さぁて、次はどっちにするかなぁ……(無計画)
「みんなに、話しておきたいことがある……思えば、みんなには不義理をしていたと思う」
ルオンが元準遊撃士であることを打ち明けると、リィンも自分の中で踏ん切りをつけたらしい。
自身の抱えているものを、ようやく口にするつもりのようだ。
「温泉郷ユミル。シュバルツァー男爵家が治める地であり、俺の実家にあたる場所だ」
「つまり、リィンは貴族の御曹司ってこと?」
「いや……俺は養子なんだ。だから、本来の意味で"貴族"というわけじゃない」
「あぁ……そういや噂で聞いたな」
リィンの言葉に、ルオンがつぶやくように口を開いた。
シュバルツァー男爵の噂。それはやはり、リィンに絡むことだった。
曰く、不義の子。曰く、浮浪児を養子にする変り者。
そんな根も葉もない噂が原因で、シュバルツァー男爵は社交界から姿を消しており、現在ではほとんどの貴族との交流を絶っているという話だ。
「ったく、ほんとに足を引っ張り合うことしかできねぇのかっての……シュバルツァー男爵の懐の深さのほうを評価すべきだろうによぉ」
「うむ。それは父上もおっしゃっていたな」
ルオンの言葉に、ラウラは腕を組み、うなずいていた。
どうやら、アルゼイド子爵もラウラモ、子爵の位を得ている貴族としてというより、アルゼイド流を修めている門下の人間としての意識が強いらしい。
その証拠に、シュバルツァー男爵を、良い御仁ではないか、と評価していた。
「しかし、なぜ今になって?」
「なにか、事情があったんじゃ……」
「いや、そんなに大した事情じゃないさ。けど、黙っていられなくなったんだ」
ラウラとアリサの問いかけに、リィンは笑みを浮かべてそう返した。
どうやら、今後、長い時間を一緒に過ごしていくことになるⅦ組のメンバーには、知っておいてほしいと思ったのだろう。
その言葉を聞き、その言葉を口にするリィンの瞳を見て、ルオンは、彼から一切の迷いがないことを感じ取り、敢えて問いかけてみた。
「そうか……肚をくくったわけだ」
「あぁ」
ルオンの言葉に、リィンは静かにうなずいた。
その瞳に、嘘の色は見られなかった。
どうやら、本当に周囲から何かを言われることを覚悟で自分の事情を話してようだ。
これ以上、何も聞くことはない。
まるでそう言っているかのように、ルオンは静かに、そうか、と返すだけだった。
「もっとも、どこかの誰かはまだ全部を話してくれるつもりはないみたいだけどね~?」
「何のことかな?」
「白々しい……少しはリィンの胆力を見習ったらどうだ?」
リィンが自分の過去を、身分について話す決意をした一方で、いまだ過去を語るつもりがないことが明白に見て取れたルオンにむかって、エリオットとラウラはからかうようにそう語りかけてきた。
とはいえ、自分の過去は伝承という形で伝えられている、世界の真実の一端に関わっているため、語るつもりがない、いや、不用意に語ることができないということも事実なのだが。
二人の追及を飄々と回避しているルオンに、リィンが苦笑を浮かべていると、不意に、アリサが語りかけてきた。
「リィン、あなたの覚悟、立派だと思うわ。けれど、これだけは覚えておいて」
「……え?」
アリサの言葉に、リィンは驚いたように目を丸くした。
だが、構うことなく、アリサは自分の想いを、リィンに告げた。
「たとえ、生まれがどうであっても、あなたはあなたよ、それは誇りに思っていいことだと、わたしは思うわ」
「あぁ……ありがとう、アリサ」
アリサのその言葉に、リィンは微笑みながらそう返した。
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リィンたちが乗車している、トリスタ行きの列車。
その列車と路線を見ることが出来る高台に、二人の人影があった。
一人は、メガネをかけた学者風の男。もう一人は、黒いマントを羽織り、フルフェイスのヘルメットをかぶっている。
「やれやれ……まさか、あのタイミングで《
黒マントの男が学者風の男にそう話すと、学者風の男は、想定の範囲内だ、と返してきた。
どうやら、彼らが今回のケルディックの騒動を引き起こした"黒幕"のようだ。
学者風の男は、それに、と前置きして続けた。
「《鉄道憲兵隊》と《情報局》、その連携パターンが見えただけでも、大きな成果といえるだろう」
「ふふ、確かに……それではこのまま、《計画》を進めるとしようか」
「あぁ、もちろんだ」
黒マントの男の言葉に、学者風の男は頷いて返した。
その瞳には、誰かに対する激しい憎悪と怒りの感情が見て取れた。
「すべては、"あの男"に無慈悲なる鉄槌を下すため……」
「すべては、"あの男"の野望を完膚なきまでに打ち砕かんために……!!」
まるで秘密結社の合言葉であるかのように、学者風の男と黒マントの男はその言葉を口にした。
帝国の水面下、目には見えないところで何か巨大な陰謀が渦巻いている。
だが、リィンたちはその陰謀を知ることはなかった。
そして、知らず知らずのうちに、その陰謀の渦中へと身を投じていくということにも。
占いを得意とするルオンですら、そのことを知るのは、まだしばらく先のこと。