壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい 作:あまぐりムリーパー
温い風が部屋を抜けていく。そういえば、窓を開けてたっけ。まだ眠いけど、ゆっくりと体を起こした。
一人だけの部屋のはずなのに。
「ライさん、おはようございますっ!」
今はこうして、ディオネがいる。
……待って。なんでいんの?
いや、こっちの世界にいるのはわかるんだけどさ。俺の家に泊まってたとかじゃないよな。
「……なんでいんの?」
「えっ、来たかったからですけど」
あっけらかん、と言って俺の前に座り込んだ。
ディオネがこっちに来たのは昨日で、まあいい感じに再会したんだけどさ。
そのままちょっとだけ俺の家に寄って、帰っていたんだよな。
ってことはさ。
「お前、どこに住んでんの?」
「え?普通に、家に?」
マジか。えっ、こっちに?
「いやいやいや、でも戸籍とかあるじゃん」
「戸籍程度を、私たち教会がなんとかできないとでも?」
できるんだ、それ。……どうやって?
「そもそも、なんとかできないとこっちに来てないです」
「……俺のところに住み込むんかなって」
「えっ、住んでもいいんですか!?」
「おい」
食い気味に、ぐいっと近づいてくるものだからびっくりする。
ってか、お前ここに住めるなら普通に住み込もうとしてるだろ。
にしても、戸籍なんとかできてるのか。ってことは、本当にこっちに住むのか?
「ライさん、私はずっとライさんのとこにいますよ?」
まるで心を読んでるみたいに、こちらをじっと覗き込んできた。怖いよ。
「ってか、もうライじゃなくてよくない?」
そもそも、ライって名前は異界の来訪者から来てるんだし。
ハッと気付いたように顔を上げて。
「そうでしたね、湊さん」
と呼んでからふふっと微笑んだ。名前を呼ぶだけでやけに嬉しそうだな。
そのまま、こっちに近づいてきてゆっくりと俺の胸に飛び込んできた。
「……ぎゅー」
急に、なにしてんの?
「あの、ディオネさん?」
「やっぱり、こうやって抱きついてると安心します」
そりゃ、向こうだとずっと俺のところ抱き締めたもんな。体はだいぶ違うけど。
「夢の中で見た湊さんがここにいるのがなんか嬉しくて。温もりを感じたいんです」
「お前な、言い方なんとかしてほしいけど」
「だって、会えない時間が長かったんですもん」
「分裂体の俺いたじゃん」
「それはそうなんですけど!なんかちょっと、違うんです!」
まあ、言いたいことはわかる。あっちの俺たちってなんかアホっぽいし。
「……っていうかその」
もにょもにょ、と小さい声で言い始めた。えっ、急になんか言いにくいことでもある感じか?
「どうした?」
「これってもう、私は湊さんの恋人になってもいいとか……そういうやつだったり、します?」
ゆっくりと顔を上げて、そう言うディオネの体を離す。
そして、ディオネの顔を見つめた。
「んなわけないだろ」
「えっ、ええっ。いやだって、こうやって押し掛ける私を受け止めてくれてるじゃないですか。なんかこう、いけるかなって思ったんですけど」
「まだ早いよ、ガキ」
「じゃあ、まだ可能性があるってことですか?」
「かもね」
……ぐいぐい来るから正直結構困る。
俺は、好きとかそういうことはいまいちよくわからない。
ディオネのことは、まあ嫌いじゃないし。幸せになってほしいとは思うけど。
だからと言って、くっつきたいかと言われると……まあ悪くはないけどさ。俺がこいつのことを好きになってるってわけでもないのに、了承するのもよくないかなって。
だから、曖昧な言い方をしてしまう。
「じゃあその。……キスとかしても、いいですか?」
「なんでだよ」
「うぅ、なんかこう気持ちが溢れてきて。ダメですか……?」
「ダメだろ、普通に。なんで恋人になるよりもそっちの方が下だと思ってるんだ」
「……ちぇっ」
上目遣いで、瞳を震わせて言ってくるものだからちょっとだけ頷きかけてしまった。危ない。
……にしてもさ、ディオネってこうしてみると普通に美少女なんだよな。そんな子に好かれてるってのも、なんか実感がない。
あっちにいたときが、まるでふわふわとした現実味のないことだからだろうか。
あいつら、元気にしてるかな。
「湊さん、向こうのこと考えてます?」
「よくわかったな」
「意外と顔に出てますよ」
「マジか」
俺ってわかりやすいタイプだったのか。
「一応、分裂体のライさんたちに色々と私が仕事押し付けてきたので、ちょっと大変そうだなとは思ってますけどね?」
「押し付けるってどういうこと?」
「私が抜けると、教会的にも困るらしいので。代理として働いてもらう、みたいな」
……頑張ってくれ、分裂体の俺。
「ちなみに、気になるなら戻れますよ?」
「……戻れんの?」
「ええ。だって、私がこっちに来れたんだから、世界の壁ぐらいわりと越えられます」
結構むちゃくちゃだな。
にしても、そうか。今生の別れみたいな感じで来てしまったけどさ。あいつらにもわりと迷惑かけたから、そのうち様子ぐらい見てやるか。
……戻ったら、シリルの告白への返事とかしないといけないって考えるとちょっと難しいな。
「そんなことよりも、こっちにいる間は私のことを見ててくださいね?」
ムッとしたディオネが、俺の両頬に手を当てて、無理やり目線を合わせてくる。
「しょうがないな」
仕方ないので、少しぐらいディオネに構ってやるか。そう思って、ディオネの頭に手を置いた。
満足そうに、ディオネは頬を緩めて笑っている。
こういう日も、悪くないかな。
ということでちゃんとした最終回です、たぶん
おまけは別で
ここまでの話、結構話の方向性が変わることもありましたが、ここまで読んでくれてありがとうございます。
魔術院の件とか、向こう側の世界では設定上存在してるけどあんまり触れてないものが無限にありますが、まあそんなにおまけとかで触れることもないと思います。
世界を行き来エンドはあんまりよろしい気持ちではないですが、ちょっとぐらい様子を見に行っても構わんやろ……
では、またなんか緩めにおまけ書いていくので気が向いたら
投稿頻度は落ちるかもしれませんが