星の軌跡   作:風森斗真

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実習初日 2、"白亜の都"

アリサをからかい、エリオットにからかわれながら、ルオンはB班のメンバーとともにセントアーク行きの列車に揺られていた。

その車中で、ルオンたちはセントアークについてのおさらいをしたり、ブレードに興じたり、世間話をしたりと、思い思いの時間を過ごしていた。

そうしているうちに、一行はセントアーク駅に到着し、列車を降りた。

駅から出ると、誰からとなしに視界に飛び込んできた光景に声を漏らしていた。

 

「ほぅ」

「ふむ」

「へぇ……」

「これは……」

「なるほど、セントアーク……"白亜の都"の異名は伊達じゃないか」

 

彼らの目に飛び込んできたものは、ややくすんではいるものの、白く美しい街並みだった。

"芸術の都"とも呼ばれるセントアークは、暗黒時代、首都ヘイムダルが暗黒竜によって死の都と化したとき、時の皇帝アストリウスⅡ世が残った民草とともに仮の都として移ったことがある都だ。

当時の街並みは、それこそ"白亜の都"と呼ぶにふさわしい、白く輝く街だったらしい。

 

「かすかだけど、ヴァイオリンの音が聞こえてくるな」

「誰かがヴァイオリンに興じているのだろう。さすが、芸術の都というところか」

「演奏会とかもやるのかな?」

「さて、そこまではわからんな」

 

少しばかり目を輝かせながら、そう問いかけるエリオットに、ルオンは苦笑を浮かべた。

だが、それよりもまず決めなければならないことがある。

 

「で、実習中の宿泊先ってどうなってるんだ?」

「もしかして、自分たちで探す、なんてことないよね?」

「……実習の案内には特に何も書かれていないが」

「……てことは最悪野宿もあり得る、か?」

「いくらなんでもそれは少し厳しくない?」

「失礼します。トールズ士官学院Ⅶ組の方々でしょうか?」

 

ルオンの言葉にアリサが苦笑を浮かべながら返すと、突然、駅員が声をかけてきた。

駅員のほうへ振り向き、ラウラがその通りだ、と答えると、駅員は一枚の封筒を手渡してきた。

 

「先日、士官学院から送られてきた封筒です。駅に到着したら手渡してほしい、と頼まれていました」

「なるほど。ありがとうございます」

 

ルオンが駅員に礼を言って封筒を受け取ると、中身を取り出した。

封筒の中身は、宿泊先となるホテルの名前と部屋番号、そして、実習の課題を預けている人物の住所が記されたメモがあった。

 

「どうやら、野宿は避けられそうだな」

「教官、いつの間に送ってたんだ、こんなの……」

「ほんと、謎よね……」

 

いつの間にか用意されていたメモに、サラの行動の速さをうかがい知ったラウラたちは、サラに関してさらに謎めいた部分が強くなったことに、感心よりもむしろ呆れていた。

そんな中で平静さを保っていたガイウスは、同じく平静さを保っていたルオンに質問をぶつけてきた。

 

「ルオン、お前は知っていたのか?」

「いんや。何かしら送ってくるかな、とは思ってたけど……逆に聞くけど、なんでそう思った?」

「先日の実力テストもそうだったが、オリエンテーリングの時も、お前はどこか教官に対してどこか親しそうだったからな」

 

別段、隠しているつもりはなかったし、隠すつもりもなかったが、今までエマ以外は誰も聞いてこなかったので、当然といえば当然の疑問だった。

だが、こればかりは話せば少し長くなると判断したルオンは、夜になったら話す、と返し、了承してもらった。

その後、ルオンたちB班は宿となるホテルへと向かい、荷解きをした後、今回の実習の課題を取り扱うことになっている人物、パトリック・ハイアームズの父、フェルナン・ハイアームズ侯の屋敷へと向かった。

 

------------

 

屋敷に赴くと、メイド長を名乗る女性に案内され、ルオンたちはハイアームズ侯の執務室まで通された。

執務室の奥には、穏やかそうな印象を受ける壮年の男がいた。

 

「フェルナン様、トールズ士官学院Ⅶ組の皆様をお連れしました」

「あぁ、ありがとう、リーゼ」

 

フェルナン侯がリーゼと呼んだメイド長に礼を言うと、リーゼは一礼して退室した。

リーゼが退室すると、フェルナン侯は椅子から立ち上がり、ルオンたちの前に歩み寄ってきた。

 

「セントアークへようこそ、トールズ士官学院Ⅶ組の諸君。私は拙いながら領主を務めさせてもらっている、フェルナン・ハイアームズだ。パトリックが世話になっているようだね」

「……あぁ、パトリックの父君でしたか」

 

ハイアームズ、という家名に聞き覚えがあったルオンは思わずそうつぶやいた。

実のところ、ルオンはパトリックがあまり好きではない。

何かにつけて身分を傘にする態度が面白くない、ということもあるが、貴族であることが特別であると錯覚していることが、何より、気に入らないのだ。

 

「ははは、その顔を見るに、やはりパトリックとすれ違いがあるようだが、あれももう少し世間を知るべきころだからね。是非とも議論を重ねる相手になってほしい」

「恐縮です」

 

四大名門の一角を担う人物に対して、まったく緊張した様子を見せることなく言葉を交わしているルオンに驚愕したように目を丸くするアリサとエリオットだったが、一連のやり取りが終わると、ハイアームズ侯から実習課題を手渡されると、すぐにその表情は変わった。

 

「私の方でいくつか見繕っておいた。むろん、目を通しはしたが何かしらの漏れがあるかもしれない……それと、課題とは関係ないのだが、最近、奇妙な魔獣が目撃されることがあるとの報告が入っている」

「奇妙な魔獣、ですか?」

「あぁ。なんでも、機械のような魔獣らしい。十分に気をつけてくれ」

 

アリサの質問に、ハイアームズ侯が神妙な面持ちで返し、注意を促してきた。

ハイアームズ侯も気遣ってくれている、ということなのだろう。

 

「御忠告、ありがとうございます」

「では、我々はそろそろ」

「あぁ。頑張ってくれたまえ。この実習が君たちの糧になることを祈っているよ」

 

忠告に感謝し、立ち去ろうとするルオンたちに、ハイアームズ侯は穏やかな笑みを浮かべてそう告げた。


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