壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい 作:あまぐりムリーパー
ことり、とコップが置かれた。
「湊さん、淹れましたよ」
「さんきゅ」
ディオネが差し出したお茶を受け取って口につけた。……こいつ、日本に馴染みすぎ。
「なんかもう、向こうでのライさんのことも懐かしいですね」
「お前も随分変わったね」
「湊さんのせいで変えられてしまいました」
ぺろ、とディオネが舌を出す。
昔なら、こんな返しもたぶんできなかっただろうしな。
それにしても、こんな茶目っ気あるやつだっけ。
そそくさ、と俺の隣に座る。そのまま、ゆっくりと体重を預けてくる。
「暑い」
「……ひどくないですか?かわいい彼女が甘えてきてるのに」
「はいはい、かわいいかわいい」
「むう」
頬に、柔らかい感触がした。それが、ゆっくりと離れる。
少しだけ、顔に熱が集まる。
「……お前」
「ばーか」
顔を赤くしながら、プイッとそっぽ向いた。
……恥ずかしいのにやるなよ。
っていうかさ、頬とはいえ。キスすることに躊躇がなさすぎるだろ。
ディオネとは、まあその。
所謂、恋人ってやつにはなってはいる、んだけど。
こいつはまだなんか、子供っぽいしさ。こう、よくないことをしてるみたいでさ。
そもそも、弱ってるところを慰めてこうなってしまったわけだから、悪い大人染みたことはしてるんだけど。
まあでも。こいつは元々、背負わされすぎていたし。
だから、今みたいなディオネがたぶん本来の姿というか。
あのクソみたいな世界で、聖女なんて肩書きを任されてたんだ。多少、甘やかしてやるか。
そう思って、ディオネの頭にぽんっ、と手を置いた。
「ふぇっ!?な、なんですか?」
「なんていうか、お疲れ様」
「何がですか!?」
「色々と」
正直、たまたま俺は巻き込まれただけで。そこに傷ついたこいつがいたから、なんとかしてやらないとって思っただけなんだけど。
なんとかして、そのまま放っておくのもよくないしな。
「……なんか、そういうことなら甘えておきます」
「それでいいよ、甘えたがりの聖女さん」
「元ですし。……あの、私恋人なんですよ?」
「そうだな」
「もうちょっとなんか、こう。恋人っぽいこと、とか」
横目で、ちらちらとこちらを見てくる。何かを期待しているような目で。
……前から思ってたんだけど、なんかがっつきすぎなんだよな。異世界の人間だからなのか、ディオネがそういう人間なのかってのがわかんないけど。
なんていうか、めっちゃ積極的なんだよな。
そんなにぐいぐい来られるとこう、困る。
「恋人っぽいことって?」
「……惚けてます?」
「じゃあ、デートでもするか」
「いや、それはしますけどそうじゃなくて。……証明が欲しいんです」
「……」
しょうがないやつだな、本当に。
ディオネをゆっくりと抱き寄せる。
びくり、とディオネが震えた。
唇に、柔らかい感触がした。
「これでいいだろ」
「……湊さんも、照れたりするんですね?」
呆けたようにして、ぽつりとディオネが返す。
「って、えっ?えっ?今のって、ええっ!?」
と思えば、急に騒ぎ始めた。
「うるさいよ、ディオネ」
「いや、だって!」
「恋人らしいことがしたかったんじゃないの?」
「そうですけど!」
「じゃあ、いいじゃん」
「そうですけどね!?」
まあ、こういう騒がしい日々も悪くはないかな。
◇◇◇
ゆっくりと、体を起こそうとして何かが俺を包み込んでいるのがわかった。
「……ライ」
耳元で、シリルの声が聞こえた。
……ん?なんで?
ここは、ベッドか。寝ている状態で、後ろにシリルがいる?
というか、抱き締められてる。……ああ、そうか。
そういや、シリルに冗談で一緒に寝ようとか言われてそのまま寝たんだっけ。
「ねえ、ライ。一緒に寝ない?」
「……盛ってんの?」
「そういうんじゃないけど。ライと一緒にいると落ち着くから」
「あっそ、別にいいけど。なんなら抱き枕にでもするか?」
「……本気?」
「こっちは散々、いろんなやつに抱き締められてんの。それぐらいどうってことないけど」
とか言って、そのまま抱き締められて寝たんだっけ。
……本当に何してんだろ、俺。
いや本当にさ、今になって思うんだよな。ずっとやらかしてたなって。
アクイラからも、散々そういうことを言われてた気がする。人たらしだとかなんとか。
……距離感が近かったのは本当に、間違ってたな。もう少し遠くからでもよかったかなって。
まあ、それだと逆に仲良くなれなかったやつもいるかもしれんし。勢いでいかないと、イェルクとか無理そうだしな。
「ライ、起きてる?」
ぎゅっ、と抱き締められる力が強まる。
「暑いんだけど」
「抱き締めてもいいって言ったのはライだよね」
「うるさいな」
「……そうやって、反抗的になるならさ」
ぐいっ、と顔を後ろに引っ張られる。目と鼻の先に、シリルの顔があるのがわかる。
ばくばくっ、と鼓動が高鳴った。
「また、キスしてもいいけど」
「~~っ、お前」
何を言ったらいいかわからなくて、そこで止まった。
デートだとか称して、こいつと一緒に出掛けたときに。手を繋いだりだとか、そういうことをしたあの日に、触れた唇の感触がまだ残ってるような気がした。
ああもう。めっちゃ意識してしまってる。
おかしいな、俺は別に男であることをやめたつもりとかはないんだけど。
ずっと、女の体になっていたせいだろうか。
いや、たぶん違う。
男である、という鏑木湊の存在は現実に行った本体のあいつにほぼ託してしまっていたんだ。
だから、もうこの体で生きていくこととかに抵抗がなくなって。
前は生意気なガキだった、こいつにぐいぐい来られても、そのまま受け入れてしまいそうになってるんだ。
「っていうか、キスしてもいい?」
「嫌」
「そう言いながら、どうせ拒否しないでしょ」
「うるさっ、んんっ」
無理やり、口を塞がれた。
そのまま、押し返そうとしてもびくともしない。
少しずつ、体の力が抜ける。
口が離れて、深く息を吸い込んだ。
顔が熱い。
「ライ、顔が真っ赤」
「……早く、ベッドから出たいんだけど」
「もうちょっとだけ、ライを抱き締めてたらダメ?」
「うざ」
「それ、反抗的にしてわざとキスされに言ってる?」
このままだと、またされそうになってしまうから無理やりベッドから抜け出した。
「ねえ、ライ。拒否しないってことはさ、このまま俺のものにしてもいいかな」
……ぐいぐいどころじゃなくないか、こいつ。俺のものとか言うキャラじゃなかっただろ。
そう思いつつ、なんとなく悪い気がしない俺に腹が立つ。
もしかしてさ、俺って押しに弱かったりすんのかな。
「まだダメだよ」
「じゃあ、そのうちいいって言わせるから」
「やってみたら?」
「わかった」
やっべ、煽るとこいつすぐキスとかしてこようとするじゃん。
シリルからなんとか遠ざかる。
「お前、ぐいぐい来すぎ。もうちょっと段階踏めよ」
「段階?」
「……まずは、告白とかあんだろ」
と、言うとシリルはぱちくり、と瞬きをした。
「好きって、何回も言ったけど」
「……いや、そうだけど。いきなりキスにはならないだろ」
「強引にやらないと、ライには伝わらないから」
「…………そういう、強引なことしないならさ。もうちょっと、その……恋人っぽいことしてもいいけど」
急に、視界が塞がれた。いや違う。目の前に、シリルの胸元がある。抱き締められてる。
「好きだよ、ライ」
と、最後に言われたその言葉に、俺はただこくりと頷くだけだった。
他キャラのifエンドを書こうとしたのですが、なんかうまいことできなかったので、アフターを書きました。
本当は設定とかまとめて、ついでにこれを出そうかとしたおまけだけど、なぜかこっちだけでてきたという話