壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい 作:あまぐりムリーパー
ゆっくりと目を開く。気だるげな体をゆっくりと起こした。
酷く頭が痛む。
「あー、くっそ」
口から出る声は、いつもよりも大分と低くて――いや、本来の俺の声だ。
体の感覚に別に違和感がない。というか、前まで少女の体だったことの方が違和感がある気がするな。
もう、神聖力だとかそういったものはなにも感じていない。普通の人間だ。
カーテンを開けると、眩しい日差しが部屋を照らす。
机の上に置いたペットボトル、電源が入ったままのパソコンが見える。
やっば、向こうに行ってから、何日経ったんだ?
スマホを手に取った。指を滑らせて、ロック画面を解除する。
「マジかよ」
そこに見えた日付は、俺が向こうに行く前のもので。
つまりは、あれから1日だって過ぎていないってことになる。
マジか。逆に、向こうに行く前なにやってたかとか覚えてないんだけど。
ってか、朝の支度とか面倒くさいな。
「ねえ、アクイラ」
と声をかけてから思い出した。そういや、いないんだったな。
まだ実感が沸かない。あの世界から戻ってきたってことが。
もしかして、夢だったんじゃないだろうか。逆に、今が夢で向こうが現実だとかもあり得るのかもしれない。
……なんて、アホなこと考えてないで早く支度するか。
適当にご飯を食べて、支度をする。
あっ、そういえば休日だったな。会社ないじゃん。
……一人か、こんなことも懐かしいな。今まではずっと、人がいたから。騒がしいぐらいに。
というか、ずっと誰かに捕まっていたぐらいの感じだから、ここまでずっと自由なのも久々だな。
外をぼんやりと歩く。いつもは、ここにディオネがいたな。ありえないぐらい重いやつだったけど、いなくなると寂しいもんだ。
にしても、変なやつばっかだったな。神官たちは、非日常に生きてることもあって感性がなんか違ったんだよな。
だから、大人っぽいやつがそんないなくてガキばっかだったし。中学生ぐらいのアクイラが一番、まともだったな。
向こうだとこうやってまともな休みもなくてなんかバカみたいに危険なことばっかさせられてたけど。平和だな。
なんとなく、散歩していく。こっちだと、なんかぼっちで変な気持ちだ。
ってか、向こうに分裂した俺がいるんだけど大丈夫かな。魂だけこっちに戻ってきてるわけだから、あの体はそのまま残ってて分裂した俺がたぶん動かしてるんだろうな。
っていうかさ、魂まで分裂したわけだけど。その場合って俺って大丈夫なのか?
俺の元の魂がなんかこう、減ってたりしないか?今のところ、問題はないけど。
……なんか、うっすらと向こうの体と繋がってる感覚だけは残ってるんだよな。
俺を向こうに連れていった手段はよくわからんけど、たぶん世界同士の小さい繋がりを無理やり作ってそこに魂を通してるようなものなんだと思う。
それで、その小さな通路みたいなのがまだあるような気がして。それを通して、分裂体の俺の感覚を僅かに感じてるんだろうなって。
向こうの俺はどうやってんのかな。なんか、向こうにいたときはアホっぽかった気がするからさ。
……体が変わってから、そもそも俺もアホっぽくなってたような気はするけどな。
女っぽくなってるだとか、そもそも俺の意識も変になってた気がするけど。……戻ってんのかな、この意識。
まだ、その影響が残ってるのかもしれん。ここにシリルとかいたとしても、変わらない雰囲気で話したくなるし。
さすがに、アクイラに甘えたりはしないけど。
そうやって考えていくと、少し寂しいものだ。
――だから、私もライさんを追いかけていきますから。覚悟してくださいね?
ディオネはあんなことを言ってたけど、そうそう実現できるものじゃないしな。きっと、すぐには来ないだろうし。
「ディオネは、向こうで幸せになっててくれるといいな」
なんて、言葉を思わず漏らした。
「――呼びましたか?ライさん」
澄んだ凛とした声が響いた。
たったったっ、と駆けてくる音がする。
振り返ると、金色の髪が揺れているのが見えた。白銀の法衣から綺麗な白い肌が見え隠れしていて。
まるで、漫画やゲームから出てきたかのような風貌をしている。
「ディ、オネ……?」
ぽつり、と言葉を漏らした瞬間に、目の前の女の子が一気に近づいてきた。
ふわり、と甘い香りがする。
「ライさん……!」
「おわっ!?」
思いっきり、その子は俺の胸元に飛び込んできて。倒れそうになるのをなんとかこらえた。
「……ディオネ?」
「はいっ!」
「なんで、ここに」
だって、確かに俺は細い通り道を伝ってこの世界まで戻ってきたけど。それは人がそのまま通り抜けられるようなものじゃなくて、魂ぐらいしか通らないはずなのに。
胸元から顔を離して、一歩後ろに下がってディオネがこちらを見た。そのまま、ふふっと笑う。
「頑張りました」
「……マジか」
頑張りましたって。それでいけるの?
いやいやいや、そんな単純なものじゃないだろ。俺がここに帰ってくるまでに結構あったのに。
「信じてないですか?ライさんの魂が繋がる先をエオスに確認してもらって、世界を繋ぐその道をなんとか広げて、その中を通ってきただけですけど……まあ細かいことはいいとは思いませんか?」
「……細かいか?それ」
「だって、簡単な言葉で決着がつきますよ。要するに――」
ふわり、と頬を緩めた。
「――愛です」
「なんだ、そりゃ」
思わず、口角が上がった。
愛、か。だったら仕方ない。……いや、愛って。相変わらず重いな。
「大好きです、ライさん」
「そうかよ」
「愛してます」
「……ぐいぐい来るな、お前」
普段よりも、なんか押しの強いディオネにびっくりするな。
「だって、ずっと会えなかったんですもん……」
「悪かったな。でも、お前が帰ってもいいって言ってなかった?」
「……会えなくなる時間が長いとそうなってしまうんです」
もしかしなくても、あれから結構経っているんだろうなこれ。……こっち向こうだと時間の流れが違うからさ、結構頑張らせてしまったというか。
向こうの分裂した俺に任せたつもりだったんだけどな。
……まあでも。そこまで俺のために頑張ってくれたっていうのは嬉しくないってわけでもないし。
「まあ、また会えてよかったよ」
「えっ、ライさんがデレた」
「おい」
「私とそんなに会いたかったですか?」
「こっちは、別れてからほんのちょっとしか経ってないよ」
「えっ、そうなんですか!?」
「そうだよ。だから追いかけるのが早くてびびってる」
「……もう逃がしませんからね」
「別にディオネから逃げてたわけじゃないけどな」
なんて言って軽く笑った。
そして、ディオネの手を取った。再会なんだから、やることは一つ。
「改めて。鏑木湊だ、よろしく、ディオネ」
「元異端殲滅官、ただのディオネです。これからもよろしくお願いしますね?ライさん……じゃなくて、湊さん」
どうやら、まだ聖女様からは逃げられないらしい。
おおよそ最終回みたいな、そうではないような
なんかこの後もおまけとかちょこちょこ続けます。