新たなる出会いと再会
ゼムリア大陸。
エレボニア帝国を筆頭とする多数の国家が支配するその大陸に、はるか東方にある海を隔てた島国より、一人の幼子が母親とともに流れ着いた。
だが、幼子のその白い髪と金色の瞳は、両親のものと異なっていた。
それゆえに、母親は不貞を疑われ、生まれたばかりの幼子とともに一族を追放され、ついには島国から追放された。
やがて、彼は青年となり、エレボニア帝国国内で最も有名な士官学院「トールズ士官学院」に入学することとなった。
東方の国では珍しい、白い髪と金色の瞳を持つその青年が見つめる先に何があるのか。その瞳が映す世界は、いかなるものか。
それは、女神のみぞ知ることだった。
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七曜歴千二百四年、三月三十一日。
エレボニア帝国にある帝都近郊都市トリスタ。決して大きくはない都市の駅から、一人の青年が出てきた。
黒髪をした精悍な顔立ちをしたその青年は、肩から紫の細長い麻袋を下げていた。
そんな彼の前に、ひらり、と白い花びらが落ちてきた。
「へぇ、ライノの花か……これだけ咲いているのを見るのは、初めてだな」
青年、リィン・シュバルツァーはぽつりとつぶやき、目の前にある公園に植えられたライノの花が咲き誇る光景を見つめた。
一望すると、穏やかな雰囲気の街並みであることがわかり、居心地のよさそうな街だという感想を抱いた。
そんな青年の背に、静かな雰囲気の声をかける人物がいた。
「……ライノの花に見とれたか?」
「あ……あぁ、そんなところだ」
不意に声をかけられたリィンは、声のした方に振り返り、困惑したような笑みを浮かべながらそう答えた。
振り返ったそこには、リィンと同じく黒い髪をした青年がいた。どこか森や山のような、静かで、それでいてやさしげな雰囲気を持っている青年だ。
しかし、リィンが一番気になったのは、彼が着ている制服だった。
「同じ服、か……ということは、君も学院に?」
「そのようだ……せっかくだ。少しフライングになるが、名乗っておこうか」
青年は静かに微笑みながら、リィンの方を見た。
「俺はルオン、ルオン・ツクヨだ」
「ツクヨ?……帝国ではあまり聞かない名だな。ひょっとして、外国人か?」
「あぁ、東方の出らしい……もっとも、幼少期から
「そうなのか……リィン・シュバルツァーだ。よろしく、ルオン」
「こちらこそ」
リィンから差し出された手を、ルオンは微笑みながら握った。
ルオンが手に触れた瞬間、リィンは一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、自分の左胸に疼きを感じ取った。
ここ十年近く、こんなことはなかったのだが、あまりにも突然のことでリィンは思わず、あいている方の手で自分の胸をおさえた。
その態度に、ルオンは眉をひそめた。
「どうした?」
「あ……あぁ、すまない……急に胸が痛みだして」
「病気か?」
「……いや。もうおさまったから大丈夫だ」
手を離し、リィンは微笑みながらゆえに答えた。
「驚かせてすまない、ルオン」
「いや、気にするな……さて、俺はそろそろ行くとするよ」
「あぁ、それじゃ学院で」
ルオンは背中越しでリィンに手を振り、そのまま学院へと向かっていった。
背中越しに、少女の悲鳴が聞こえたので思わず振り返ってみると、リィンが一人の少女に手を差し伸べている光景が目に入った。
どうやら、リィンにぶつかってしまったらしい。
――青春、か……
ルオンは、その光景を見て、こんな場面には似つかわしい言葉だな、と思い、今はどうしているのかわからない、幼馴染の少女を思い出していた。
しかし、感傷に浸ったのはほんの一瞬だけで、その後は目的を思い出したかのようにまっすぐに、目的地であるトールズ士官学院に向かっていった。
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ルインが学院の校門に到着すると、愛らしい声が少し下の方から聞こえてきた。
「ご入学、おめでとうございます!」
「……ども」
声のした方へ視線をやると、そこには亜麻色の髪をし、緑の制服を着た愛らしい少女がいた。
「……えっと?」
「あ、ごめんね!えっと、ルオン・ツクヨくんでいいんだよね?」
「……えぇ、まぁ……ん??どうして俺の名前を?」
一応、入学者名簿のようなものは作られているのだろうということは、ある程度推測していた。
が、ある意味個人情報の塊でもある名簿を、簡単に一生徒に見せることがあるのだろうか、とルオンは疑問に思った。
それを察したのか、小柄な少女の隣にいた、恰幅のいい青年が愉快そうな、しかし人のよさそうな笑みをながら、少し事情があってね、と答えた。
「申請していたものを預かるけど……君の持ち物って?」
「……これです」
ルオンは細長いポーチのようなものを四つ取り出し、青年に手渡した。
青年はそれを受け取ると、確かに、と言って、後ろの方に置いてあったコンテナへと入れた。
――何に使うんだ?ほかの色の制服を着ている新入生にはやってないみたいだけど……
と、考え事をしていると、小柄な少女が愛らしい微笑みを浮かべながら。
「ちゃんと返却するから安心してね!それじゃ、二年間の学院生活、楽しんでね!!……あ、忘れないうちに、トールズ士官学院へようこそ!!」
「この後、講堂で入学式があるから、そちらに向かってくれ」
「……わかりました」
青年の指示を受け、ルオンは脳内にまだ疑問符を残したまま講堂へと向かった。
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「……さて。最後に、君たちにある言葉を贈るとしよう」
講堂へ入り、入学式が始まってから十分近く。壇上に立った学院長が、真剣な、しかしやさしげな眼差しを新入生たちに向けた。
「"若者よ、世の礎たれ"。この学院の創設者である"獅子心皇帝"ドライケルス帝が残した言葉だ。何を以て「世」とするか、何を以て「礎」とするか。ぜひとも、この学院で過ごす時間の中で探し出してほしい」
――"世の礎"か……
「……なんだか、ものすごく期待されているような言葉ですね」
学院長の言葉を聞き、ルオンが心のうちで贈られた言葉をつぶやくと、隣に座っていた少女が声をかけてきた。
ルオンは声のした方へ視線を向けると、そこには丸い眼鏡をかけた桃色の髪を束ねた少女がいた。
ルオンにとって、その少女は顔なじみであった。
「……エマ?エマなのか?」
「はい。お久しぶりです、ルオン……よかった、ちゃんと覚えていてくれたのね」
「まぁ、うん……俺にとっては、里が故郷みたいなもんだし……何より、母さんが眠っている場所だしな」
隣に座っていた少女、エマがうれしそうに微笑むと、ルオンもまたやわらかな笑みを浮かべた。
はるか東方の国から、母親と二人で放浪を余儀なくされていたが、エマの故郷で腰を落ち着けることができ、長い時間をそこで過ごしていた。
もっとも、母親の死後、ルオンは数年でその場所から出ていってしまったのだが。
「あれから、どうしていたんですか?おばあちゃんも気にかけていましたよ?ガンドルフさんなんか、『ようやく後継者ができたと思っていたのだが』ってがっかりしてましたし」
「……まぁ、各地をいろいろと。てか、俺が後継者ってどうなんよ?」
からからと笑いながら、ルオンはエマの問いに答え、立ち上がった。
周囲を見渡すが、移動をしているのは緑の制服をまとう生徒と白い制服をまとう生徒だけで、紅い制服をまとう生徒は一人も移動していなかった。
――ん?俺たちだけ特例ってこと、か?
ルオンがそんなことを思いながら同じ制服をまとう生徒たちを視界に収めると、一人の女性教官の声が聞こえてきた。
「は~い、赤い制服を着た子たちは注目~!!」
声のした方を見ると、そこには二十代半ばほどなのだろうか、と思える女性がいた。
「どこに行くべきかわからなくて困惑しているって様子ね。あなたたちには特別なカリキュラムが含まれているから、それの説明も含めてオリエンテーリングを行うので、私についてきてちょうだい」
女性――おそらく、いや、ほぼ確実に教官なのであろう――の指示にしたがい、赤い制服を着ていた生徒たちは次々に席を立ち、教官の後に続いていった。
「……俺たちも行くか」
「……そう、ですね」
ルオンの言葉に、エマも、様々な疑問を脳内に浮かべながらも、声をかけてきた女性教官の背についていくのだった。