星の軌跡   作:風森斗真

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謹んで新年お慶び申し上げます。
本年もよろしくお願い申し上げます。
2015年、初の投稿になります。


特別オリエンテーリング~ハプニングは落とし穴の下で~

女性教官の後ろに続き、学院内をしばらく歩くと、古めかしい、いかにも「出そう」な雰囲気を醸し出している建物――旧校舎の前まで来た。

 

「……いかにもって感じだね……」

「こういうところって、「出る」ことが多いんだよな」

 

前方にいた赤毛の少年とルオンがほぼ同時に、同じような感想をつぶやいた。それを聞いていたエマとリィンは、ただただ乾いた微苦笑を浮かべていた。

女性教官が扉を開け、中へ入っていくと、後ろに続いていた同輩たちも次々に中へと入って行った。

ルオンも動こうかと思った瞬間、背後から視線を感じ、思わず振り向いた。しかし、そこにあったのは岩肌だけで、特に人影やそういった類(人外の存在)は感知できなかった。

 

――……気のせいか?

 

感じ取った気配を、自分の気のせいと言うことで処理し、ルオンは旧校舎の中へと入って行った。

ルオンより少し後ろの方を歩いていた銀髪の少女も、同じ反応を示したが、面倒くさい、とでも言いたげな表情を浮かべ、旧校舎の中へと入って行った。

 

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旧校舎の内部へと入った十人の生徒たちは、ホールと思われる場所で、これから何が始まるのかという若干の不安に駆られながら、女性教官の指示を待っていた。

全員が旧校舎へ入ると、数分としないうちに、先ほどの女性教官の声が聞こえてきた。

 

「は~い、注目!!」

全員が声のした方へ視線をやると、桃色の髪をした美女が立っていた。

 

「今日から、あななたち《Ⅶ組》の担当教官を務めることになった、サラ・バレスタインよ。よろしくね」

 

ぱちり、と片目をつむって挨拶をするが、生徒たちの困惑が消えることはなかった。

いや、むしろこの行為のせいで胡散臭さが割り増ししたようだった。

場が和まなかったことに不満を覚えたのか、女性教官は、ノリが悪いわね~、とぶつくさと文句を言っていた。

が、エマはサラの言葉に気になる点を見つけたようで、おずおずと問いかけた。

 

「あ、あの教官……トールズ士官学院は平民と貴族の身分により、五つのクラスに分けられているはずです。Ⅶ組、というのは……」

「あら、いい点に気づいたわね……さすが、学年主席。よく調べてるわね。実は今年から新たにもう一クラス、設けることになったのよ。すなわち、身分に関係なく選ばれた(・・・・・・・・・・・)君たち、"特科クラスⅦ組"が、ね」

「冗談じゃない!!」

 

サラの回答に、怒鳴り声が響いてきた。

その声が聞こえた方向へ目をやると、緑の髪をした青年が、その眼鏡の奥に激しい怒りをたたえながら、サラをにらみつけていた。

 

「"身分に関係ない"?!聞いていませんよ、そんなこと!!」

「あら?ご不満かしら……えっと、君は」

「マキアス・レーグニッツです!そんなことより、"貴族風情"とやっていけというのですか?!」

 

エレボニア帝国には身分制度が敷かれている。

それゆえに、エレボニア国民は平民と貴族、そして皇族の三つの身分に分類される。もっとも、皇族はアルノール家のみであるため、国民の大半は貴族か平民かのどちらかだ。

そして、身分差ゆえに平民と貴族は互いに反目し合うことが多く、政治の世界では対立することも少なくない。いや、ここ最近は平民が政治に参加できるようになったことから、その対立はますます激しくなっており、一部の地域では、水面下で平民と貴族の対立が起きている。

それは、ルオンが長い間、旅する中で見てきたことだ。

 

――なるほど、マキアスは"革新派"の意見に賛成なわけだ……まぁ、レーグニッツ帝都知事の関係者だろうから、当然と言えば当然だろうけど

 

マキアスの過剰な反応に、ルオンはどこか冷めた視線を送っていた。

ルオンも、"貴族"という人間をあまり好ましく思っていないので、マキアスの怒りはわかるつもりだ。だが、貴族の中には人情味あふれる人間が少なからずいることもまた事実だ。実際、ルオンは放浪する中で、何度かそういった貴族たちに助けてもらっていた。

それゆえに。

 

「……そうカリカリしなさんな」

「なっ……別にカリカリなんて」

「してるだろ、実際。貴族嫌いなのはよくわかったけど、あまり表だってそういうこと主張してると、今後やりにくくなるぞ。マキアス」

 

いつの間に取り出したのだろうか、両端に金属のパイプのようなものが取り付けられた短い棒を口にくわえ、ルオンはそっとため息交じりにさらに語った。

 

「お前さんが貴族を嫌っている理由は知らない。けどな、貴族とて人間。笑いもすれば怒りもする。食事をとるし、眠りもする。何より、やがて老いて死んでいく。その点で、平民と何ら変わりはなんさ」

「……言わせておけば!!」

 

ルオンは旅をする中で身に着けた、いや、思い知らされた事実を淡々と口にした。しかし、マキアスはそれが気に入らなかったようで、怒りだけでなく殺気をその眼に込めながら、ルオンにじりじりと近づいていった。

 

「はいはい、そこまで!!文句はあとで受け付けるから、さっさと"特別オリエンテーリング"を始めさせてもらうわよ」

 

流血沙汰になることを避けるためか、それとも単にさっさと職務を終わらせたいがためなのか。

サラはいかにも「面倒くさい」と言いたげな表情を浮かべながら、マキアスにそう告げた。

その言葉に、マキアスはしぶしぶといった様子で従い、ルオンから距離をとった。

 

「オリエンテーリング、って何をするんですか?」

「そういう野外競技があるというのは聞いたことがありますが」

 

サラの言った、特別オリエンテーリングという言葉に疑問を覚えた金髪の少女とエマが口々にそう問いかけた。

一方で、リィンは目を閉じ、ふと思いついたことをサラに問い詰めた。

 

「……もしかして、校門で預けたものと何か関係が?」

「あら、勘が鋭くて助かるわ」

 

リィンの質問が的を射ていたのか、サラは上機嫌な様子でステージの奥へと進んでいった。

 

「それじゃ、始めましょう」

 

そういって、ステージの柱に取り付けられていたレバーに手をかけ、思いっきり下におろした。

すると、ルオンたちが立っていた足もとが急に傾いた。

当然、あまりに唐突な出来事に冷静な対応ができるわけもなく、多くの生徒は悲鳴を上げながら落とし穴の中へと落ちていった。

むろん、エマとルオンも例外ではなかったのだが。

 

「きゃっ?!」

「エマ!つかまれ!!」

 

落ちる寸前、ルオンはエマを抱きよせ、思い切り床を蹴った。

その瞬間、ルオンの体に風がまとわりつき、ルオンと抱き寄せられているエマを宙に浮かせた。

着地しながら下を確認すると、リィンが金髪の少女をかばうつもりだったのだろうか、床を蹴り、少女に飛び掛かっていく様子が目に入った。

 

「……相変わらず、訳の分からない術を使うわね。ルオン」

「いやいや、相変わらずなのはあなたの方でしょう……ご無沙汰してます」

「ほんと、久しぶりね。フィーを引き取る以前だから、三年ぶりくらいかしら?」

「そのくらいですね」

 

ルオンはエマを抱き寄せていた手を離し、サラと他愛ない会話を始めた。

その様子に少し困惑したエマは、恐る恐るといった様子でルオンに問いかけた。

 

「……え、えっと……ルオン、サラ教官とお知り合いだったの?」

「あぁ……村を出て、一年くらいした時だったかな?喰うのに困ってたところを拾われた。それからの縁だな」

「あのときはかなりびっくりしたけどね~。飢えた野獣のような目で魔獣と戦ってたうえに、助太刀に入ったら逆に襲いかかってきて……」

 

昔を懐かしむかのように、遠い目をしながらサラはそう話した。

その言葉に苦い微笑みを浮かべながら、ルオンもまた反論を始めた。

 

「……いや、実はあれ、食べるつもりだったんですよね。多少の毒なら、自分で何とかできましたから……それにあの時は一週間絶食状態だったので」

「あぁ、そういえばそんなこと言ってたわね……って、こんなところで時間潰してる場合じゃなかった。ルオン、エマ。あんたたちもはやくオリエンテーリングに参加しなさい。一応、けががしないように配慮はしてあるから、そのまま下りても大丈夫よ」

「……了解。んじゃ、つもる話はまた後ほど……行こうか、エマ」

「え、えぇ」

 

そういって、ルオンはエマとともに落とし穴に飛び込んでいった。

飛び込んだ、といっても、スロープのようになっている床を滑りながら、ゆっくりと降りて行ったのだが。

ルオンとエマが予定通り、落とし穴を下りていったのを確認したサラは、もう一人、落とし穴から脱出していた銀髪の少女、フィーの名を呼んだ。

その手にはナイフが握られており、先ほどからワイヤーにぶら下がっているフィーに、貴方も参加するの、といって、手にしていたナイフを投げつけ、ワイヤーを断ち切った。

 

「……めんどうくさいな……」

 

ワイヤーが切断され、フィーは本当に面倒くさそうにつぶやきながら、落とし穴の中へと落ちていった。

 

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「よっと……到着だな」

「そ、そうみたい、ね……」

「あ、すまん……軽率だったな」

 

落とし穴のスロープから下りてきたルオンは、地面に触れた感覚を足で感じ取ると、無事に着地できたと確信し、いつの間にか握っていたエマの手を離した。

幼いころの馴染みとはいえ、あまり長い間、異性に体を触られることは、精神衛生上、あまり好ましくないだろうという配慮からだった。

その予想は半分正しく、エマはほんの少し距離を取った。その顔は、少し場から赤くなっていた。

もっとも、もう半分は、不正解だったようだが。

 

「い、いえ……」

 

もっと甘えたくなってしまった、と言いかけて、エマは黙ってしまった。

自分の故郷には、同い年の友人が少なく、また、村の外に出れば、その出自ゆえに奇異な視線を向けられてきた。だが、村の外から来たルオンだけが唯一、同年代の人間の中で、エマを、エマ・ミルスティン本人として接してくれていた。

 

だからこそ、彼が黙って村を出ていったときは、一週間ほど、悲しみのあまりやることなすことすべてが空回りしていた。

けれども、こうして再会して、変わらない態度で接してもらえたことがうれしくて。ついつい、そんなことを思ってしまった。

 

一方のルオンは、そうか、とだけつぶやき、周囲に倒れている生徒たちの様子を眺めた。

一見するところ、外相の類はないようだったので、別に風をまとって飛ぶ必要はなかったのではないだろうか、と思ってしまった。

本当に安全には配慮されてたのか、とどこか感心していると、赤毛の少年が気が付いたらしく、顔をしかめながら起き上ってきた。

その少年を筆頭に、生徒たちは次々に立ち上がり始めた。

もっとも、一組を除いて。

 

「いたたた……もぅ、いったいなん……」

――こ、これは……

 

ルオンが目にした光景は、リィンがあおむけになって金髪の少女の下敷きになっていた、というものだ。それだけならば、まだいいだろう。問題なのは、かばわれている少女がうつ伏せであったということと、リィンの顔が少女の胸にうずもれていた、という二点だった。

 

「……リィンのやつ、今日は厄日だな……」

「あ……あはは……」

 

ルオンのそんなつぶやきにエマは乾いた笑みを浮かべながら、リィンが少女のほほを叩く、非常にいい音を聞くのであった。 

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