勢駆り出されてるだろうし」
「じゃあ、あくまで教会の精鋭だけってことっすか」
「その精鋭が100人ぐらいいるんだけどね?」
四人が固まって、さてどうしようかと案もまとまらないまま唸る。
「まあ、別に私もエオスもライちゃんを守る理由はないよね?」
「いや、血も涙もないんすか?」
「え?ライちゃんのことは当然守りたいよ?でも、私たちの立場としては守る理由がないよね?ってこと」
「そりゃそうっすけど」
「なので、ここからは個人的に行動するので教会の理念とかそういうのは一旦無視しちゃう」
「……イリスってこういうとき大胆っすよね」
「うるさいよ、暇そうな司教様も手伝ってよ」
「まあ、いいっすよ?ライさんのことはまあまあ気に入ってるっすから」
「私も」
いつの間にか、二人からちゃんと守られることになってライたちは一度顔を見合わせた。
その後、お互いにげぇっ、と酷い声を漏らす。
別に、今この場所で何かが起きた訳じゃない。
本体の方の声が分裂体である自分達に響いてきたからだ。
『なあ、ディオネ。だからイェルクについていくって行ってるじゃん。もう乗り込んだ方がいいだろ?えっ?ダメ?いや、ここでイェルクとお前が戦ってるのもあんま意味ないって。えっ?むかつくって?いや、そうかもしんないけど!そうじゃ終わんないって言ってんだろ!乗り込むのは危険?いや、そういう名目だと襲われることもなくて、イェルクもそこまでは護衛的な感じでしてくれそうな流れだろ!話聞けって!』
声が分裂体なら伝わってくることもあるんだ、と思いつつ予想よりも面倒くさそうな事態に頭を抱えた。
「二人ともどうしたっすか?」
「頭痛い?ライちゃんってば」
「いやその」
「なんか本体が殴り込みかけそうなのを、ディオネに止められてそう?」
「……おおう、よくわかんないことなってるな」
「……やばいっすね?」
◇◇◇
「ライさん、イェルクを殴らせてくれません?」
「ディオネ、落ち着いて?」
「このまま、黙ってライさんが連れていかれるのを見ているわけには」
「だからさ、乗り込んで解決しようぜ!って言ってるじゃん」
「グレゴリーたちのところへわざわざライさんを行かせるなんて、とんでもないですよ」
「いや、頑固すぎ。大丈夫だって」
「……せめて、もう少しちゃんと安全なら」
「よし、クラリッサとヴァレンティナ連れてガチガチに捕まってる感じで行くか!」
どうでもいい裏話ですが、元々この物語はライ抜きで考えてたりしました
くたびれた聖女と異端殲滅官とそれに囲まれた新人のシリルみたいな