星の軌跡   作:風森斗真

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学院の日常(5月)
夜の語らい~幼馴染のティータイム~


特別実習から帰還して数日。

Ⅶ組の面々は変わらずにあわただしく日常を過ごしていた。

とはいえ、一か月もすれば慣れてくるもので、その生活に若干の余裕がでてくるようになっていた。 

そんなある時の夜。

ルオンは寮のキッチンでお湯を沸かしていた。

その傍らには、乾燥させたハーブが入った瓶がいくつかと、ティーセットが置かれていた。

どうやら、少し遅めのティータイムのつもりのようだ。

 

「レモングラスにレモンマートル、レモンバーム、レモンバーベナを大さじ一杯ずつ。そこにペパーミントとエリンの花を少々……こんなもんかな?」

 

ぶつぶつとレシピをつぶやきながら、ルオンはハーブを空いている瓶に詰めていき、しゃかしゃかと中身が均一になるように混ぜていった。

ある程度するとお湯が沸き、ルオンはやかんを手に取り、空のティーポットとティーカップに少量のお湯を注ぎ入れた。

一分ほどしたらお湯を捨て、代わりに先ほどブレンドしたハーブをポットに詰め、再びお湯を注いだ。

 

「お待たせ、エマ」

「それほど待ってないわ……ふふ、いい香り……なんだか心が落ち着く」

「シトラスの香りがするものだけじゃなくて、ペパーミントとエリンの花も使ってるからな。きっとその作用だろ」

 

ペパーミントやエリンの花と呼ばれるハーブだけでなく、レモングラスやレモンマートル、レモンバーム、レモンバーベナには鎮静作用があり、ストレスの軽減には最適なハーブばかりが使用されている。

おそらく、それらの香りがエマの心を和ませているのだろう。

ポットのお茶をカップに注ぎ、片方をエマに渡すと、エマはお礼を言って、カップに注がれたハーブティーの香りを楽しんだ。

そのほっこりとした表情に、思わず笑みを浮かべたルオンだった。

もっとも、エマはその和やかな微笑みに気付くことなく、ハーブティーを口元に運び、その味を楽しんでいた。

 

「……おいしい……」

「……やっぱり、前回の実習、きつかったか?」

「きつい、ってものじゃないわ……もう最悪だった……」

 

普段の丁寧な言葉づかいではなく、年相応の砕けた言葉遣いで、エマはルオンの問いかけに答えた。

 

「マキアスさんとユーシスさん、何かあればそれだけで喧嘩に発展しそうだったし、貴族が絡めばマキアスさんが理不尽に怒ってユーシスさんが火に油注ぐし、フィーちゃんもそこに火薬を投げ込むようなこと言うし……」

「うへぇ……ガイウスしかフォローしてくれる奴、いなかったんじゃないか?よく一日もったな」

「ほんともう、ギリギリだったわ……ちょっと教官に文句言いたくなったくらいよ」

「言ったれ言ったれ……流されるだろうけど」

「…………やっぱりそう思う?…………」

 

陰鬱なため息をつきながら、エマはカップに残ったお茶を飲み干した。

そのタイミングを見て、ルオンはお代わりのお茶をエマのカップに注ぎ入れた。

 

「あの人、やり手なんだけどその分、普段がだらしないというか……」

「…………なんというか、普段からだらしないような…………」

「やり手だってところを見せるのが嫌なんだろ、たぶん。なんか、『ミステリアスなお姉さん』って印象付けたいみたいだし」

 

実際のところ、その印象よりも、やるときはやるけどぐーたらな教官、という印象のほうが強い。

そのため、ルオンの言葉にエマは反応に困ってしまっていた。

とはいえ、とルオンは半ば無理やり、話題を変えてきた。

 

「次の実習でちょっとは変化があればいいんだけどな」

「えぇ……少なくとも、マキアスさんとリィンさんの溝が埋まれば……」

 

そう言って、二人同時にため息をついた。

最初の実習から戻ってきたあと、リィンは自分の身分を他のメンバーにも明らかにした。

その結果、はぐらかされていたことに対して怒ったマキアスが、今度はリィンに対してもほかの貴族たちと同じような態度をとるようになってしまったのだ。

隠し事をされていた、ということに対してマキアスが怒るのは理解できるが、なぜ隠そうとしたのか、そのことを読み解きもしないで怒りをまき散らすだけの理不尽に、ルオンは少しばかり苛立ちを覚えていた。

 

「ったく、あたりかまわず喧嘩売るようなまねしやがって……あいつ、そのうち敵しかいなくなるんじゃないか?」

「そんなことはないと思うけど……」

 

ルオンの言葉に、エマは苦笑を浮かべた。

確かに、マキアスはどこか対抗意識が強い傾向がある。成績が平民であるエマに対しても、自分より成績がいい、ということで対抗意識を燃やしているようだ。

もっとも、そちらのほうは貴族に対する恨みつらみからの感情のようなものではないため、エマもあまり気にしてはいないのだが。

 

「俺としてもそうならないことを祈るよ……貴族にせよ平民にせよ、所詮は人間なんだ。終わるときってのは、あっけないもんなんだからさ」

 

何かを思い出したのか、ルオンはそう言いながら、自分のカップに入ったお茶を飲みほした。

そこにあったルオンの表情に、エマはどこかやり切れない想いを抱いていた。

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