リィンから旧校舎探索の手伝いとして呼び出されたルオンは、エマとの会話もそこそこに、旧校舎前に来ていた。
旧校舎の入り口に来ると、そこにはリィンだけでなく、ガイウスとエリオットの二人がいた。
「よっす。二人もリィンに呼ばれたのか」
「あぁ。ちょうど暇だったからな」
「うん。部活も終わったし、リィンの頼みだからね」
「手伝ってもらって、すまない。三人とも」
先に入っていたのか、リィンが旧校舎の中から出てくるなり、協力してくれることになった三人に謝罪した。
が、ガイウスとエリオットは微笑みながら、謝らなくていい、とリィンに告げた。
一方のルオンは、困ったような、呆れたような表情を浮かべ、協力すると約束したからな、と告げた。
それぞれの反応に、リィンはどう返していいかわからず、困ったような笑みを浮かべるのだった。
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旧校舎に入り、前回、自分たちが出てきた場所に、
「……この部屋、こんなに狭かったか?」
「そんなはずない……けど、なんで狭くなってるんだろう?」
「……何かしらの変化が、この旧校舎で起きている。そう考えるべきだな」
リィンの言葉通り、前回、入ったときよりも部屋が手ざまになっているのだ。
おまけに、部屋の中央にはなかった、何かの装置のようなものが設置されていた。
それには下手に触れない方が良い、というリィンとルオンの慎重な意見に従い、特に調査をすることなく、もう一つの出入り口へと向かい、部屋を出た。
部屋を出ると、そこはオリエンテーリングで歩き回った場所と非常に酷似た空間が広がっていた。
唯一、水路が通っているという点を除けば、目の前に広がっているのは確かに、オリエンテーリングを行った旧校舎の中だった。
「なんというか……どこをどう突っ込むべきなんだ?この空間、というより旧校舎か」
「突っ込みたい気持ちはわかるが、今はそれどころではないだろう」
「……だな。すまんな、ガイウス」
あまりに不可思議な光景を二度も連続して目撃したためか、ここに入ったそもそもの目的を見失いかけていたルオンだったが、ガイウスの冷静なフォローにより、思考を軌道修正することが出来た。
そして、ルオンと同じように思考の迷宮に迷い込みそうになっていたリィンも、そっとため息をついて、思考を切り替えた。
「考えていても仕方がない。とりあえず、進むしかなさそうだ……みんな、準備は?」
「大丈夫だ」
「う、うん。大丈夫」
「いつでも」
リィンの問いかけに答え、全員、迷宮探査を開始した。
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探索を開始してから数時間。
リィンたちは襲ってくる魔獣を退治しながら、奥へと進んでいった。
迷宮を進む中、リィンたちは互いに戦術リンクを試していた。
そうして進むうち、迷宮の一番奥にある部屋に到達した。
ルオンは不穏な気配を感じ取り、リィンたちに止まるよう声をかけた。
「どうした?ルオン」
「……この部屋、何かいる」
ルオンのつぶやきに答えるかのように、部屋の中央から黒い火花がまるで何かにまとわりつくような形で出現した。
そして、その中央から、巨大なクマのような魔獣が姿を現した。
「……ちっ、外れてほしかったんだがなぁ!!」
その姿を視認したルオンはホルダーのふたを開け、札を乱暴に取り出し、腰にさした刀を逆手で抜いた。
それに続き、リィンたちもそれぞれの武器を構え、戦闘態勢を整えた。
まるでこちらの準備が整うまで待っていたかのように、クマに似た魔獣はリィンたちが戦闘準備を整え終えた瞬間、その巨大な爪を振り上げた。
「やっべ!みんな、散れ!!」
ルオンの叫びと同時に、リィンたちは散開し、その攻撃を回避した。
それと同時に、リィンとエリオット、ガイウスとルオンはARCUSで戦術リンクを結び、再び各々の武器を構えた。
「エリオット、敵ユニットの分析を!ルオンとガイウスは敵をけん制してくれ!!」
「わ、わかった!!」
「了解っ!」
「任されようっ!!」
リィンの指示と同時に、ルオンとガイウスは魔獣に飛び掛かった。
ルオンの刀が閃き、ガイウスの槍が的確に相手の急所に向かって行った。
だが、魔獣の膂力により、そのいずれの攻撃もはじき返されてしまい、決定的な一撃を与えるには至らなかった。
「ちっ……いくらなんでも硬いだろ、こいつ!」
「それだけ、肉の壁が頑丈だということだ……骨が折れるな」
ルオンの悪態に、ガイウスは冷静に返した。
その返しに、ルオンはただただひきつった笑みを浮かべるだけだったが、ホルダーから数枚の呪符を取り出し、魔獣に投げつけた。
「
ルオンが叫んだ瞬間、札は三日月の刃となり、魔獣に襲い掛かった。
だが、その刃も魔獣の筋肉を傷つけることはできなかった。
いや、そもそも風というものの本質は「空気の流れ」だ。
風で体が傷つくという現象は、空気中に舞っている塵が風にあおられ高速で移動することで起こる現象だ。
そのため、必然的に傷は浅くなってしまう。
だが、ルオンにとって、狙いはそこではない。
今回はあくまでもエリオットが対象となることを防ぐことが任務だ。
それならば、消耗は小さいに越したことはない。
少しの間、ルオンとガイウスが魔獣をけん制しつつ、自分たちの方へ誘導していると、
「解析完了!」
エリオットの声が聞こえた瞬間、ルオンの脳裏に魔獣の解析結果が映像として流れ込んできた。
「……ガイウス、リィンと結べ!」
「了解だ!リィン!!」
「わかった!」
ルオンはそう叫ぶと同時に、ガイウスとのリンクを切り離し、エリオットとリンクを結んだ。
ルオンのその判断は正しかったらしく、リンクを結んだリィンとガイウスが前線に立ち、エリオットとルオンがそれを援護する形になった。
もともと、エリオットは武術が得意なわけではない。入学試験の際も、適正武具がなかったため、
ルオンについては、確かに長脇差を用いた戦闘が主流となる。
だが、ルオンは導力魔法や呪符を使った戦闘も、どちらかといえば得意な方だ。
そのため、前線で戦うことが基本となるリィンとガイウスを戦闘に持って行ってしまえば、必然的に
「東海神、西海神、南海神、北海神、四海の大神、災禍を退け、凶災を払う!」
導力魔法とはまた違う詠唱が響くと、手にしていた呪符が煌々と輝きだした。
ルオンはそれをリィンへ向けて投げつけた。
投げられた呪符はまっすぐにリィンへと飛んでいき、彼が手に握っている太刀の刃に張り付いた。
呪符が張り付いた太刀の刃は、さきほどまで呪符が放っていたものと同じ色の輝きを放った。
むろん、そのことに驚かないリィンではなかった。
「こ、これは?!」
「そのまま行けっ!!」
「あ……あぁ‼︎」
ルオンの叫びに応じるように、リィンはあらん限りの力で刃をふるった。
その一閃は、魔獣の急所を的確に捉え、絶命に至らせた。
魔獣が断末魔をあげながら、黒い光の奔流に飲まれ、消滅すると、戦闘が終了したことを悟ったリィンたちは各々の得物を納めた。
その後、気になることが幾つかあるものの、学院長に報告しなければならないという都合上、早々に離脱すべき、と判断を下したリィンの言葉に賛同し、旧校舎を後にした。