壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい 作:あまぐりムリーパー
ディオネがこっちに来てから、結構時間が経った。
働きながら、ディオネの相手をしてるんだけども。あいつ、ずっと俺の家に来てるんだけどそれでいいのか?
まあ、それでもいいのかもしれんけど。どういう生活してるのかも、ちょっと謎なんだよな。
「湊さん」
ふふっ、と微笑んでディオネがゆっくりとこちらに来た。俺の知っているディオネは、ずっと白銀の法衣を着ていたはずなんだけど。
もうすっかり、現代の服装に馴染んでしまっている。向こうでも、ずっとミニスカートみたいなのを履いてたから、そこは同じらしいけど。
……でもそれは、動きにくいとかそんな理由だった気がするんだけどな。
「どうした、ディオネ」
「なんとなく、呼びたくなって」
座ってる俺の対面に、ディオネが腰を下ろした。
「にしても、すごいですね。このスマートフォンっていうものは。というよりも、このインターネットっていうものが、膨大な情報量すぎてついていけませんけど」
「すっかり現代に染まってしまったな、聖女様」
「もう聖女じゃないですし。私はもう、湊さんのため以外なにもしたくないですよ?」
「急に何言ってんだ」
真顔でそんなことを言ってくるディオネの言葉が、どうもむず痒い。言われ慣れて来たなと思ったのに、ずっと言われてるとこう、なんとも言えない気分になる。
「どうしました?」
ずいっ、とディオネが覗き込んできた。綺麗な瞳がよく見える。金色の髪がさらさらと揺れる。
……やっぱり、こいつ美少女なんだよな。
そんな子がずっと、好意をぶつけてきてるのが、未だに信じられてない。
「なんでもないよ」
でも、そんなことを考えていると知られるのもなんとなく嫌で。とりあえず誤魔化した。
「むっ、隠し事ですか?」
「そういうのじゃないよ」
「じゃあ、言ってもいいじゃないですか」
頬を膨らませて、不満を露にする。前はこんなことをされたら、頬をつついて誤魔化していた気もするけど。
今はもう、そんな迂闊はことはできないでいる。あの頃にあった、妙な非現実感とかもないし。そういうことをすると、取り返しがつかないような気がしたから。
……というか、最近になって変わってきたことがある。
まあ、今なのか?って話なんだけどさ。
「そんなに私に言えないことがあるんですか?」
「別にあるだろ、誰にでもそういうこと」
「ふーん?」
ぷいっ、と顔を背けた。
なんていうか。
こういったディオネの仕草がいちいち可愛く見えてきた。
……なんか、前から美少女ってことはわかってるんだけど。やたらと可愛く見えてきて、こうしてまともに顔を見るのも、少し気恥ずかしい。
……なんか調子狂うから、もうどうせならつっこむか。
「そうへそを曲げるなよ」
「つーん」
「ディオネがかわいいなって思っただけだから」
「へえ、そうなん、です……ね?」
まるで壊れた人形みたいにがたつくようにして、ゆっくりとこちらを振り向いた。
そのまま、ぴたりと止まる。
なんか、こうしてると面白いな。
「おーい、ディオネ?」
「はっ、はいっ……湊さん。さっきあの」
「うん」
「いやその……さっきなんて言いました?」
「ディオネがかわいいからって」
「ひゅっ!?」
顔を赤らめて、跳び跳ねている。
「反応しすぎじゃない?」
「……好きな人にそんなこと言われたら、こうもなりますよ」
「なんでそこまで好かれてるのかも未だによくわかんないけど」
「夢の中で、迂闊に傷ついてる女の子にデコピンなんかするからですよ」
デコピンで心を動かされる方もどうかしてない?
そうは思ったけど。あのときのディオネは、まもとになにもできないぐらいに傷ついてたから、そういうこともあるのかもしれんけど。
にしても、あのディオネがここまで元気になってくれたのはよかった。
こいつが元気にしてくれるなら、なんだっていいし。
……こういうことが愛おしいだとか、そういう感情なのかもしれない。
「……湊さん?」
「何?」
「ぎゅー」
急に、俺の胸元に飛び込んで。そのまま顔を埋めてきた。
「甘えん坊か?」
「はい。甘えん坊なので甘やかしてください」
「はいはい」
ディオネの背中に手を回して、そのまま胸元にディオネを閉じ込める。
「み、なとさん?」
びっくりして、また固まってる。
「どうした?甘やかしてほしいんじゃなかったの?」
「今日の湊さん、なんか積極的っていうか」
積極的、か。確かに、こうやって抱き締めたこととかなかったな。
「思ったんだけどさ」
「えっ、なんですか?」
「俺もディオネのこと好きかもしれん」
「へえ、そうなんで……何て言いました?」
「まだガキだし。チャンス与えるぐらいで放置しとくかって思ってたけど、距離感近すぎて無理だよな」
「待ってください、何事もなかったみたいに進むのやめてください!そもそも、距離感とか言い出したら向こうの湊さんも相当でしたけどね!?」
がばっ、と顔を上げてディオネから抗議を受ける。
混乱のあまり、そのまま俺の腕の中からするりと抜けていった。
「ええと、湊さん。さっき、好きって言いました?」
「言ったかもね」
「なんで誤魔化すんです!?」
なんでって、そりゃ。
「年が10ぐらい下のやつを好きになってんの、やばいかなって」
「そんなんもういいですから!」
「いやでも、未成年を好きになってるアラサーやばいだろ」
「今から向こうの世界に戻って、そういう価値観無意味にしてもいいんですからね?」
「メチャクチャ言うじゃん……」
何て言いながら、実際は照れ隠しでしかないけど。やっぱり、自分から言うとさ、恥ずかしいわ。
結局、こいつの気持ちに押し負けてしまったってだけか。
「とりあえず、これからは恋人ってことでいいですね?湊さん」
「うーん」
「そういうことにしますから」
「強引だな」
「大好きですよ」
柔らかい感触が、急に頬に当たった。
ディオネの唇が、これの頬に触れていた。
「……今度は、唇にしてもいいですか?」
急にそんなことをしてくるものだから、少しばかりそのまま固まってしまっていた。
「調子に乗んな」
とだけ返して、胸の高鳴りを聞かないことにした。
きっと、これからもディオネからは逃れられないんだろうなと思いながら。
それっぽいディオネエンドをしてから思ったけど、年の差がすごいことになっているなとふと
明確には決めてないけど高校生ぐらいのディオネとアラサーの湊なので