いや、楽しいんですがね、ちと大変
討伐対象となっていた大型魔獣、スケイリーダイナをどうにか討伐したリィンたちは、寄せられていたほかの要請を片付けたり、大市で突然起こった一騒動のあと、騒動を収めた元締めのオットー氏に招待され、話を伺ったり、夕方のタイムセールの手伝いをしたりと、あわただしく動き、日が完全に沈み切る少し前に宿に戻った。
ちょうど、夕食時ということもあってか、女将が食事を用意してくれていた。
地元産の食材を使った郷土料理に舌鼓を打ちつつ、ふと、エリオットが何かに気づいたように口を開いた。
「そういえば、僕たちがⅦ組に選ばれた理由って、なんだろう?」
それは、おそらくこの場にいるメンバーだけではなく、B班のメンバーも感じているであろう疑問。
自分たちがなぜ、Ⅶ組という特殊なクラスに選ばれたのか。
最初こそ、ARCSの適性が高かったから、という理由で納得していたが、新生活も慣れて余裕が出てきたからか、どうにもそれだけで選抜されたとは思えなくなっていた。
「かといって、出身や身分……というわけでもないようだな」
「あぁ。その条件だと、ガイウスとルオンは外れることになるし」
「う~ん、となるとあとは……」
「……志望理由、とか?」
エリオットのつぶやきに、全員が目を丸くした。
そして同時に、あり得るかもしれない、とも思った。
たしかに、『身分や出身にとらわれることのないクラス』ならではの選抜理由だろう。
「なるほど、その発想はなかったな」
「参考までに聞きたいのだが、皆の志望理由は?」
「う~ん……僕は元々、士官学院志望じゃなかったんだけどね。妥協で
そういう意味じゃ、たぶん、僕が一番、この場に不相応なんだろうけど。
自嘲気味な微笑を浮かべながら、エリオットがそう話すと、アリサとラウラが続くようにそれぞれの志望理由を話し、ルオンの順番が回ってきた。
「ルオン、そなたは?」
「俺は、まぁ勧められるままってのが正直なところなんだが……そうさな、強いて言うなら、『とある事情』から知識がほしかったから、かな」
「そういえば、ルオンって図書室にいたり、トマス教官と歴史の話をしてたりすることが多いよね?」
「なるほど。てことは、帝国最高峰の知識が集まる場所、としてここが有力だったわけね?」
「まぁ、そういうことかな……で、リィンはどうなんだ?」
『とある事情』という疑問は残るが、それについて触れられたくない理由がある、と感じたのか、それ以上、追及されなかったルオンは、残ったリィンに話を振った。
「俺は……みんなほどしっかりしてはないんだが、そうだな……あえて言うなら、自分を見つけるため、かな?」
「へぇ?」
「それはまた、なんというか」
意外といえば意外な理由に、エリオットとルオンは少しばかり面食らった。
リィンはその反応に少し困ったような笑みを浮かべながら、大層な話ではない、と口にした。
「あえて言葉にするなら、そんな感じというか……」
「えへへ、いいじゃない。かっこよくて」
「ふふ、あなたがそんなロマンティストだなんて、ちょっと意外だったわね」
だが、エリオットとアリサは少なくとも、その理由を好意的に受け止めたらしく、くすくすと微笑みを浮かべていた。
一通り、話が終わり、レポートを書き上げなければならないことを思い出し、席を立ち、部屋に上がった。
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その夜。
寝付けなかったルオンは、宿の外にあるベンチに腰掛け、空を見上げていた。
その脳裏には、夕刻、オットー氏から聞いた話の内容が浮かんでいた。
そもそも、夕刻に起きた大市での騒動は、まったく同じ日付に同じ場所を指定してきた公式書類が原因だった。
従来なら書類を作成している領邦軍が、そのようなミスをするはずはない。
その裏には、クロイツェン州を治める貴族、四大名門の一角を担うアルバレア公爵の思惑が絡んでいる。
売上金に対してかかる税金の増額。
オットー氏をはじめとして、多くの商人たちが突然のその決定に反対していた。
いままでのらりくらりと躱してきたらしいが、それもどうやら限界にきたらしい。
――突然の増税、その先にある可能性……星を詠む限り、おそらく、いや、ほぼ確実に……
唐突に始められた増税、その先にあるもの。
大河の流れともいうべき、大筋を『視』たルオンは、そっとため息をついた。
ふと、背後に誰かの気配を感じ、視線をむけると、そこには物憂げな顔で空を見上げるリィンの姿があった。
「どうした?リィン」
「あ、あぁ……ちょっとな……隣、いいかな?」
「いいぞ」
ややぶっきらぼうにそう返すと、リィンはベンチの空いた場所に座り、空を見上げた。
だが、やはり何か引っかかっているらしく、その顔にはまだ曇りがあった。
「……ラウラに、何か言われたか?」
「え?なんで……」
「レポート書きに部屋上がる前に、呼び止められたろ?」
「あ。あぁ……なるほど」
なぜラウラに何か聞かれたとわかったのか、それを問いかける前に、根拠を言われてしまったリィンは、口をつぐんだ。
問いただしてみたい、という気持ちを抑えながら、ルオンはリィンが話してくれるまで待つことにした。