星の軌跡   作:風森斗真

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自由行動日ではあるんですが、内容は完全にオリジナルです


自由行動日~1.部活と買い物のあとのティータイム~

自由行動日となり、ルオンとエマは文芸部の部室にいた。

もっとも、読書や創作活動に集中できていたかといえば、そうではない。

なにせ、この部の先輩であるドロテは、いわゆる「御腐人(ごふじん)」に分類される女性なわけで、耽美の世界へ二人をいざなおうと妙な方向へ努力をしているのだ。

 

「それで、ルオンくんとリィンくんは手合わせをして、そのあとは?」

「二、三、説教して終わりましたけど」

「ほうほう!ちなみにどんなことを……」

 

どうやら、特別実習のときの話が気になり、ルオンに取材をしたいと迫ってきた。

しかたなく、ルオンが取材に応じていると、エマが突然、ルオンに問いかけてきた。

 

「……………………え?ちょっと待って、ルオン。わたし、その話、聞いてないですけれど?」

「そら話す必要なかったし……って、なんで怒ってんの?!」

「怒りもするわよ!!なんでまたそんなことを!!」

「い、いやしかし……」

「しかしもかかしもありません!!」

 

どうやら、真夜中にリィンと手合わせしたことに驚いてしまったらしい。

もっとも、驚きは心配へと変わり、そのまま、多少とはいえ、無理をしたルオンへのお説教が始まってしまった。

なお、蚊帳の外になってしまったドロテは。

 

「あの~……取材は……?」

 

自分の目的であった取材がすっかり忘れられてしまい、一人だけ呆然とするのだった。

 

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その後、お説教を終わらせたエマは、ルオンとともにトリスタの町に出て、買い物をしていた。

もっとも、立ち寄っているのはファッション関連の店や工房の類ではなく、食品関連の店だった。

 

「えっと、あとは卵と野菜か」

「えぇ……あ、そろそろ魚を使った料理もやってみたいかも」

「魚かぁ……買うより釣った方が早いかな?」

「早い、というより、新鮮で安い、の間違いじゃない?」

 

買い物をしながら、まるで夫婦のようなやり取りをしていると、二人の耳に聞きなれた声が響いてきた。

 

「……から、それは……」

「……っきから……だって……」

「この声、リィンとアリサ?」

「みたいね……どうしたのかしら?」

 

何やら言い争いをしているような雰囲気を微かに感じ取った二人は、声がしている入口の方へとむかっていった。

そこにはやはり、リィンとアリサが一緒にいた。

 

「でも、今日の今日っていうのはどうなんだろうな?」

「そうは言うけど、いつまでもルオンとエマに頼り切りなんてことはできないでしょ?」

「まぁ、それはそうだけど」

 

どうやら、食事の当番についての話し合いをしていたらしい。

Ⅶ組の朝食と夕食は、現在のところ、家事全般をある程度こなすことができるルオンと家庭的なエマの二人だけで担当している状況だ。

むろん、全員、家事が出来ないというわけではないが、どうしても勉強のほうへシフトしてしまうため、あまり手伝えないでいた。

そのことを、リィンとアリサだけでなく、フィーを除くほぼ全員が申し訳なく思っているらしい。

特別カリキュラムである実習も終えて、大体の生活ペースをつかむことができたため、そろそろ手伝いをしてもいいのではないか、という発想が二人に生まれたのだろう。

だが、いつから手伝いを始めるか、そのタイミングで議論を交わしているらしい。

もっとも、議論といってもさほど激しいものではないのだが。

 

「よ、ご両人。デートか?」

「…………それ、お前にそのままブーメランだぞ?ルオン」

「で、デデデデデデデートって!そ、そんなんじゃないわよ!!」

「あ、アリサさん、動揺しすぎです……」

 

ルオンの冗談に、リィンは半眼で返し、アリサは顔面を真っ赤にして否定してきた。

その様子に、エマはリィンがルオンに返した、ブーメランという単語に、顔を赤くしながら返した。

とはいえ、女子二人はまんざらでもない様子であったのだが。

 

閑話休題(それはともかく)

 

「で?どうしたんだよ、ほんとに」

「あぁ、冷蔵庫の中身でそろそろ切れそうなものを買い足ししておこうって話をアリサとしていてさ」

「で、話しているうちに食事の当番の話題になった、と?」

「まぁ、そんなところだ」

「別に気にする必要、ないと思うんだがな?」

 

ルオンはリィンの言葉に肩をすくめた。

だが、そうなったのはリィンとアリサ、二人の気遣いからであることは重々承知しているため、それ以上は何も言うことはなかった。

 

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その後、リィンとアリサは生徒会に寄せられた依頼をこなすため、その場を離れ、ルオンとエマは買い足した食材を保管するため、一度、寮に戻ることにした。

冷蔵庫に食材を詰め終わり、ティータイムにしようか、と考えたその時だった。

寮の扉が開き、リィンとアリサの声が聞こえてきた。

 

「……なぁんか、あの二人、いつにもまして二人で行動することが増えてないか?」

「うふふ、アリサさん、リィンさんのことずっと気にかけてましたし」

「やっぱりか……くっつきゃいいのに」

 

そうつぶやいた瞬間、お前が言うな、とマキアスとユーシスの声が同時に聞こえたような気がしたが、気のせいとして気にしないことにしたルオンは、追加で二人分のティーカップを用意した。

ティーセットをリビングまで持ってくると、エマが何やらリィンに謝罪している光景が目に入った。

 

「どうしたんだ、エマ?リィンになんかしたのか??」

「い、いえ、わたしじゃなくて……セリーヌが……」

「あぁ……なでくりまわしたら引っかかれた?」

「みたいです」

 

ルオンが口にした予想に、エマは苦笑を浮かべながらそう返してきた。

その反応に、リィンは少し驚いたように目を丸くした。

 

「エマもルオンも、あの猫のこと知ってるのか?」

「俺はエマを経由して、だけどな。ちょっとした知り合いさ」

 

リィンの問いかけにそう返し、ルオンはリィンとアリサの前にブレンドしたハーブティーを注ぎ入れたティーカップを置いた。

その間に、エマは持ってきた救急箱でリィンの治療を行った。

治療といっても、消毒と絆創膏で傷口をカバーする簡単な応急処置程度のものなので、すぐに終了した。

治療を終わらせたエマが救急箱を元の場所に置いて戻ってくる間に、ルオンはエマの席にお茶を注ぎ入れたティーカップを置き、最後に自分の分のカップにお茶を注ぎ入れた。

 

「いい香りがすると思ったら……ハーブティー?」

「あぁ。俺がブレンドした」

「へぇ……てっきり委員長かと思ったけど」

 

意外、と言わんばかりの感想に、エマは微笑みをうかべた。

 

「わたしも時々淹れますよ?ルオンのものにはかないませんが」

「俺からすれば、エマのほうがうまいけどな」

「そんなことないわ。わたしなんて、おばあちゃんと比べたらまだまだだもの」

「……いや、ばあちゃんと比べるってのはさすがにどうなんだ?」

 

互いに互いが淹れたハーブティーを称賛しているその姿に、リィンとアリサは思わず、自分たちはもしかして邪魔なのではないか、という疑問を抱くのだった。


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