壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい 作:あまぐりムリーパー
「こいよ、後輩。びびってんの?」
「うるさいな」
光の槍を、同じく光の槍で受け止めて軽く弾き返した。
背後には、踞っているライがいる。
今までのライは、呪いの器だったけど、かなり人間に近かった。だから、あれぐらいの軽めの神聖印でダメージはないはずだったのに。
今は効いている。たぶん、この前の暴走でちょっとだけ変わってしまったんだと思う。
「……シリル、大丈夫だから」
不敵に笑うけど、痛みを我慢してぎゅっと拳を握ってるのがわかる。
「ごめん、ライをこのまま連れていかれるのを見てられないから」
「……バカだね、お前も」
光の槍の切っ先を相手に向けた。
「やる気があるならいい。女のために頑張るってのも、時には必要だ」
「……そんなんじゃないけど」
「本当かあ?」
けらけら、と笑いながらもその瞳は俺の後ろにいるライを明確に狙っている。
こいつら、神罰執行官は異端実体ですら相手にしてることもある教会の精鋭だ。
日頃から、悪魔を倒してるこいつらからすると、
……油断できない。
しょうがない、戦いで使うのはあんまりないけど――
振るった槍が再びぶつかる。その瞬間に、俺の持ってる槍を伝って、
「なんっ、だこれ。おっっっもっ!」
がくんっ、と神罰執行官が体勢を崩す。手に持ってる槍が急激に地面に引き寄せられた。
俺の
今は、槍を重くするようにした。付与できる時間が一瞬だったから、これぐらいしかできなかったけど。
でも、今がチャンスだ。槍の柄で相手めがけて振るう。
「ちっ。……
がつん、と光の壁に阻まれる。
でも、それぐらいなら問題ない。槍に
砕きやすいように威力を上げて軽量化して、そして思いっきりぶつける。
すると……ぱきり、と壁が砕ける。
槍への付与をしたせいで、相手の槍付与した内容がもう切れてる。
それをすぐに気付いたのか、すぐに槍を振るわれてそれを受け止める。
「お前、なんか変な力持ってんね?あれか、
「知ってるの?」
「お前さあ、俺たち神罰執行官のトップが持ってんの知らないの?」
「会ったことないから」
「うわっ、だるいな。コネじゃねえんだからさ」
何度か槍を打ち合う。
「ぐっ……」
「そんなもん?」
後ろにライがいるから、あんまり動けないせいで、うまく相手に攻撃できない。そのせいで、押され気味になってしまう。
「女のこの前で格好つけられなくて悪いね?」
「そんなんじゃないから」
「そうは見えねえけどなー?」
お互い
だから、普通に戦っててもたぶんダメだ。相手の意表を突かないと。
俺の
でも、付与できる内容には容量がある。
その容量を越えるとどうなるか。
相手の槍に過剰に性質を付与する。強固にして重量化、それ以外にも神聖力の通りをよくしたり、様々なものを。
「うおっ、また変になりやがった。すげーやりにくい力……なっ」
ぴしり、と槍がひび割れた。そこから、少しずつ亀裂が走っていって、槍が砕ける。
そう、付与しすぎて容量を越えた物体は壊れる。
この瞬間は、相手も対応できないはずだ。
動揺した相手の腹に蹴りを捩じ込む。
「ぐぁっ」
蹴り飛ばした相手が、壁に当たって よろめいた。
蹴ったときに、相手の体にいくつか不調になる性質を付与してる。これで、多少はましなはずなんだけど。
――一気に温度が下がる。
「……ん、ライがここにもいるみたい」
と思えば、また温度が常温程度に戻る。
「あら、あらあら。取り込み中みたいよ?」
くすり、と笑う声が聞こえた。深紅の瞳と青い瞳がこちらを……いや、後ろのライをじっと見ている。
「いった……えっ、なにこの状況?」
神罰執行官が、よくわからない状況に困惑してる。
そりゃ、そうだよね。
……あんまり顔を合わせたことはないけど、一応知ってる。
異端殲滅官の二人。ヴァレンティナとクラリッサ。
二人とも、広範囲に影響するような力を持ってて、村一つぐらいなら簡単に消せるとか、そんなんだったはず。
「うわっ、なにこの状況」
ようやく立ち直ったのか、俺の後ろでライが俺の法衣を握りしめてる。
「……ん、ライがこっちにいるみたいだから?」
「そうね?なんかお留守番させられてたのだけど、暇だったのよね」
……暇だからって、ここをわざわざ見つけて来たんだ。怖すぎるんだけど。
ライってさ、厄介な人に好かれすぎじゃない?
……なんでこんな人と関わってしまったかな、本当に。
「……ははは、これはなんか無理そうだから帰るわ!」
もう諦めて、神罰執行官の人が帰っちゃったし。……俺が頑張った意味あった?かわいそうだから、一応恩寵の力は解除しておくか。
「で、あなたのことを聞きたいのだけれど」
銀色の髪が揺れる。いつの間にか、目の前にヴァレンティナが近づいていた。
「……近いんだけど」
「そうかしら?普通だと思うわ?」
……ライとは違った距離感の近さで怖いな。こちらをじっと見つめる深紅の瞳が、心の奥底まで覗いていそうで、尚更怖い。
「……ヴァレンティナ、詰めないで」
「何?陰険女。人形みたいなやつはどっかいって」
「……ライに怒られるよ?その子、たぶんライもちょっと気に入ってる、から」
「へえ、そうなのね?ふふっ、それは俄然気になるわ?」
……俺のこと、変に知られてるの怖いんだけど。どういうこと?
ライが、なんか言ったりしてる?たぶん、してないとは思うんだけど。
「……だって、そこの後ろのライが、そっちの子を見てる感じが、そんな感じ」
「いやだって、お前らと違ってシリルは結構普通の感性だからしょうがないだろ」
俺を挟んでやり取りしないでほしい。とりあえずこれ、どうしたらいいのかな。
「あ、あの。勝手にどこか行くのやめてくれません?」
息を切らして、アクイラが走ってきた。
ああ、これは勝手に動き出したこの二人を追いかけてきたのか。
ちょうどよかった。
「あの、アクイラさん。この状況なんとかしてくれない?」
「えっ、いきなり無茶ぶり!?いや、無理ですって!そもそも、何が起きてるんですか!?」
よかった、この人普通の人だから反応に安心する。
「なんかライが急に来たんだけど、その後に神罰執行官がそのライを回収しようとしてて、阻止してたらこの二人が来た」
「えっ、すみません。よくわかんないです」
「俺もよくわからないから」
さて、どうしようかな。
「えーっと、私はどうなるの?」
困ったように、ライが俺の背中から顔を覗かせた。
◇◇◇
ディオネとイェルクを連れて、なんとか移動する。
いや、俺はもう移動してないんだよな。
普通に抱き抱えられてる。ディオネがどうやら、まだ不満みたいでなんか俺を抱き締めてその気持ちを解消しようとしてるような。
「ライさん、本当に行くつもりなんですか?」
「そうだって言ってるだろ。とりあえず、ヴァレンティナとクラリッサを探して、こう捕まえなくてもいいよーって雰囲気を出せばいいでしょ」
「そうですけど」
やっぱり、満足してくれないらしい。
にしても、誰にも見つからずに行けるかな。
「おっ!そこにいるのは、イェルクとディオネじゃないか!」
あっ、やっぱりダメだったわ。こいつらが目立ちすぎるパターンあるんだ。
……なんとか、なってくれないかな?
そういえば感想が200件超えてました。毎回ありがとうございます。
割と見切り発車なせいでいつの間にかこんなに続く作品になってて、普通に色々とびっくりしています