星の軌跡   作:風森斗真

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一章「交易地ケルディック」
実習初日 一、列車に揺られて


実技試験の翌日。

いつもより少し早く目が覚めたルオンは、特別実習へ向かう支度を整え、部屋を出た。

階段の方へ視線を向けると、ここ二週間ほどで見慣れた青い髪の少女と橙色の髪の少年が、何やら階下を見つめていた。

 

「おはようさ……って、何やってんだ?」

「あ、ルオン。おはよう」

「おはよう、ルオン……まぁ、下を見てみろ」

 

ラウラに言われるまま、ルオンは階下を見た。

そこには向かい合っているリィンとアリサがいた。

 

――何話してんだ?

 

ルオンは好奇心のまま、腰のホルダーのふたを開け、二枚の呪符を取り出し、一枚をリィンたちの方へ投げつけ、残った一枚を耳に近くにかざした。

そのまま、目を閉じると、呪符の文字が明滅を始めた。

その明滅に合わせて、リィンとアリサの声が聞こえてきた。

 

『……ごめん!……どうして謝るんだ?!』

『ごめんなさい!!……どうして謝るの?!』

 

ルオンは呪符から聞こえてきた声を聞き、半眼になりながら、意外と気が合うんじゃないのか、と心中で呟いた。

ふと気づくと、エリオットとラウラもルオンの呪符に耳を傾けていた。

だが、それに文句を言うことはなく、ルオンはなおも呪符から聞こえてくる声に集中した。

 

『本当にごめんなさい。あれが不可抗力だってことはわかってたのに、あんな態度をとってしまって』

『いや、俺の方こそ……それに、冷静になって考えれば、あの落とし穴はちゃんと安全に配慮してあった。俺がもう少し冷静になっていれば防げていた事態だ』

『けど、かばってくれたことに変わりはないし……うん、やっぱり一方的に私が悪いわ』

 

リィンとアリサの、もはや夫婦喧嘩ととらえられても仕方のないやりとりに、ルオンはいい加減にしてくれ、と叫びたくなってしまったが、その衝動を抑え、代わりに盛大にため息をついて、階段を下りた。

 

「おはよう、お二人さん」

「「お、おはよう。ルオン」」

「……お前さんら、実は仲いいんじゃないのか?」

 

突然の登場に驚愕したリィンとアリサは、一寸もたがうことなくまったく同時にルオンと挨拶を交わしたが、あまりにも息がぴったりと合っているその行動に、ルオンは思わず苦笑いを浮かべた。

 

だが、ルオンとしては、それは好ましいものだと感じていた。

少なくとも、幼馴染と行動を同じくする犬猿の仲の二人(マキアスとユーシス)に比べれば、ずっと。

 

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駅でB班と合流し、それぞれの実習地へ向かうため、ルオンたちは電車に乗った。

その道中、《ケルディック》についての一般的な知識を復習してから、到着するまでの間、思い思いの時間を過ごすことにした。

ラウラは窓の外を流れる景色を楽しみ、リィンとアリサはギクシャクしていた二か月という時間を埋めるかのように、互いに談笑していた。

そんななか、ルオンは目を閉じ、到着までの間を眠って過ごすつもりでいたのだが、その目論見はエリオットによって邪魔されることになった。

 

「ねぇ、ルオン。一つ聞きたいんだけど、いいかな?」「

「んぁ?なんだ?藪から棒に」

「あはは……うん、ちょっと気になってたんだけど、委員長とどういう関係なのかなぁって」

「いや、どういうって……ただの幼馴染だよ。俺がちとあいつのことを構いすぎているってだけだ」

 

眠ろうとしているところを叩き起こされた気分になったルオンは、不機嫌そうな声でエリオットの問いかけに答えた。

その答えに、何か勘ぐったのか、エリオットはにやにやとした笑みを浮かべていた。

 

「ふ~ん?……本当にそれだけ?」

「……エリオット。お前さん、何を勘ぐってやがるんだ??」

 

ルオンはほほに冷や汗を伝わせながら、問いかけたが、エリオットは、別に、となおもにやけ顔で答えるだけだった。

その表情に、ルオンはただただ、不穏な何かを感じざるを得なかった。

そっとため息をついて、ルオンは眠ることをあきらめて、窓の外に目を向けた。

 

その脳裏には、かつて村に滞在していたころに、エマと過ごしていた日々がよぎっていた。

母親と死別してから、同じく、流行り病で母親を亡くしたエマと一緒に、師匠でもある祖母に引き取られ、ルオンは与えられた部屋の中で読み漁ったり、呪符を作ったり、あるいは静心桔梗流の技を磨く鍛錬をしたりして時間をつぶす日々を過ごしていた。

むろん、エマとともに、祖母から与えられた修行をこなし、多くのことを学び、知識を身に着け、エマがその使命を果たす手助けできるだけの力を養ってきた。

 

だが、ある日、村に届いた知らせを聞いたその時から、ルオンは何か途轍もなく大きな流れのようなものを感じ、村の外へ旅立つことを決めた。

むろん、エマに話せば泣かれてしまうことは目に見えていた。だが、必ずまた会えることを確信していたため、祖母にだけ、旅立つことを話し、再び放浪の旅へと出たのだった。

 

そして、とある遊撃士に拾われ、そのままサラとフィーと出会い、トールズ士官学院に入学することとなった。

まさか、その時になってエマと再会することになるとは、夢にも思わなかったが。

 

――さて、はたしてこの流れが吉となるか凶となるか……

 

心中でそうつぶやきながら、ルオンは窓の外を眺めていた。

穏やかな光景と、広々とした麦畑が目に入ると、もう間もなく、ケルディックへ到着することを理解した。

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