星の軌跡   作:風森斗真

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実習初日 6、《樹精の涙》探しと謎の魔獣

イストミア大森林を抜けて、ルオンたちは次なる課題である「樹精の涙」の採取に向かった。

樹精の涙、とは文字通り、樹液が固まることで生成される準貴石のことだ。

ダイヤモンドなどの貴石ほどではないが、それなりに価値があり、加工すれば樹液とは思えない輝きを放つのだという。

 

なお、これは知る人ぞ知ることなのだが、樹精の涙は東方では滋養強壮の薬としても重宝されている。

もっとも、正しい工程を経なければ、薬どころかただの下剤になりかねないのだが。

 

閑話休題(それはともかく)

 

ルオンたちは樹精の涙が生成されている可能性がある樹木を探して回っていた。

しかし、なかなかお目当てのものを見つけることができずにいた。

 

「う~ん……なかなか見つからないなぁ……」

「さすが、貴石にも負けない価値がある宝石よね……」

「あぁ……これはすこし骨が折れるぞ」

 

準貴石とはいえ、樹精の涙がダイヤモンドなどの貴石と引けを取らない理由は、その希少価値にある。

樹精の涙は生成される条件が厳しい上に、準貴石としての基準を満たしているものは圧倒的に少ないのだ。

 

――探査系の魔術を使えたら楽なんだけど……この場で使うのはなんかなぁ……

 

すでに何個目かわからなくなってきた古木の幹を調べながら、ルオンは探査系の(まじな)いを使いたくなってきていた。

だが、人前で滅多なことはしたくはない。

そもそも、ルオンがこれから使おうとしているのは導力器を介して発現する導力魔法ではなく、一部の特殊な血を継ぐものが操る異能。本来の意味での「魔法」だ。

滅多に人前で見せるものではない。

 

Ⅶ組のメンバーならば、秘密にしておいてほしい、と頼めば秘密にしてくれるだろうが、人の口には戸が立てられないし、壁に耳あり障子に目あり、という東方の言葉もある。

下手に使って妙な印象を抱かれるのは、正直に言ってごめんこうむりたい。

 

――けどまぁ、ダウジングくらいなら許容の範囲内、か?

 

ダウジングはオカルト、などと呼ばれているが、水脈を探したり水道管の破損箇所を探したりする際などで活用されている。

オカルトだからと言って馬鹿にしたものではない。

加えて、ダウジングというのは一種の占いのようなものだ。

エマのように誰かを癒したり、一種の暗示にかけたり、転移したりする魔術よりも、占術のほうが得意なルオンにとって、見つけたいものを見つけるのはお手の物。

実際に魔術を使うにしても、ダウジングで誤魔化せば"たまたま"で済ませて、うやむやにすることも可能だ。

 

――時間ももったいない……まぁ、あとのことはあとで考えよう

 

意を決して、ルオンはポーチから鎖につながれた青い宝石を取り出し、どこから取り寄せたのか、街道整備用に作られた拡大地図を広げた。

その行動を見ていたのはガイウスだけだったが、特になにも聞いては来なかったので、ひとまず放っておくことにした。

 

「風よ、我が求めるものを指し示せ」

 

鎖を握り、宝石を地図の上に垂らすと、ルオンは小声で東方の言葉を口にした。

その瞬間、宝石にわずかに光が灯ったが、すぐに消えてしまった。

そんなことは気にすることなく、ルオンはゆっくりと地図上に記された街道に沿うようにして手を動かした。

すると、街道沿いにある一本の古木のあたりで、宝石が急に右にくるくると回り始めた。

 

「……そこ、か」

 

ルオンはそう呟きながら、古木のほうへと向かっていき、丹念に調べ始めた。

すると、その古木の根元のあたりに何か光るものがあることに気付いた。

 

「見つけっと」

「見つかったか」

「あぁ。ばあ様から困ったときに使えって言われてた占いがまさか当たるとはな」

 

近くにいたガイウスからの問いかけに、ルオンはうなずいて返し、樹精の涙を取り出した。

それと同時に、方々に散っていたアリサたちも樹精の涙を見つけたらしい。

 

「案外、見つかりにくいものなのね」

「これじゃ、宝石と同じ価値があるのもうなずけるよ」

「まぁ、頼まれた数が見つかったからいいんじゃないか?」

 

それなりに労力は使ったが、ひとまず、頼まれた数の樹精の涙を採取することはできた。

分散して調べたことが功を奏し、それほど時間もかからなかったので、一行はそのまま指定魔獣の討伐へとむかった。

 

------------

 

樹精の涙を採取した場所を離れること数十分。

ルオンたちは大型魔獣が出現するというポイントに到着した。

その魔獣を見た瞬間、ルオンたちは固まった。

 

「ね、ねぇ……あれって、魔獣、なのかな?」

「どちらかといえば機械のような気が……」

「あぁ……だが、あれを魔獣と呼ぶのは少し違う気がするな」

「……生物、とは言い難いな」

「しかし、あのような機械、少なくともわたしは見たことがないぞ」

 

口から出てくる言葉こそ違うが、思っていることは同じ。

果たして、目の前にいるあれは魔獣と呼んでいいのだろうか。

ただそれだけだ。

だが、いつまでもここにいるわけにもいかないし、今後も被害者が出るかもしれないということを考えれば、そっとしておく、という選択肢はないし、何より、必須課題なのだから討伐しないわけにはいかない。

 

「総員、準備は?」

「いつでも」

「大丈夫だ」

「オーケーよ」

「が、頑張るよ」

 

それぞれの得物を構え、ルオンの問いかけにうなずいて返すと、ルオンは自身に気合を入れる意味も込めて、号令をかけた。

 

「よし……Ⅶ組B班、これより指定魔獣の討伐を開始する!相手の能力は未知数だ!十分注意してかかれ!!」

『応っ!!』

 

ルオンの号令に答え、B班は機械魔獣の前に飛び出していった。

 


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