星の軌跡   作:風森斗真

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実習初日 五、初日終了~不得至極致(至れざる極致)~

《風見鶏亭》の玄関先に備え付けられているベンチに、リィンとルオンが沈黙を守りながら座っていた。

だが、その静寂を破ったのは、リィンだった。

 

「……なぁ、ルオン。質問に質問で返すようで悪いが、先にこれだけは答えてくれないか?」

「ん?」

「……君も、八葉一刀流なのか?」

「違うぞ」

 

リィンの質問に、ルオンは即答した。

 

「俺は《剣仙》の弟子じゃないし、ほかの八葉の剣聖に師事したことはない」

「え?そ、それじゃ、あの剣筋はいったい……」

「俺の剣は、静心桔梗流。母さんが修めた、東方の剣術だ」

「へぇ……てことは、ルオンがその剣術の後継ってことに……」

「いや……静心桔梗は、もはや永劫、奥義皆伝に至ることのない、滅びゆく流派さ」

 

自嘲気味に笑いながら、ルオンはそう口にした。

滅びゆく流派。

その言葉に、リィンは目を丸くした。

 

「え?それって、いったい……」

「ん~……まぁ、リィンならいいか」

 

少し考えるようなそぶりを見せて、ルオンはリィンに、自分の流派が滅びゆく理由を語り始めた。

 

「確かに、母さんは静心桔梗流を俺に伝えて修行もつけてくれた。けどな、それも初伝まで。それ以上は、時間がなかった」

「え?……まさか」

「あぁ、中伝を授ける前に流行病で、な……」

 

悲し気な表情でそう語りながら、ルオンは一冊の本を懐から取り出した。

そこには、東方の文字で『奧伝』と記されていた。

 

『桔梗流のすべてを記した書……これを託します。もはや私の手であなたを導くことはできませんが、あなたがこの書の技をすべて受け継ぐことを願い、信じていますよ……ルオン』

 

その言葉とともに託された、いわば秘伝書というものだ。

だが、それさけあれば、流派が絶えることはないはず。

なぜ、永劫、奥義皆伝に至ることはない、と口にしたのか。

その理由は、すぐに明らかとなった。

 

「いくら、秘伝書を授かって、その技の全てを修めたからといっても、それは所詮、書いてあるものを実践できる、というだけ……(しん)(たい)も、技に伴わない、半端ものさ」

「……心技体(しんぎたい)の三位が一体となって初めて『奥義皆伝』ってことか?」

「そういうことさ……自分でそれが為せているかどうかなんてわかるはずもない。だから奥義皆伝に至ることはできない……けど、だからって手は抜かない」

「え?」

 

突然のその一言と同時に、ルオンがまとう雰囲気が一変した。

あまりに素早いその変化に、リィンは思わず身構えた。

 

「静心桔梗の技、その全てを受け継ぐことを願い、それを信じる……師の、母さんのその想いを無駄にしたくはないからな」

「……そう……か……」

「……お前はどうなんだ?」

 

ルオンの突然の問いかけに、リィンは目を丸くした。

 

「初伝で止まっているってことは、修行を打ち切られているか、お前自身が足踏みしているかのどっちかなんじゃないか?」

「それは……あぁ、俺はたしかに、老師から修行を打ち切られている。その日から放浪に出ていて会えずじまいだから、事実上、破門されたようなもんさ」

「だが、《剣仙》はまだ存命。それに、別に破門されたわけじゃないんだろ?」

 

反論するリィンを、ルオンは真っ直ぐに見据えながら続けた。

 

「お前が何に足踏みしているのか、なぜ修行を打ち切られたのか。それを俺が聞いたところで、結局はリィン自身の問題だから、どうしようもない。けれど、それを理由に、お前自身を軽んじるようなことはするなよ?」

「……え?」

「大方、『所詮は初伝止まり。その程度の実力しかないから、本気も全力もあったもんじゃない』みたいなことを言ったんだろ?」

「……まさかと思うが、聞いてた、なんてことないよな?」

「ん?ただのヤマ勘だが……なんだ、当たったのか」

 

あっけらかんとした表情で、苦笑を浮かべているリィンに答えると、リィンは疲れた様子でため息をついた。

 

「……はぁ……まったく……けれど、そうだよな。俺のことはともかく、初伝止まり(・・・・・)なんて、八葉一刀に、いや、剣術に対して失礼だもんな……」

「だぁら、俺のことはともかくってなんだよ、俺のことはって!……だがま、ちょっとは踏み出せそうか?まだ踏ん切り付かないなら」

 

未だ自分を軽んじているようにしか思えないリィンの発言に、苦笑を浮かべながらツッコミ、ルオンはベンチから立ち上がり、腰に差していた長脇差を抜き、その切っ先をリィンに向けた。

 

「ちっとばかり、手合わせに付き合ってくれ」

「な、なんでそうなるっ?!」

「いつまでもうじうじしてるてめぇの背中蹴とばしてやりたくなった!」

「んな理不尽な!!」

「この世は不条理と理不尽の下僕!何をいまさら!!」

 

問答無用、といった様子で、ルオンはリィンにむかって殺気と剣気をぶつけてきた。

もはや手合わせは避けては通れない。

そう悟ったリィンは、せめて、と一言、ルオンに問いかけた。

 

「さすがに町中じゃ迷惑になるから、街道に移動しないか?」

「……それもそうだな」

 

リィンの説得に応じ、ルオンは殺気と剣気を抑え、街道のほうへと移動した。

街道に出た二人は、仕切り直すようにそれぞれの得物を抜き、構えた。

時間にして数秒。その間、二人は微動だにしなかった。

だが、近くの川に住んでいる魚が跳ねる音が響いた。

その音と同時に、ルオンとリィンは動いた。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

「しゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

リィンとルオンは雄叫びをあげながら、地面を蹴り、間合いを詰めた。

二人が交差する一瞬、太刀と長脇差の刃がぶつかり、火花を散らした。

しばらくの間、街道には激しい剣戟の音が鳴り響いた。

だが、何合打ち合っても、リィンもルオンも決定打に欠けていた。

 

――くっ!このままじゃジリ貧か……しかたない、未完成だが!

 

ルオンの刃を回避し、リィンは太刀を構えた。

その瞬間、火の導力が太刀に宿り、赤い輝きを放った。

 

「焔よ、我が刃に集え!」

「大技でくるか……ならばっ!」

「おぉぉぉぉぉぉぉっ……斬っ!!」

 

リィンが焔を宿した刃を振ったその瞬間、ルオンは札を取り出し、上空に向けて投げた。

だが、リィンの刃をルオンが回避する様子はなく、鋭い一閃がルオンを切り裂いた。

勝った、と同時に、やりすぎたか、とリィンは感じたが、その瞬間に隙が生じた。

いつの間にか、自分の周囲を、五人の(・・・)ルオンが(・・・・)取り囲み、長脇差を逆手に構えていた。

 

「我が剣に集うは五気、その相剋以て邪を祓わん!」

 

土、風、火、水、空。五つの導力をそれぞれに宿した刃を持つ分身たちが、互いの位置を入れ替えるように次々に斬りかかった。

同時に、分身たちが通った軌跡に白い光が灯り、五芒星を描いた。

 

「五行剣・桔梗紋一閃!!」

 

分身が消え、ルオンが長脇差を鞘に納めた瞬間、光で描かれた五芒星の軌跡が凄まじい導力の衝撃を放ち、リィンに襲いかかった。

二段構えの攻撃に、さすがのリィンもなすすべもなく、背中から地面に倒れこんだ。

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