大型魔獣の消滅を確認したリィンたちは武器を収め、周囲を見渡した。
だが、特に何かが出現するような様子もなく、これ以上、ここにいても無駄と判断し、地上へ戻ることにした。
その道中。
「ルオン、大丈夫?」
「あぁ、エリオットに回復してもらったからな」
エマが心配そうにルオンに声をかけ、ルオンはその心配を吹き飛ばすように笑みを浮かべながら返した。
自分をかばったことで負わなくていい傷を負わせてしまったことに、少なからず罪悪感を抱いているらしい。
「……ごめんなさい、わたしがあのとき、もっと早く反応できていれば」
「そうでなくても、俺はエマを庇ってた」
近くにいたから、というわけではなく、仮に前衛としてリィンたちと同じ場所にいたとしても、エマが襲われることがわかっていて庇わないという選択肢は、ルオンにはない。
「ですが!」
「……はぁ……まったく……」
それでもなお納得できないエマに、呆れたようなため息をついた。
「エマ、俺はお前が傷つくのを黙って見てるつもりはないし、お前を庇って怪我したとしても後悔はしないし、するつもりもない」
「でも……」
「自分のせいで誰かが傷ついてほしくないっていうのはわかってる。けどさ、俺だってエマに傷ついてほしくない」
「それは……わかるけれど……」
「エマを傷つけないために守りたいって思うのは、俺の意思だ。蔑ろにしないでくれよ」
そう言われてしまうと、エマは弱かった。
実のところ、ルオンは結構な頑固者であり、一度、自分が決めたことにはとことんこだわる傾向がある。
特に、エマや里の人々を守ることに関しては頑なであり、エマや長から何を言われても譲るつもりはまったくないといっても過言ではない。
それを嫌というほどわかっているエマは、あきらめたようにため息をつき。
「わかりました、これ以上は何も言わない……けど、無理はしないで」
「あぁ。約束だ」
エマを安心させるかのように柔らかな笑みを浮かべながら、ルオンはそう返した。
その言葉に、ようやくエマも落ち着いたらしく、安堵したような表情を浮かべた。
なお、その様子を前方で聞いていたリィンたちは、温かな笑みを浮かべていたのだが、それを二人が知ることはなかった。
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その後、学院長への報告を終え、自由解散した一行だったが、ルオンとエマは再び旧校舎前へと来ていた。
「……セリーヌ」
「ヤタ」
周囲に誰もいないことを確認すると、二人は同時に何かに呼びかけた。
すると、旧校舎の茂みの方からは青いリボンを身に付けた黒猫が、屋根からは烏が二人の元へとやってきて、セリーヌはエマの足元に、ヤタはルオンの肩に止まった。
「……やれやれね。まさかここにも霊窟まがいのものがあるなんて」
「この地は帝都にほど近いゆえ、
突然、セリーヌとヤタが視線を交わしたかと思うと、ルオンとエマの耳にそんな会話が聞こえてきた。
驚くべきことに、その声はセリーヌとヤタの口から出ていた。
だが、ルオンもエマも驚くことなく、一匹と一羽に語り掛けた。
「セリーヌ、おばあ様からは何か聞いてない?地下の構造が変化する遺跡なんて、聞いたことがないわ」
「さぁね。けれど、ここが『試練の場』であることは間違いないわ。そしておそらく……」
「エマが導くべきもの……『騎神』の乗り手、か」
「おそらく、あの黒髪の青年だろう」
「リィン、か……確かに、あいつは普通とは違う"色"があったな……それこそ、俺やエマより、ばあ様に近い感じだった」
ルオンが言う"色"というのは、気や魔力の色を指している。
普通ならば白や青、人によっては黒や紫に見えるのだが、リィンのそれは赤黒く見えたのだという。
もっとも、普段のリィンからは、その力の一端すら見せたことがないため、まだなんとも言えないというのが現状だ。
「……いずれにしても、今は見守るほかない、か」
「そうね……それから、エマ、ルオン。あいつにしっかり言っておいて」
「え?……あ、そういえば、セリーヌ!あなた、リィンさんをひっかいたって……」
「あいつがあんまりにもデリカシーがないからよっ!!」
「……いったい、何されたんだ?お前……いや、聞かないけど」
セリーヌが毛を逆立てて怒っている様子に、ルオンは思わず苦笑を浮かべながら、リィンがセリーヌに何をしたのか、すこし興味が沸いた。
もっとも、デリカシーがない、と言われるほどなのだから、聞いた瞬間、こちらにも飛び火することは目に見えていたので、聞くことはしなかったが。