星の軌跡   作:風森斗真

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実習二日目 五、トリスタへの帰還

自然公園のヌシを倒し、どうにか危機を脱したリィンたちは武器をしまうとほっと安どのため息をついていた。

エリオットとアリサに至っては、完全に脱力してへたり込んでしまっていた。

無理もない。今まで経験した戦闘の中で最も厳しく、激しい場面だったのだから。

 

「大丈夫か?エリオット」

「う、うん……けど、なんか力が抜けちゃって」

「あぁ、ま、しゃあないさ。教官との戦闘訓練だって、まだここまでのレベルじゃないし」

「……な、なんかあれ以上にキツイのを知ってるような感じだけど……」

 

実際問題、ルオンはサラが"現役"だった頃を知っている。

そこから考えても、現在のサラの戦闘訓練は"慣らし"の段階から抜け出ていない。

もっとも、本気になった彼女を相手にすることは、ルオンとしても避けたいところではあるのだが。

苦笑を浮かべてごまかしながらエリオットを助け起こし、リィンのほうへ視線を向けると、アリサを助け起こしている様子が目に入った。

 

「お疲れさん、リィン、アリサ、ラウラ」

「あぁ、お疲れ」

「ルオンも、お疲れ様」

「うむ。どうにか切り抜けたな」

 

やはり苦戦を強いられたことに変わりはなく、三人ともそれなりに疲弊しているように見えたが、顔に浮かんでいるその笑顔は、やりきった、ということを物語っているように思えた。

そういえば、とラウラがリィンのほうへ視線を向けて問いかけた。

 

「リィン、先ほどの技は?」

「あぁ……いままで未完成だったんだけど、昨夜のルオンとの手合わせでどうにかものにできたみたいだ」

「そうか。なら、殴り飛ばした甲斐があったか?」

「ははは……できれば二度とごめんだけどな」

 

そんな冗談を言い合っていると、動くな、という声が響いてきた。

声のした方へ視線を向けると、そこには銃口をこちらに向けている領邦軍の姿が目に入った。

 

「おいおい……どうあっても、恥をかきたいらしいな、クロイツェン州の領主殿は」

「ちょっ?!ど、どういうことよ!!」

「囲うべき相手を間違えてはいないか?」

「黙れ!貴様らが窃盗犯を手引きしたという可能性もあるだろう!」

「何を根拠に!」

「……はぁ……」

 

そんなことだろうと思った、と言わんばかりに、ルオンはため息をつき、長脇差に手をかけた。

 

「てめぇら、銃口向けるってんなら、相応の覚悟はできてんだろうな?撃っていいのは討たれる覚悟があるやつだけだぞ?」

 

ぞわ、とリィンたちは背筋が凍る感覚がした。

それは領邦軍も同じことのようで、数名、顔を蒼くしているものがいた。

ちゃきり、とルオンの長脇差から乾いた音が響いた。

いつでも抜刀でき(抜け)る。

その姿勢へ移った、その時だった。

 

「そこまでですっ!」

 

凛とした澄んだ声が森に響いた。

声がした方へ視線を向けると、導力銃を構えた灰色の制服に身を包んだ軍警たちが駆け寄ってきていた。

彼らの制服を見て、ルオンが放っていた殺気を鎮めると水色の髪をした女性が前に出てきた。

その女性に、領邦軍は驚きの声を隠せなかった。

 

 

鉄道憲兵隊(T.M.P)?!」

氷の乙女(アイス・メイデン)?!」

「鉄血の子飼いがなぜここに?」

「……鉄道憲兵隊は鉄道網の中継地点において発生した事件の捜査権を有する、か」

 

ルオンの呟きにアイス・メイデンと呼ばれた女性は感情を一切見せない、まさに氷のように冷たい瞳のまま、口を開いた。

 

「えぇ……それと、元締めの方たちをはじめ、関係者の証言から、こちらの学生たちが犯人である可能性はあり得ません」

 

何か異論は。

その問いかけにぐうの音も出なかった領邦軍はケルディックへと撤退を始めた。

去り際、悔し紛れにその女性に向かって。

 

「鉄血の狗め」

 

と侮蔑の言葉を投げかけて。

しかし、彼女はそんな言葉をまったく気にすることなく、部下たちに窃盗犯の拘束を指示した。

そんな中、女性はルオンに視線を向け、少しばかり驚いたような表情を浮かべた。

 

「あなたは……」

「ご無沙汰です、クレア・リーヴェルト大尉。半年ぶりぐらいですかね?」

「えぇ……お元気なようで」

「そちらも相変わらずのようで……正直、あんましいい気はしないけど」

 

呆れたような表情を浮かべながら、ルオンは女性――クレアにそう返した。

 

「あ、あの……」

「ふふ、申し遅れました。私は帝都鉄道憲兵隊所属、クレア・リーヴェルト大尉です。今回の件、お疲れ様でした」

 

先ほどの氷のような冷たい印象を抱かせる表情とは正反対の、可憐な微笑みを向けながら、クレアはリィンたちにそう名乗った。

なお、その笑顔に見惚れてしまったリィンは、アリサに背中をつねられたそうな。

 

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その後、リィンたちは鉄道憲兵隊の駐在所で、調書作成のための事情聴取を行い、駆け付けたサラと共にトリスタ行きの列車に乗り、ケルディックを後にした。

なお、その車内でサラは眠りこけていた。

 

「ほんと、よく寝るわね、サラ教官」

「まぁ、パルムからこっちまでかなり急いで来たみたいだしな」

「疲れるのも当然、か……」

 

加えるなら、ユーシスとマキアスのいがみ合いの仲裁にかなり手間取ったこともあるのだろう。

そのことを思うと、むしろ労いの言葉の方が出てきそうだった。

 

「ところで、ルオン。クレア大尉と知り合いのような感じだったけど?」

「ん?あぁ……サr……………………教官と同じタイミングで遭遇した感じかな。ちょっといざこざがあって衝突したんだけどな」

「いま、教官のこと呼び捨てにしようとしてなかった?」

「少なくとも、教官呼びしようとは思わなかったな。長い間の癖だ」

 

アリサの問いかけに、苦笑交じりにそう返した。

 

「……………………なぁ、ルオン。そろそろ話してくれないか?」

「ん?」

「君はいったい、何者なんだ?」

 

今後衝突する可能性も覚悟の上なのか、リィンが唐突にそう問いかけてきた。

だが、ルオンはまったく気にする様子もなく、あっけらかんとした態度で返してきた。

 

「元・準遊撃士だ……指導教官はサラ教官じゃなかったが、仕事で何度か顔合わせしたことがある」

「そうだったのか……」

「けど、だったらあの強さと機転の早さもちょっと納得かな?」

 

実際、アルゼイド流中伝を持つラウラを除けば、ルオンはおそらくⅦ組のメンバーの中でも高い戦闘力を有している。

 

「ということは、もしや今回の実習の意図も?」

「ある程度は理解していた、かな?……………………まぁ、俺個人から言わせれば俺らに遊撃士の代理をさせているようにしか思えなかったけどな」

 

ルオンとて、この実習の狙いは理解しているつもりだ。

《ARCUS》の運用テストはもちろんのこと、様々な経験を積ませること、それが主目的だということを。

だが、そのために遊撃士の真似事をさせている、というのが少しばかり気に入らなかった。

もっとも、気に入らないが嫌いではない、ということも事実なのだが。

 

「……………………で?リィン。俺は答えたぞ?」

「え?」

「等価交換だ。俺のことを少し話したんだ、切り出したお前さんのことも、少し話してもらうぞ?」

 

無理に聞き出すつもりは、ルオンもない。

だが、義理堅いリィンのことだから、こうでも言わないと踏ん切りがつかないだろう、と思っての言葉だった。

その予想は正しかったらしく。

 

「そうだな……みんなに、話しておきたいことがある」

 

そう切り出して、リィンは自分が抱えている秘密を打ち明け始めた。

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