漫画は全巻持ってるんですが……個人的にはⅡのコミカライズも出てきてほしいなぁ……
翌日。
リィンたちは、いまだ眠気を引きずりながらも朝食を終えて、二日目の実習課題を確認していた。
だが、その量は昨日と比較すると、少しばかり少なくなっていた。
「元締めが配慮してくれたのかな?」
「たぶん、そうだろう……今日中にトリスタに戻らないとだから、夕方には実習課題を終わらせないと、か?」
「レポートを仕上げる時間も考えれば、それが妥当であろう」
「なら、早く行動を始めたほうがいいわね」
アリサの意見に全員がうなずくと、突然、宿のドアが勢い良く開き、ウェイトレスとして働いている少女が飛び込んできた。
女将のマゴットがその慌てた様子を叱りながら、何があったのか問いかけると、返ってきた答えに、リィンたちは目を丸くした。
----------------------------
騒動のことが気になったリィンたちは、行動を起こす前に様子だけでも見に行こう、ということになり、大市へとむかった。
目の前では今まさに流血沙汰になりかねないような険悪なムードを醸し出している、二人の商人がいた。
「まずいな。リィン、止めに入るぞ!」
「あ、あぁ!」
「ちょ、ふ、二人とも?!」
エリオットが止める間もなく、ルオンとリィンは商人たちの間に割って入った。
「落ち着いてください!」
「ここで流血沙汰になったら、それこそ面倒なことになりますよ?!」
ルオンとリィンが必死になって止めようとしているが、それでも商人の怒りは収まらなかった。
それもそのはず。
喧嘩の原因は、昨日のような書類不備によるブッキングではなく、屋台そのものが被害を受けたことにあるのだから。
だが、だからといってこのまま放置するわけにもいかない。
さてどうしたものか、とルオンが思案し始めたその時だった。
「何の騒ぎだ!」
突然、大市の入口のほうから怒鳴り声が聞こえてきた。
怒鳴り声がしたほうへ視線を向けると、そこには三人の男たちがいた。揃いの制服を着ていることから、領邦軍であることはすぐに察しがついた。
その姿を見たルオンとリィン、そして追い付いてきたアリサたちは疑問符が浮かんできたが、その疑問を解決する間もなく、物事は進みだしていた。
「ふんっ、ならば簡単なことだ!この二人を連行しろ!!」
「「なっ?!」」
「えっ??!!」
「ちょ、ちょっと待っていただきたい!それはいくらなんでも強引が過ぎるのでは?!」
さすがの強引さにルオンが反論したが、領邦軍はそれを鼻で笑った。
「ふんっ!どうせ互いが互いの屋台を破壊し、商品を盗んだ。そう考えればつじつまもあうだろう!」
「……僭越ながら、しっかりした捜査もせずに連行して冤罪だった場合、それはクロイツェン州領邦軍の恥、ひいてはこの地を治めるアルバレア侯爵閣下の恥となりませんか?」
「……むっ……」
「よもや、領地の治安維持に注力したいがために捜査に時間をさけない、ということはありますまいな?!四大名門の領地の治安維持を任されている身で!」
挑発ともとれる言葉ではあったが、それでも領邦軍のきょうじを刺激するには十分だったようだ。
結局、領邦軍はその場での厳重注意にとどめ、その場を去っていった。
「ちょ、ちょっとルオン!」
「いくらなんでも、今のは」
「大丈夫、大丈夫。あの程度で不敬罪ってしょっ引いたら、それこそ領邦軍の恥だ。それに、こっちは正論をぶつけたんだ。しょっ引いたら後々、どっちが恥をかくがわからないほど、連中もバカじゃないさ」
どうやら、それなりに計算したうえでの行動だったようだが、やはり冷や冷やしたらしく、アリサとエリオットが小言を始めた。
心配をかけたことは事実なので、苦笑を浮かべながらその小言を受け入れているルオンの傍らで、リィンとラウラは破壊された屋台を調べたり、周囲にいた商人たちから情報を集めていた。
だが、やはり犯人について有力な情報を得ることはできなかった。
「やはり深夜の犯行、ということになるか」
「あぁ……たぶん、警告なんだろうな。オットーさんへの」
元締めのオットー氏に対する領邦軍からの警告。リィンはこの犯行をそう結論付けた。
売上税の増税を取り下げるよう、オットー氏はアルバレア公爵に求めている。その陳情を取り下げない限り、今回のようなことは続く。
言外にそう言っているのだ。
そのやり口に、まっすぐな性格をしているラウラが苛立ちを覚えないわけがなかった。
「あまり他領のことに口をはさむべきではないが、これは放っておくわけにはいくまい」
「あぁ……」
ラウラの言葉にリィンはうなずいて返し、ルオンたちのもとへと戻った。
どうやらちょうどお説教も終わったらしく、少し疲れたような顔でルオンが戻ってきた二人に視線を向けてきた。
「だ、大丈夫か?ルオン」
「あぁ、まぁ……うん」
「まったく。一応、懲りたようだからわたしからは何も言わんが……まぁ、あまり心配をかけさせるな」
「善処する」
ラウラの一言に、ルオンはそう返し、ようやく本題に入った。
「聞いた限り、なんだが、やっぱり二人のどちらも犯人ではないと思うんだ」
「だろうさ」
「え?」
リィンの一言に、ルオンはさらりと返した。
だが、その一言は出まかせで出てきた言葉ではなく、ルオンの経験からくるものだった。
「仮にもケルディックの大市に店を出そうってんだぜ?だったらもう少し効果的な嫌がらせの方法があるだろ?」
「そういうもの、か?」
「せやで!」
ラウラがルオンの言葉に疑問符を浮かべていると、突然、背後から威勢のいい少女の声が聞こえてきた。
振り返ってみると、わかば色の短い髪をした快活な少女がいた。
その顔に見覚えがあったリィンたちは、驚愕の声をあげた。
「うぉわっ??!!」
「あぁっ!!」
「き、君は?!」
「Ⅴ組のベッキー?!」
「なんでここに??!!」
だが、そんな五人を気にすることなく、ベッキーはいたずら小僧のような笑みを浮かべながら、どや顔で説明を始めた。
「なにも相手の商品を盗んだり屋台を壊したりすることだけが嫌がらせやないで?なかでも
「悪評はそのまま客足に影響するもんなぁ」
「そや!商売人ならそのあたりは重々承知しとる!!わざわざ屋台壊したり商品盗んだり、足の着くような真似はせぇへんで!」
商売人というのは、これでなかなか計算高いし、信頼を第一にする。
もし、商売敵の屋台を破壊し、商品まで盗んだとした場合、業務妨害だけでなく器物破損と窃盗もセットになってくる。
仮に司法機関による捜査で犯人が自分だとばれてしまえば、逮捕されるだけでなく、逆に自分のほうが客人からの信頼を一気に失ってしまう結果になりかねない。
そんなリスクを背負ってまで、強引な手段に出ることは、よほど大きな権力が背後についている商人でなければやらないことだ。
「ということは、やはり今回の犯人は……」
「……元締めを脅して、陳情を取り下げさせることで得をする人間」
「十中八九、なんだろうが、問題が一つ」
「そうね……けど、今の状況じゃ、まだ弱いよね?」
「今のところ、状況証拠だけだもの……けど、これ以上はどうすれば」
現状からの推論だけでは、まだ黒幕のはっきりとした正体は見えてこない。
士官学院に身を置き、軍の末席に身を連ねているとはいえ、所詮、自分たちは学生に過ぎない。
これ以上は自分たちの身に余る。
リィンたちがそう判断した時だった。
「やってられっか、こんちくしょ~」
と、酔っ払いの声が聞こえてきた。
朝っぱらから酔いどれとは、と半ばあきれながら、ルオンは声のした方へ視線を向け、ため息をついた。
遠目からでもだいぶ飲んでいることがわかると、変にほかの人に絡んで迷惑をかける前に、どうにか説得して休ませたほうがいい。
そう思い、酔っ払いのおじさんに声を掛けたルオンとリィンだったが、ここでまさの情報が飛び込んできた。